正月のお雑煮から始まって一年中白味噌を愛用している京都出身の調味料研究家・松本葉子です。
麹の甘さが生きた白味噌を使えば、ぬたがとても簡単に作れて、しかもはんなり上品な味わいに仕上がるんです。
京都では昔からひな祭りの料理として用いられる風雅なぬた・おてっぱいを作ってみませんか?

上質の白味噌と酢を使えば混ぜるだけで、ぬたのベース・酢味噌が完成!

「ぬた」は、「ぬたあえ」「ぬたなます」ともいい、あまり使いませんが漢字もあります。特徴的な材料を使う郷土料理のぬたもありますが、現代においてはおおむね酢味噌和えと同様に考えてよいでしょう。また白味噌を使う料理としてもぬたは人気のある一品です。

ぬたの味の決め手となる酢味噌ですが、簡単においしい酢味噌を作る方法があります。それは、麹をたくさん使って作ったコクのある甘みの白味噌と柔らかな味わいの米酢を使うこと。

酢味噌は材料がシンプルな分、材料によってかなり味に差がでるのですが、そのまま舐めておいしい!と感じる白味噌と酢を使えば、混ぜるだけでとびっきりの酢味噌ができます。

白味噌についての過去記事はこちら

実は食べ方自由自在! こっくり甘やかな京都の白味噌を常備しませんか?

といってもあまり高価なものは家庭の普段使いには無理があるので、私自身は、九重味噌の「極上白味噌」と村山造酢の「千鳥酢」を使っています。

和える材料によっては溶き辛子を加えることもありますが、普段は白味噌と酢を混ぜるだけ。分量もかなり適当です。

まず「このくらいの量の酢味噌ができたらいいな」と思う量の8割くらいの白味噌をボウルに入れ、そこに酢を少しずつ足していきます。あとはなめらかになり艶がでるまでただただ混ぜれば完成~。

麹の甘みが効いた白味噌を使えば砂糖は不要なので、熱を加えて練らなくても舌触りなめらかに仕上がります。超カンタンだけどおいしい酢味噌、一度試してみてください。

京都のひな祭り料理「おてっぱい」の由来は?

京都のひな人形は飾り方が関東とは逆だったりします。男雛が向かって右、女雛が左で、これは御所の即位式典の形に準じているのだとか。

子どもの頃は、この飾り方も、ひな祭りに「おてっぱい」が食卓に上がるのも日本共通だと思っていましたが、そうではないんですね。

で、この「おてっぱい」ですが、酢味噌和えの別名「てっぱい」に「お」がついたものなのでしょうね。「てっぱい」は鉄砲和えが転じた言葉といわれていて、その語源もいろいろあってはっきりしないようです。

ただ今回の記事を書くにあたって京都の料理人さん数人に尋ねてみたところ共通して返ってきた答えは「わけぎを調理する時にパンっと鉄砲みたいな音がするから」という説。私自身もこれが語源だと思っていました。

わけぎを茹でると中の空気が膨らむので、料理店ではこれを麺棒などでのしますが、この時に端まで寄せられた空気でわけぎが弾けて音がします。指でも試せますよ。

京のおばんざい、おてっぱいを作ってみよう

ひな祭り用のおてっぱいには、わけぎと貝を使います。貝は赤貝やトリ貝、あさりなど。普段のおかずとしては、わけぎの代わりに九条ネギや菜の花など、貝の代わりにイカや油揚げを使うことも多いです。ただ、京都では、他の地方でみるようなマグロやいわしなどはまず使いません。

以下の3つの構成材料を自由に組み合わせてみてください。

<おてっぱいの材料>
・酢味噌(白味噌+米酢、溶き辛子)
・緑の野菜(わけぎか九条ネギ、のびる、菜の花、水菜など)
・赤貝、トリ貝、あさり、あおやぎ、いか、油揚げ など

<わけぎの使い方>
わけぎは普通の青ネギや細ネギとは違い、根元が膨らんでいるのが特徴の野菜で、主に西日本で栽培されています。左がわけぎ、右が細ネギです。

沸騰した塩水で軽くゆでますが、根元が太いので根元から鍋にいれ、しんなりしたら全体をお湯に浸けます。

ゆでると中の空気が膨張してぱんぱんになってきます。ゆでたらすぐ冷水にとると、熱が入りすぎることが防げ、色止めにもなります。

<具の下処理ポイント>

貝やイカなどを使う時は、軽く塩ゆで、あるいは酒蒸しにするか、刺身用のものを用いる時は酢で洗って水気を拭いてから使うと、クセや生臭みを消せます。

下の写真のイカは、左上が生のまま、右上が塩ゆでしたもの、下が酢洗いしたものです。酢洗いするとぬめりがとれ、生の食感は残したまますっきりした仕上がりになります。

油揚げを使う時は、軽く焦げ目がつくまであぶってから熱湯をかけて油抜きして使うのが基本。このひと手間でぐっと味が洗練されます。ただし、質の良い油で揚げた新鮮な油揚げの場合は、あぶってパリパリにしたものを使うのも香ばしくておすすめです。

ひな祭りの膳に用いるおてっぱいは、子どもが食べやすいように、辛子を使わず、白味噌の甘みが少ない時は砂糖や水飴、蜂蜜などを少し加えて作るのもよいでしょう。

貝のおてっぱいのほか、京都のひな祭りでは、ばらずし(ちらし寿司)、はまぐりの汁、身しじみの煮物、そしてこれまた不思議な形をした和菓子「ひちぎり」なども定番です。

いつものぬたを、京都の味「おてっぱい」にして、歳時記の和食を楽しんでみませんか?

■商品情報
九重味噌「極上白味噌」
村山造酢「千鳥酢」

■出典
ぬた:小学館「デジタル大辞泉」
わけぎ:NHK出版「みんなの趣味の園芸」

ひな祭りの膳から。おてっぱいと雛あられ、白酒