博多雑煮は、海の幸と山の幸を具材としてふんだんに使い、トビウオの干物「焼きアゴ」で出汁(ダシ)をとる贅沢なお雑煮です。博多は商人の街として栄えました。博多雑煮の具は、商人同士の見栄の張り合いもあって、どんどん豪華になっていったと言われています。

博多雑煮の作り方

福岡で生まれ育った私は、毎年、母の作る博多雑煮を楽しみにしていました。

お正月のおせち料理やお雑煮の買い出しは、11月下旬から始まります。商店街の「誓文払い」で、焼きアゴ、昆布、数の子などを少しずつ買い揃えます。「誓文払い」(せいもんばらい)とは、博多商人の古くからの催事の一つで、商店街は今でもセールを行います。

年末が迫るにつれて、天然のぶりや車海老などを求めて、魚市場や魚屋をあちこち訪れるのが年中行事でした。

博多雑煮は、各家庭で具材が少しずつ異なります。あら(クエ)、ぶり(鰤)、車えび、カツオ菜、蛤(はまぐり)、里芋、人参、大根、蓮根(れんこん)、しいたけ、たけのこ、(ぎんなん)、ゆず、結び昆布などを使います。仕上げに「縁起飾り」として、昆布とするめをあしらいます。

博多雑煮の面白いのは、これだけ豪華な具材を入れつつ、具材の出汁はほとんど使わず、アゴ出汁で味つけをするところです。家庭料理では、和食の汁物でも洋風のスープでも、具材の出汁を利用して、味つけすることが普通ですよね。ですが博多雑煮はそうしません。全ての具材をアゴの2番出汁で湯がいて、最後に一番出汁をかけて仕上げます。

あご出汁(6人前)

【材料】
焼きアゴ:3本
羅臼昆布:7cm角
乾燥シイタケ:6個
薄口しょう油:大さじ3
酒:少々

【作り方】
1.博多雑煮の決め手は、なんといっても豪華な具材とアゴ出汁です。前回のコラムでも触れましたが、アゴ出汁は博多雑煮には欠かせません。芳醇な香りで食欲をそそり、「アゴも落ちる」ほどだとよく言われます。まず、焼きアゴを二つに折って、昆布とともに一日(24時間)以上、水(1.8ℓ)につけます。昆布は入れすぎないようにしましょう。アゴは、大きめの方がしっかりした味になります。

2.乾燥シイタケは、別の容器で500㏄の水につけ、一晩戻します。シイタケが戻ったら火にかけ、鐏(いしずき)を外し飾り切りに。出汁はザルとガーゼで濾します。

3.(1)の鍋に火を入れ、湯気が上がってきたら昆布は鍋から出します。アゴは沸騰させずコトコトと煮出します。香りが登ってきたら、濾します。焼きクズが付きますので、のりの着いていない医療用ガーゼ(ドラックストアで売っています)を使い捨てにして濾すと便利です。2番出汁も引きますので、別の鍋にアゴを戻して再び火にかけましょう。

4.1番出汁に、シイタケ出汁を好みの割合で合わせます。我が家ではアゴ出汁に対し20%弱ほどのシイタケ出汁を使っています。薄くち醤油大さじ3、酒少々で薄めに味つけをします。(酒を入れすぎると苦味が出ますので注意)

具材を煮る

博多雑煮の具材は、それぞれに縁起物の言われがあります。お魚のぶりやアラはそれぞれに出世魚で、育つにつれて名前が変化していきます。かつお菜は「勝男菜」、するめは「寿留女」と当て字をします。また丸餅は、年神様の御魂(みたま)が宿っており、昔はお年玉に丸もちを配っていたそうです。確かに、神社のお祭りで餅まきをしている風景は、よく見かけます

5.ぶり:天然ものが良いでしょう。一切れずつ塩を振って、キッチンペーパーで包んでおきます。出汁は薄味ですので、塩はしっかりめに。
大根・人参・ゆず:大根は、亀の甲羅のかたち六角形に。人参は、梅や菊の姿に。ゆずは切れ込みを入れ三角に。それぞれ飾り切りにします。
里芋・かつお菜・銀杏:2番出しではなく、塩で下茹でしてください。食べる前に2番出汁で温めます。
ささみ:一口大に。

6.2番出汁で炊きます。お好みですが、2番出汁に醤油味をつけて煮ると、それぞれの具材の味がしっかりします。汁がにごりにくい野菜から順に火を通し、最後にブリや海老を茹でましょう。餅は別の鍋で茹でます。

7.具だくさんのお雑煮は盛り付けが大変です。お椀の底に大根をしき、うえに餅を載せます。餅を囲むように、かつお菜、シイタケ、ささ身、里芋を飾り、ブリやエビは真ん中に。銀杏や人参で仕上げをすると綺麗です。

栗はい箸と、我が家のお正月

私の生まれ育った家は、小さな海辺の一軒家です。夏になると潮の香りが周囲にただようほど、海は身近な場所です。小さな漁港がいくつかあり、水揚げされたばかりの魚を見に行くのが楽しみでした。

特にお正月の買い物は、年に一度の大盤振る舞い!と気合いを入れる父に付き添い、品定めの手ほどきを受けました。腹の厚み、脂の乗り具合、背の美しさ、目の鮮度の確認が重要だと習いました。「お頭はあら炊きにしようか」(ほっぺたと目の周りは私のもの!)、「カマは塩焼きかな」、「新鮮なうちに、この部分はお刺身にしようよ」。道中のお喋りもとても楽しい思い出です。

庭には「はらん」「紅なんてん」「楓」など料理の飾りに使う植物を育てていました。おせち料理を重箱に詰めると、庭の植物をひと枝切って飾りつけます。

少し不恰好な「栗はい箸」は、昔からの博多の習慣です。博多雑煮専用の箸ですが、我が家では、おせちの取り分け用にも使っていました。適当な栗の小枝をとってきて、両端を削り手作りしていたそうです。栗はい箸に限らず、お正月のお箸は両端が細くなっています。祝箸とも言いますが、片方は自分が食べるため、もう片方は神様が食べるためです。「神人共用」を意味しています。

元旦は、年神様をお迎えする日です。

家族やご先祖様とともに、そして日本の万物に宿る神様とともに、お正月の習慣を一つ一つ見つめなおせば、より一層美味しくいただける気がします。