こんにちは!日本酒学講師の大越です。これまでも日本酒の楽しみ方やお酒にまつわるお話をして参りましたが、皆さんはお酒を選ぶとき「何を」基準にして選んでいますか? 私は毎日、酒屋の店頭でお客様の好みにあった日本酒をお薦めしていますが、いつもご質問をいただくのが日本酒の「甘口・辛口」についてです。
ほとんどのお客様が「辛口のお酒をください」とおっしゃいます。うーん、実はこれがいちばん困ってしまいます。日本酒を「甘辛」だけで選ぶのは、とてももったいない選び方なのです。前回の特定名称酒の選び方に続き、今回は味わいによる選び方についてお話しします。

今日から脱「辛口が好きです」

まず、日本酒の香味は、「香りの軸」と「味わいの軸」で大きく4タイプに分かれます(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会提唱)。

例えば、香りが高く味わいが濃くないものは吟醸酒系の【薫酒】(くんしゅ)タイプ。香りが弱く味わいが濃厚なものは純米酒系の【醇酒】(じゅんしゅ)タイプになります。

吟醸酒や純米酒の違いについては、前回の特定名称酒についての記事をご覧ください。

新年に知っておきたい純米酒・本醸造酒・吟醸酒の違い

「辛口」といっても、すっきりした味わいを指す方もいれば、力強さのあるものを指す方もいらっしゃいますし、人によって辛さの加減も異なりますね。まして、普通酒のように醸造アルコールが大量に添加されたものは、アルコールの刺激で辛く感じたりする場合もあります。

単純に「甘辛」ではなく、「今日飲みたいものは、この4タイプのどのお酒か?」を考えるようになると、自ずと好みの味わいに近づけます。

グラスの形状や酒器の材質、そして温度でも日本酒の味わいは大きく変わります

次に選ぶのは、グラスの形状や材質です。同じ日本酒でも、グラスの形状や材質によって、味わいは大きく変わります。

例えば、下の写真の真ん中にある、口径が小さくすらっとしたスリムな形状だと、日本酒の味わいはすっきりと淡麗に感じます。このタイプは、より淡麗に味わうために、冷やして飲用することが多いですね。

また、右のグラスのように大きな膨らみがある形状だと、空気に触れる部分が多いため、味わいがまろやかに変化します。

香りはグラスの膨らみの部分でいったん広がった後、口径部分でつぼんでいるので、純米酒系のお米の甘い香りや吟醸酒系のフルーティーな香りが楽しめます。この場合、純米酒系は常温で、吟醸酒系はやや冷やすか常温で味わいをじっくり楽しめるでしょう。

また、材質が陶器の場合は、さらに味わいに深みが出てきます。4タイプの中なら【醇酒】がお薦めですね。

ラベルにある「日本酒度」の数値はあくまで目安程度に

このように、甘口、辛口だけでは分類できないのが日本酒です。そうは言っても、よく裏ラベルに書かれている「日本酒度」を目安にされる方も多いと思います。

実はあの数値、飲む方にアドバイスした甘辛表記ではなく、醸造過程において発酵後のもろみの中のエキス分を測る測定器「日本酒度計」の数値です。

エキス分の大半はお米と麹による糖分が占めていますので、比重が大きいものは糖分が多く「マイナス」表示、糖分が少ないものは比重が少ないため「プラス」表記となり、発酵後にもろみを絞るタイミングなどの目安になります。

ですので、私たち飲み手にとって感じる甘辛とは意味合いが異なるため、あくまで目安程度に捉えてください。

人によって感じる甘辛は千差万別です。酒器の形状や材質、温度とともに、一緒にいただくお料理によっても異なります。ぜひ、あまり「甘辛」にこだわらずに、さまざまな日本酒の味わいを堪能していただければと思います。