こんにちは!日本酒学講師の大越です。私の日本酒セミナーではまず日本酒の素晴らしい魅力について10話ほどお話しします。そのなかのひとつが「四季折々の日本酒の味わい」です。世界中のお酒のなかで四季折々でそれぞれの味わいが楽しめるのは日本酒だけなのです!
え?日本酒っていつも同じ味ではないの?と思う方も多いと思いますが、例えば日本酒のラベルで見かける『新酒』『かすみ酒』『夏生』『ひやおろし』などの言葉は、季節のお酒を意味しています。今回はいまちょうど酒屋さんの店頭に並び始めた『夏の生酒』についてお話ししましょう。

“新酒”が成長し、新緑が芽吹くころ出荷されるのが“夏の生酒”です

晩秋に収穫されたお米から日本酒造りは始まります。そこからおよそ三か月強をかけて産声をあげるできたての日本酒、それが『新酒』『しぼりたて』とよばれます。味わいもまだ若く、フレッシュさがあるのが特徴です。そこから少しづつ味わいの成長が始まるのです。

桃のお節句ごろには、新酒の状態からもう少し味わいが成長します。オリが少しかすんだように見える『かすみ酒』『おりがらみ』など春ならではの日本酒が出回ります。フレッシュな味わいだった新酒からカドがとれて、やさしい味わいが楽しめます。

そして季節が過ぎ、味わいもまた少しづつ成長してゆきます。新緑が芽生え初夏を迎える今の季節に出荷されるのが『夏の生酒』なのです。

この時期、酒屋のリーチインには「生」の文字がある日本酒が多くなります

“生酒”ってどんなお酒なの?

ではどうして『生』という文字を使うのでしょうか? 生酒と書かれている日本酒は、すべて出荷時から冷蔵状態で管理されています。なぜ冷やすのか? それは出来立てのタンクのなかは、まだ生きた「酵母」君が残っているから。

酵母はアルコール発酵に欠かせない生きた微生物です。発酵が終わってもタンクのなかに潜んでいるので、通常は「火入れ」(ひいれ)という熱を加えて酵母を死滅させる作業を二回行い、瓶詰めされ出荷されます。それを二回とも行わず、低温で熟成しフレッシュな味わいを残したままにするのが『生酒』なのです。

このときに冷やしておかないと生きている酵母が活動してしまい、味わいのバランスを狂わせてしまいます。ですので、蔵元さんの出荷時から酒屋さんの店頭に並び、飲み手の手元に届くまで、必ず「冷蔵管理」をさせなければなりません。火入れをしないお酒に『生』という文字を付けます。

冷酒とは冷たい状態で飲む日本酒を指します

生貯蔵酒・本生・生詰め・・・『生』でもいろいろあります

実は『生』は生でもいくつかの種類があります。前記で通常の日本酒は二回の火入れをします、と説明しましたが、それを二回とも行わないのが『生酒』『本生』『生生』と表示されているものです。

ほかにも『生貯蔵酒』とラベルにある小さな小瓶の日本酒を見かけませんか?これは二回のうち、一回目の火入れはせず“生のまま貯蔵”し、二回目に行う出荷直前の火入れだけをして瓶詰めされたものです。

また『生詰め』とラベルに書かれていたら一回目の火入れは通常通り行い、出荷時の火入れをせずに“生のまま詰めた”ものになります。秋のひやおろしなどはこの生詰めが多いですね。

いずれも完璧な火入れをしない日本酒ですので、保存管理は必ず冷蔵にします。流通段階で冷蔵管理ができるいまの時代だからこその日本酒ですね。

これから夏に向けて、続々と夏の生酒が出荷されます。ぜひおいしい生酒と出会ってください。飲み方は冷やではもちろん、ロックでも楽しめますよ! 汗ばむ季節はペリエなどの炭酸で割って日本酒ハイボールもおすすめです!