もともと東南アジアの魚醤が好きでしたが、最近は日本の魚醤に興味津々の調味料研究家・松本葉子です。タイ料理でおなじみのナンプラーや、ベトナムのニョクマム、秋田のしょっつるといった魚醤は、魚を塩漬にして発酵・熟成させて作ります。独特の風味が大好き、臭いがどうしてもダメ、と好みが分かれる調味料といえるでしょう。
でも実は日本には、とっても使いやすくて、ほんの少し使うだけで料理をとびっきり美味しくしてくれる魚醤がいくつもあるんです!今回はそんなニッポンの魚醤とその使い方をご紹介したいと思います。

地どれの魚が原料だから風味もいろいろ、オモシロイ

日本の魚醤では、なんといっても秋田のしょっつる(原料はハタハタ)や能登のいしる(原料はイワシやサバなど)・いしり(原料はイカの内臓)が有名で、郷土料理には欠かせない調味料です。

ですが、他の地方にもさまざまな魚醤があります。

上の写真は、現在わたしが使っている日本の魚醤。それぞれ個性的な味なので面白がって集めていたらどんどん増えました。

この9本の原料は、左からサバ、鮎、うに、サンマ、甘エビ、ほたるいか、鮎、ホタテ、鮭。
実はこのうち、ほたるいか魚醤以外はかなりクセが少ない魚醤です。しょっつるやナンプラーが苦手でもこのあたりの魚醤なら美味しく感じる方も多いと思いますよ。

近年は魚醤の素晴らしさが見直されてきて新しい魚醤も続々登場しています。

特に北海道では、写真の甘エビ、鮭、うに、サンマのほか、キンキ、イカナゴ、ホッキなどなんと30種類以上の魚醤が作られていて、北海道産魚醤の統一ブランド「雪ひしお」もできています。北海道旅行のおみやげに魚醤いろいろなんていうのも楽しそうですね。

魚醤を選ぶ時は3つのポイントをチェック

驚くほど多くの種類がある日本の魚醤。あれこれ味見して好みのものを購入したいところですが、なかなかそうもいきません。そんな時に参考にしたいのが次の3つのポイントです。

1)原料の魚介類はなにか

魚醤は発酵・熟成して作られるので必ずしも元の魚介類の風味がそのまま残っているわけではありません。しかし、イカやエビ類は比較的風味が残るので、好き嫌いが分かれるところです。特にイカ類は塩辛をイメージしてみると良いかもしれません。

逆にサバやサンマなどの青魚は思いのほかクセがないものが多いです。

2)魚介と塩以外の材料は使われているか

魚介と塩のみで作るのが魚醤の基本ですが、日本の魚醤の原材料を調べると、醤油と同様の大豆・小麦を使っているもの、米麹を使っているものがあります。これは仕上がりの色に関係します。

わたしが調べたところでは、塩のみ使っているものは薄く、米麹を使っているものは濃色。大豆・小麦を使っているものはその中間でした。

3)独自のアピールポイントがあるか

例えば、ほたて魚醤にはほたてと同じ青森産のりんご果汁が使われていますし、ほたるいか魚醤に使われている大豆・小麦は但馬産と明記されています。

福むらさきはサバが原料の魚醤ですが、速醸魚醤という技術を使っていてアルコールが0%なのでハラール認証を受けています。

魚醤を使っていつもの料理をぐ~んと美味しくする

魚醤は一般の醤油と同様に、つけ醤油・かけ醤油としても使えます。でも、本当に実力を発揮するのは「隠し味」に使った時。

魚由来の旨み成分(グルタミン酸、イノシン酸など)がきわめて豊富な魚醤は、使いすぎるとしつこさが後に残ってしまいがち。塩味(醤油味)をつけるためではなく、少量加えて味わいをぐっと華やかにするのがおすすめです。たとえば…

焼き魚

生の切り身や干物を焼く前に魚醤をひと刷毛。旨みが増すだけでなく、焼き色も美しく仕上がります。
照り焼きのたれに加えるのもいいですよ。

煮物・麺類

肉じゃがや筑前煮などの煮物、あるいはうどんやラーメンのスープに加えるのもおすすめです。「醤油で味つけ+少量の魚醤で風味づけ」が基本です。

鍋つゆに加えるのも効果大。寄せ鍋や魚介の鍋はもちろん、豚のつゆしゃぶも魚醤を少し加えるとぐっと美味しくなりますよ。

ご飯・パスタ

海鮮丼のたれに加えたり、たまごかけご飯に使うのも良いですが、焼きおにぎりやチャーハンなど熱を加える料理に使うと魚醤特有のクセが和らぎ旨み効果がよくわかります。

パスタの隠し味にも魚醤はおすすめ。魚介のパスタはもちろんのこと、トマトソースにもほんの少し加えるとコクが深まります。

リメイク&簡単オードブルも魚醤におまかせ

残りものや常備食材で一品を作りたい時にも魚醤が便利。素材と同じ原料を使った魚醤を使うと味わいが鮮やかになります。

残ったサンマの塩焼きで作るワインに合う前菜

サンマのほぐし身と角切りにして茹でたじゃがいもを、マヨネーズにサンマ魚醤少々とすだち汁(レモン汁でも)を混ぜたもので和えます。写真はコンソメジュレの上にのせました。

リメイクやひと味足りない時には小さじ1杯の魚醤が救世主

・焼鮭をほぐして鮭魚醤で和える。
・イカの刺身をイカ魚醤で和える。
・半熟卵にうに魚醤をたらす。

魚醤をほんの少し加えるだけで味わいが俄然華やかになることに驚かされるはず。
どれも酒肴としてはもちろん、ご飯にも良く合いますよ。

ニッポンの魚醤の実力をお試しあれ!

いろいろな料理を美味しくしてくれる魚醤。個性豊かなニッポンの魚醤を使えば誰でも簡単に料理上手になれちゃいます。

ただし、くれぐれも使いすぎにはご注意を。食べる人に「これ魚醤を使ってるの?」って感じさせたら<使いすぎ>。使う時はごく少量からどうぞ。

魚醤の便利さに気づくと、我が家のようにキッチンに魚醤の瓶がどんどん増えてしまうかも。でもそれもまた楽しいですよ~。