舌診(ぜっしん)を身体の診断に大いに活用しているのは中医学(漢方)だ。中国では6世紀の唐代から舌診が広く行われるようになったという。そのころから、インドやアラビアとの交流が盛んになり、医学面でも影響を受けたらしい。特にアラビア医学は現代医学に通じる要素を持っていることを考えると興味深い。

舌診のチェックポイントは

大まかには舌質と舌苔に分けて、それぞれについて形態と色を観察する。それによって、裏表(病理が体表に現れているのか、内臓まで進んでいるのか)・寒熱(冷えているのか、熱がこもっているのか)・気血水(エネルギー・血液・水分それぞれの状態)などが、分かってくる。裏、つまり内臓の状態を診断するために優れており、特に消化器系の上部の状態がよく反映される。消化器系の下部の状態については排便の状態と合わせる。

毎日チェックしてほぼ変わらない項目に関しては、ここ数年自分が抱えている体質であり、きょう特別のものであれば本日の体調であると考えていい。専門知識のない私たちでも自分でいまの状態を知ることができるよう、チェックのポイントとよくありがちなパターンを中医学専門の北京首都医科大学・叢法滋(そうほうじ)教授に聞いた。

「舌診のポイントとしては、舌全体の色と形、それから舌の苔の色や厚さ、この4点を見ていきます。大まかにいうと色は寒熱を、形や状態は水分の状態を示します」。

舌色

まず舌全体の色から。これは主に寒熱の状態を表す。「青舌から淡白色、淡紅色、紅色、深紅色になるにつれ、寒から熱への変化を示します」。正常な舌はやや赤みがある淡紅色という。冷え性ぎみだとそれよりも白っぽく、逆に熱が身体にこもっていれば赤みが強くなっていく。

「寒熱とは別の方向で、 血(おけつ)という血の流れが悪くなっている状態も色に現れます。これは暗い感じで、ひどくなると紫色っぽくなります。また、血が足りない状態でも白っぽくなります」。

舌形

次に舌の形。これは水分の状態を表す。「痩せた薄い舌は血や水の不足。逆に肥大した舌は水分が溜まって長期化したことを表します。また周辺にギザギザの凹凸があるのはこれは歯型がついているから。身体に溜まった水分で膨張したことでできます」。そうはいっても舌の形は生まれつきのものもあるので、個人差は考慮にいれたいとのことだ。

苔の色

「苔の色も寒熱の状態を表す。寒から熱に向かって白色から黄色、褐色へと変化します」。苔の色の変化は舌自体の色よりもやや遅れて表れるので、例えば「紅舌なのに白苔」の場合は、早くに表れた舌質の方の情報をとって、熱と考えた方がいい。また、苔の色はコーヒーやワインなどの嗜好品・食品で一時的に染まっていることもあるので、注意したい。

苔の状態

「厚い苔や湿った苔は水分が溜まっている証拠。苔が少なかったり乾燥した状態、あるいはまったく苔がない状態は体液が不足している証拠」。

シミ、斑、紫舌

「いずれも血の巡りが悪い 血の状態を表し、この順に症状は重くなります。舌の裏側に静脈の怒張がみられればより確実です」

中医学で見る4つのパターン

舌に関しての色・形・血液・水分の状態の概略は分かった。それでは、その状態がどういう問題を生むのか、中医学の考え方と現代医学の病名との両方で教えてもらおう。どうすれば問題を解決できるのか、食を中心にした生活術も合わせ見ていきたい。

「病気とは無縁の正常な舌質はピンク色、苔は薄白色。子供の舌はこんな感じです。でも、多くの大人は多少そうした中庸の状態から傾きがち。よくありがちな4つのパターンを上げてみましょう」。

【陽虚・ようきょ】ジメジメした苔が生えている岩のよう。基礎体力に乏しい

「身体の気(エネルギー)が足りない状態を中医学で『気虚』といいますが、『陽虚』はさらにそれが進んで水分も抱え、冷えも入ってしまった状態。寒がりの人、冷え性の人ですね」。舌質は色が淡くてギザギザの歯型がつきやすい。重症になると真っ白な苔になる。冷たい水が流れる岩の上にはジメジメした苔が生えますね。そんな感じです」。

対処法としては、「まず冷たいものは控えて。代わりに温かいお茶を飲んで下さい。生姜・ニンニク・コショウ・香辛料などを使って身体を温めて。朝鮮人参のお茶、至宝三鞭丸(しほうさんべんがん)・参茸補血丸(さんじょうほけつがん)などの漢方薬も有効です」。基礎体力に乏しく、特にこれから冬に向かっては風邪をひきやすいので気をつける。

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【陰虚・いんきょ】カラカラに乾いた大地のよう。高血圧・糖尿病のタイプ

「『陰虚』とは身体の水分、つまり体液が足りない状態です。舌に苔がなくなって、赤い色になる。横にひび割れたようなシワが走ることもある。カラカラに乾いた大地のイメージです。こういう舌を持つ人は、高血圧・糖尿病・慢性腎炎や甲状腺機能低下など慢性の病気にかかっている可能性が高い。みんな体液不足による身体の消耗性の病気です」。

対処法としては「水分をたくさんとるということではもはや治らない。ビタミンやミネラルなどの栄養素を取り入れなくてはダメ。野菜・果物・海草ですね」。特にスイカ・メロン・キュウリなどのウリ科の野菜や、ナス・山芋・ハスなどを取るといい。生姜やコショウなどの香辛料類は控える。漢方薬としては六味地黄丸(ろくみじおうがん)などの補陰剤。西洋人参(せいようにんじん)のお茶を飲む。

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【お血・おけつ】寒い日の紫唇が舌に現れたら。長く放っておけばがんリスクも

血液が汚れネバネバして流れが悪い状態が『お血』。「肉ばかり偏食している人などの血液は汚れて血行不良になっていることが多い。たくさん食べ過ぎてもなりますね。こういう人の舌は紫色になる。雪のすごく寒い日、唇が紫になったりするでしょう。あれと同じです。特に毛細血管の循環が悪いので、内臓もこの舌のような状態になっています。心筋梗塞・脳梗塞・がん、女性ならば婦人科の病気の恐れがあります」。がんは特に血液循環の悪い時間が長かった結果と考えられるという。

対処法としては、「まず油っこい物をやめる。肉の量は減らす。冷やすと血液循環が悪くなるので冷たいジュースなどは控える」。積極的に取るものとしてはネバネバのある山芋・ジャガイモ・里芋・納豆・ナメコ。そして青魚・豆腐・サンザシ・黒酢。サラダ油でなくオリーブオイルにする。コレステロールの高い場合は特に洋食を減らし和食に切り替える。漢方薬としては冠元顆粒(かんげんかりゅう)、お茶は晶三仙(しょうさんせん)など。

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【痰湿・たんしつ】卵白が焦げていくように。消化器系の疾患に発展

「『痰湿』とは身体の水分が溜まった状態。水分・脂肪の代謝が悪い時に現れる情報です。舌の色は淡く、苔は厚くて汚れてくる。歯型もある。新陳代謝が悪く、悪いものを出さないからですね。便秘もある場合が多い。食べ過ぎやお酒の飲み過ぎが原因です」。放っておくと消化器系疾患に発展します。

痰湿が進み熱を蓄えるようになると『湿熱』になる。痰湿の苔は白だが、湿熱になると黄色くなる。ちょうど卵白に熱を加えると最初は透明から白い色になり、それから黄色、焦げ茶と変化してくるのと同じだ。

対処法としては、「食品ではオレンジやその皮(陳皮)・シソの葉・梅・冬瓜・山芋。漢方薬としては温胆湯(うんたんとう)。健康食品では沙棘(さーじ)などの製品がいい」。

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◇百菜元気新聞の2001年11月10日号の記事を転載しました。