大河ドラマ「西郷どん!」が話題ですね。先日、「西郷どんの食」というテーマで、あるシンポジウムのコメンテーター役を務める機会がありました。歴史評伝作家や歴史学者の先生とご一緒させていただき、大変学びの多い場でした。

『西郷どん!』に登場する料理は

西郷隆盛の好物はなんといっても黒砂糖。幼少期は貧しく日々の食事をきちんととれないこともあったようですが、西郷どんは、その人柄と熱意で少しずつ出世します。島津藩の重要な役割を担い、江戸も訪れるようになります。

江戸で都会的な料理に触れた時もあれば、のちに奄美大島や喜界島に島流しになった時は地元の料理も食したでしょう。いろいろな場所でさまざまな食に親しんだ西郷どんですが、好物は甘いものだったようですね。

大河ドラマの原作となった林真理子さんの小説『西郷どん!』には、奄美大島時代の妻・愛加那(あいかな)の手料理として、豚肉入りのお粥や、甘藷(さつまいも)、黒砂糖のお菓子など栄養価の高そうな料理が登場します。また、奄美名物「鶏飯」も出てきます。

最悪の島流し先として描かれる喜界島でも、西郷どんは甘いお菓子を楽しんでいます。米粉・黒砂糖・卵を練って揚げたお菓子は、米粉を小麦粉に変えれば、沖縄で今でも愛されているサーターアンダギーと同じです。

九州の味付けはどこでも甘いというわけではありません。
また、甘さも地域ごとに少しずつ異なります

福岡県出身の私は、同じ九州といっても、鹿児島の食にあまり馴染みがありません。味付けが「甘い!」というイメージが真っ先に浮かびますが、それ以外は、「サツマイモ・黒豚・芋焼酎・さつまあげ・かるかんなどが有名かな?」「みりん代わりに使う赤酒や黒酢や黒焼酎など調味料も甘くコクがあるのが特徴」という程度しか知りませんでした。

同じ九州でも焼酎づくりが盛んな地域と日本酒づくりが盛んな地域があります。もともとは、稲作に向いた土地だったかということが関係しているようですが、現在では、農業や酒造の技術が進み、それほど地域性に縛られなくなっています。ですが、主に九州の南の方、宮崎や鹿児島、熊本の県南は、いまでも焼酎づくりの盛んな地域です。

料理が甘いのは、やはり鹿児島です。調味料も例外ではなく、鹿児島の醤油は甘いのです。「高価な砂糖を醤油に入れて隠し持っていたためではないか」という珍妙な説もあるようですが、鹿児島は、サトウキビ栽培が可能な沖縄との関わりが深かったからでしょう。

大分県は、瀬戸内文化圏と関わりが深かったためか、調味料や味付けはあまり甘くありません。福岡県は、他県の方に聞くと、うどんの出汁(だし)が甘いそうです。

鎖国中も外国との交流があった長崎は、卓袱(しっぽく)に代表される和洋折衷の料理や、中国からの影響が強い料理が目立ちます。こちらは甘いものと言っても、精製済みの砂糖が入って来た地域なので、料理というよりもお菓子によく砂糖を使うようですね。

一口に九州の食と言っても、各県ごとに食文化が少しずつ違うのです。

鹿児島の味を楽しむ!バーミキュラで作るとんこつレシピ

『西郷どん』が話題ですので、西郷隆盛の愛した「とんこつ」を作ってみました。いろいろなレシピを調べ何度か試しているうちに、砂糖と家庭料理との関係や、砂糖が外国からどのように伝わってきたかが分かり面白かったです。もちろん、焼酎を効かせた「とんこつ」の私なりのレシピもできました!

「とんこつ」は、豚のリブを黒砂糖のコクを効かせ、焼酎で炊いたものです。味付けは麦味噌。「とんこつ」というと、福岡県民の私にはラーメンしか思いつきません。いまだに、ちょっと不思議な感じがします。鹿児島で「とんこつ」というと鹿児島の郷土料理を指し、今でも鹿児島の家庭ではよく作られます。

とんこつのレシピはバラエティに富んでいますが、最近の傾向としては、「焼酎は控えめ、黒砂糖はたっぷり」のものが多いようです。

今回は私の好みで、少し昔風ですが、甘さを抑えて、焼酎の香りを効かせたレシピを紹介します。バーミキュラ(無水鉄鍋)で作りました。もちろん焼酎のアテとしてもよく合います。

【とんこつ】5人前

<材料>
豚リブ 600g~700g(10切れ)
大根 1/3本
こんにゃく 1枚

<味つけ>
黒砂糖 15g
焼酎 600cc
薄口しょうゆ 大さじ1.5
麦味噌 30g〜(塩分による)

<作り方>
1.大根は皮をむいて隠し包丁を入れて、少し大きめの一口大に。おでんの1/4サイズ。
2.こんにゃくは隠し包丁を入れた後、一口大に手でちぎって、下ゆでしておく。

3.鍋を中火で温め豚リブの表面を焼く。肉から油が溶け出すので、油はひかないですが焦げないように最初は丁寧に。

4.肉に焼き色がついたら、焼酎をなみなみ注ぐ。たっぷりと肉に被る程度に。沸いてきたら、蓋をして弱火にし10分ほど煮込む。焼酎を少し抑えたい方は、半量を水に変えても大丈夫です。

5.蓋を開けて丁寧にアクを取り除く。
この時点で、部屋じゅう、芋焼酎の匂いでいっぱいになります!

6.アク取りは丁寧に!
大根、こんにゃく、黒砂糖、薄口しょうゆを入れて、蓋をしたら1時間煮込みます。

7.肉がほどけるくらい柔らかくなったのを確認して、お味噌をときます。

8.一旦完全に冷ましてから、食べるとき温めなおすとよく味が入ります。
お味噌が入っているのでグツグツ煮込まないように気をつけてください。

日本に砂糖がやってきたのはいつ?

お砂糖の普及については諸説ありますが、日本に最初に伝わったのは「奈良時代に漢方薬として」という説が有力なようです。その後、南蛮貿易で輸入されるようになります。金平糖(こんぺいとう)のように茶菓子がよく知られていますよね。

長崎では、ボーロなど砂糖をたっぷり使った菓子が発展します。江戸時代になると琉球や奄美でサトウキビ栽培が盛んになります。黒砂糖は、鹿児島経由で九州に入ってきます。

和食に砂糖をよく使うようになったのは、江戸時代のころからですので結構な歴史があります。ですが、庶民が日頃の料理で砂糖を使うようになったのは、現在のお台所の形ができ、主婦や家庭料理といった言葉が生まれた戦後のことです。わりと最近なのです。

日本の砂糖の消費量は、昭和50年頃ピークを迎えます。その後、健康志向や食の見直しなどで少しずつ消費量は下がってきています。

砂糖を料理に使うのは世界的にはとても珍しく、主にインドや、タイ・ベトナムといった東南アジア諸国と共通しています。ヨーロッパでは、砂糖はお菓子に使われ、消費量も日本よりはるかに多いのですが、お菓子以外の料理にはほとんど砂糖を使いません。

日本では家庭料理に砂糖を使うか使わないか、かなり好みが別れるようです。これは、日本の家庭料理の発展と砂糖の歴史を考えると頷ける気がします。

家庭料理と砂糖の役割

わが家では私が子どもの頃から、家庭料理に砂糖を使う習慣がありませんでした。旬の味を感じるため、健康のため、そのほうがいいと考えてきたからのようです。福岡は、九州のなかでは、出汁の味を好み、あまり砂糖を使わないレシピが多いのです。福岡という地域性も関係しているかもしれません。

砂糖を使うと料理の食べ応えや満足感が増します。見栄えをよくするのにも欠かせません。そのため、和食のプロの料理人は、江戸時代から徐々に砂糖を使うようになってきました。

ですが、毎日の食生活を形作る家庭料理では、見栄えよりも素材の味を、一次的な満足感よりも旬を感じる味覚を育むことを、大切にしたほうがよいのではないでしょうか。

今回の「とんこつ」作りを機に、郷土料理と砂糖の関係を知り、砂糖を使った料理に対するイメージが少し変わりました。これからも私が紹介するレシピは基本的には砂糖を使わないレシピが多いと思いますが、お砂糖の美味しさとも上手に付き合っていきたいと思いました。

長々とした文章を読んで下って、ありがとうございました。歴史小説の主人公の好物から、昔の食生活、郷土料理の成り立ち、食文化の発展に思いを馳せるのも、読書の一つの楽しみ方かもしれません。

今回の寄稿にあたり、林真理子『西郷どん!』(角川書店、2017年)、明坂英二『シュガーロード――砂糖が出島にやってきた』(長崎新聞新書、2002年)、および橋本直樹先生のブログを参考にいたしました。