京都出身で調味料研究家の松本葉子です。
京都には和菓子店がとても多く、創業数百年という老舗もたくさんあります。
そしてそれぞれの店に名物=銘菓があるわけですが、もちろん、季節ごとの和菓子も店頭を彩ります。そのひとつが春爛漫の桜餅。
今回は京都の桜餅の特徴と、「それほんと?」な食べ方についてご紹介しましょう。

京都の桜餅と東京の桜餅の違い

実は京都の和菓子店は、お赤飯やお餅も常時置いている「お餅屋」、普段づかいのお饅頭などの菓子が主体の「お饅屋(おまんや)」、お茶事に用いる菓子も扱う「お菓子屋」に分けることができます。それぞれに得意な分野があり、商品的には重ならない部分もありますが、桜餅は、この3つのカテゴリの店すべてで作ることがある和菓子なのです。

そんな京都の桜餅は、道明寺粉を蒸した生地でこしあんを包んで塩漬けの桜の葉で巻いたものがほとんど。これは「道明寺桜餅」ともいわれ、クレープ状の薄焼きの皮で餡を巻いてそれを塩漬けの桜の葉で包む関東風の「長命寺桜餅」とは見かけも味も大きく異なります。

また、桜餅というとピンク色のお菓子というイメージがあるかもしれませんが、京都ではなぜか、上等(高価)な桜餅になるほど、色が薄い(白に近い)傾向があります。

味はもちろん、食べ方の決め手になるのも“道明寺粉”

ところで、京都の桜餅に使われている道明寺粉とはどのようなものかご存じでしょうか?
吸水させたもち米を蒸してから乾燥し、粗挽きにしたものが道明寺粉です。元々は保存食の一種だったそうですが、現在では桜餅をはじめとするお菓子や料理に使われます。

製菓材料を扱うところで手に入りますが、京都では料理店でもよく使われるので、京の台所と呼ばれる錦市場の乾物店ならこんな風に自社パッケージのものも売っていますよ。

この道明寺粉を蒸したものは、単にもち米を蒸したものよりつながりがよいので餡を包むにも適しています。しかも搗いた餅とは違い、米粒のような食感も楽しめるので、これが道明寺桜餅の美味しさの理由でもあります。

また、塩漬けの桜葉で包んだ時も、道明寺の生地には桜の香りがよく移るので深い風味が楽しめるのです。

ただし、桜の葉が生地にぴったりくっつくため、その剥がしにくさときたら長命寺桜餅の比ではありません。

葉が剥がせないからそのまま食べるという人も多い京都の桜餅。トップの写真は、桂離宮の近くの有名和菓子店『中村軒』の桜餅ですが、確かにうまく剥がせる気がしませんよね…。

上の写真は京都・嵐山の渡月橋のたもとにある桜餅の有名店『琴きき茶屋』の桜餅で、茶店で頼むとこの2種類1皿で登場します。

「これ桜餅ですか?」と確認する方もいるという、少々意外なフォルムでしょう?
そして、おそらく京都で1番有名なこの桜餅も、ポイントは道明寺粉なのです。

左はこしあんで道明寺餅を包んだもので上の模様は嵐山を象っています。右のものは、桜の葉で道明寺餅がくるんでありますが、この道明寺餅には餡が入っていないんです。甘くてもちもちのおにぎりみたいで、一般的な桜餅のイメージとは随分異なるのではないでしょうか。
ここでは運ばれてきた時に、「葉っぱごとめしあがってください」と言われるので、みんな素直に葉っぱごと食べますが、言われなくても葉は剥がしにくいです。

葉を一緒に食べる理由はほかにもあった

京都屈指の桜の名所である嵐山にはもう一軒、桜餅の名店があります。

わざわざここまで買いに行く人も多いという『鶴屋壽』の桜餅はやや小ぶりですが、二枚の桜の葉で挟まれています。

先の『琴きき茶屋』の餡なし桜餅も2枚の葉で包んでありますが、こんなふうに葉が2枚使ってあると、1枚は食べたくなるのが人情というか、「1枚は剥がしても、もう1枚でくるんで葉っぱごと食べる」という人が多いようです。

ちなみに桜餅に使われている桜の葉は一度に大量に食べたりしなければ食品として全く問題はないそうです。

そしてもうひとつ。京都の人が桜餅をくるんでいる葉を食べることは京料理とも関係がありそうです。

京都の和食店では春になると「桜蒸し」という料理がよく登場します。これは鯛など白身魚の身を道明寺生地で包んで桜餅のように仕立て、塩漬けの桜の葉を上に載せたり、巻いたりして蒸しあげる料理です。

この料理も葉とともに味わうことが多いので、京都人は桜の葉を食べることに抵抗がないのかもしれませんね。