こんにちは。日本酒学講師の大越です。ここ数日、朝晩も気温が低く秋を感じるようになりましたね。今回は秋の日本酒についてのお話です。世界に数あるお酒のなかでも唯一、四季折々の味わいが楽しめるのは「日本酒」だけなのをご存知でしょうか。日本酒の魅力のひとつとして春夏秋冬、味わいを変化させて楽しませてくれる日本酒。この秋はぜひ秋ならではの食材とともに秋の日本酒「ひやおろし」をお楽しみください。

稲穂は約3カ月かけて日本酒の「新酒」に

晩夏から初秋にかけてたくさんの元気な穂を実らせた稲穂は約3カ月かけて日本酒の「新酒」として誕生します。たとえば、10月初旬から仕込みが始まるとお正月くらいに「新酒」「しぼりたて」という状態で出荷されます。まさにフレッシュで生き生きとした新鮮な味わいが楽しめます。

8月下旬、収穫を待つ酒米の圃場にて

そこから春には「おりがらみ」「霞酒」などとして、「新酒」のときよりも少し味わいが成長した状態で楽しめるのが春の日本酒です。

そして夏には「生酒」として、さらに風味を増した日本酒の味わいに成長してゆき、夏ならではの日本酒として季節感をもって楽しめるのです。

冬に誕生した新酒が春、夏とゆっくり熟成され…

夏に味わいに元気をつけしっかりと熟成された日本酒は、「火入れ」という熱処理をしてお酒のなかの酵母を死滅させてから熟成させます。

そして晩秋に「2回目の火入れ」をしてから瓶詰めし、初めて出荷となるのですが、この瓶詰めの直前、まだ「2回目の火入れ」をされる前の「1回目だけの火入れ(半生)」の状態で楽しめるのが秋の日本酒「ひやおろし」なのです。

出来立てのフレッシュな新酒の状態から季節を超えてゆっくり熟成され、さらに風味が増して味わいがのった日本酒に成長します。まだ半生の状態ですのでここまでの管理は冷蔵庫でないとなりませんが、秋にしか楽しめない日本酒になります。

ラベルも秋らしいものが多くなります

不老長寿、無病息災を願う「菊酒」

秋は栄養価あるおいしい食材がたくさんありますね。脂ののった秋刀魚や香り高いきのこ、お芋などの食材と合わせて食材も日本酒も秋ならではの味覚をぜひ楽しんでください。

また、日本でいちばん大切なお節句が五節句のひとつ9月9日の「重陽のお節句」です。別名「菊の節句」ともいわれますが、ここに欠かせないのが「菊酒」です。菊には邪気を払い不老長寿の意味があるようで無病息災を願い、酒を振る舞うというのが古くからの習わしです。

現在の9月9日は新暦でまだ菊の花が咲いていませんので、私は毎年旧暦で菊花料理と菊酒で菊のお節句をお祝いしています。(今年は10月28日)。

つくり方は簡単です。菊の花(食用菊でも可)を好みの日本酒に漬け込み盃に注ぎ、菊の花びらを浮かべます。

何ともいえない日本の美しい風習にうっとりしてしまいます。ぜひ今秋は「ひやおろし」で楽しむ菊酒はいかがでしょう。