こんにちは。京都をベースに活動している調味料研究家の松本葉子です。夏の京料理に欠かせない食材が鱧(はも)。料理店のお品書きに鱧料理が載り、香ばしく仕上げた焼き物や梅肉で味わう鱧の落としを味わうと夏が来たなぁと実感できます。
でも、いまや鱧は高級食材。特に「落とし」にできる活け鱧など上質のものはかなり値が張るため、そうそう口にできません。そんな中、昔と変わらずおばんざいに使われるのが、鱧の「皮」。京都ではこんな鱧の食べ方もあるのです。

鱧はほとんど捨てるところがないエライ魚

とびっきりの活け鱧を仕入れる料理店では、鱧の肝や浮き袋なども湯引きで出されますし、鱧鍋では鱧の骨や頭でとった出汁も使われます。鱧は全身(?)がおいしい魚なんです。

で、これが鱧の皮です。
一般的にはこんなふうにして売られていますが、魚屋では買えません。これを売っているのは蒲鉾店です。なぜならこの鱧の皮は、蒲鉾や天ぷら(揚げかまぼこ)を作った時にでる副産物だから。

鱧のすりみを使ったかまぼこなどの練り製品は上品な味わいが特徴ですが、すりみに使わない皮の部分を焼いてから刻んで売られているのです。味がついていることもあります。まさに京都の「始末しぃ」(倹約)を体現した食材かもしれませんね。

鱧皮にはゼラチン質がたっぷり含まれているのでくっつきやすいのですが、皮下の身の旨みは濃厚。店によっては、本当に薄い皮のみのところもありますが、身を厚めに残している店もあって、当然ながらそういう店の鱧皮が人気です。

ほぐしてみるとこんな感じ。この鱧皮は身が結構ついているほうです。

鱧皮を使った代表的なおばんざいは…

鱧皮を使う料理で最もポピュラーなのは、トップの写真のようなきゅうりと合わせた酢の物です。

鰻の“うざく”の鱧皮版といえばわかりやすいかもしれません。薄切りにしたきゅうりを塩もみしてから塩抜きし、酢洗いした鱧皮と合わせて加減酢で和えます。三杯酢でもいいですし、よりさっぱり仕上げたいなら生姜を加えるのもおすすめです。

ちなみに、できたての鱧皮は香りが良くふんわりしていますが、作られてから時間が経ったものは固くなり脂が回ってくるので、酒や醤油、味醂などで下味をつけてから料理に使うこともあります。

鱧皮は甘辛く煮てだし巻きの芯にしたり、ばら寿司(ちらし寿司)の具にすることもあります。京都のばら寿司ではちりめんじゃこを入れることもよくありますが、鱧皮を使う時は味がケンカするので、じゃこは入れずに酢を効かせるとバランスが良いようです。

京都の普段着の鱧料理、味わってみませんか?

今のように流通がよくない昔、京都の街中では鮮魚はなかなか手に入りませんでした。そんな時も生命力の強い鱧という魚だけは生きて届いたので重用されたといいます。だからこそ蒲鉾用の鱧の皮であってもおいしい食べ方が工夫されたのかもしれません。

夏からは鱧の子(卵)もおばんざいに使われますが、こちらは鮮度が落ちるのが早く、きちんと下ごしらえしないとちょっとクセがあります。

その点、鱧の皮は誰でも使いやすいので、市場などでみかけたら是非、京都の食べ方を試してみてくださいね。高級な鱧料理とはまた違う美味しさが楽しめると思います。