日本各地で、その内容に特色が表れる「雑煮」。だしの素材や味、中に入れる具材、もちの形状、もちを焼くのかどうかなど、地域によってさまざま。正月の三が日に雑煮を食べる風習は室町時代に武家の間で祝い膳として出され、そこから庶民に広まったという説がある。

鹿児島県の薩摩地域では、椀(わん)からはみ出るほど大きなエビが乗った「さつまえび雑煮」が知られる。「さつまえび雑煮」が作られるのは、鎌倉時代から江戸時代末まで続いた大名の島津家が「えび雑煮」を食べていて、それが庶民にも広まった。

同県の出水沖は古くからエビ漁が盛んで、桁打瀬船(けたうたせぶね)という伝統漁法でエビを取り、それを炭火で乾燥させて焼きエビにしたものを島津家に献上していたという。現在でも年末に干物屋の軒先に焼きエビがつるされている光景が見られ、同県の冬の風物詩となっている。

現在も薩摩地域を中心に正月に食べられている。また、島津家の別邸跡である仙巌園などで、島津家の伝統的な「焼きえび雑煮」を提供するイベントなども開催されていて、その歴史と味を後世に引き継ぐ取組みが行われている。一方で、出水市の伝統的な焼きエビ製造は漁業者の減少から年々減っているという課題もある。

◇日本食糧新聞の2020年12月18日号の記事を転載しました。