ドリンクに押されがちな、緑茶業界はどうにかしておいしい緑茶をどこかで飲んで、リーフに関心を持ってもらい、需要を回復したいとの思いだが、関西の主要緑茶企業も、販売所や日本茶喫茶、緑茶関連の体験などさまざまな形での店舗を展開している。そのような各社の施設をカメラルポした。

福寿園「宇治茶工房」「宇治喫茶館」 石臼で抹茶づくり体験

宇治茶工房

香港から来たアシュリーさんは福寿園「宇治茶工房」での体験に「自分で作ったお茶を飲んでおいしかった」と大満足。『石臼で抹茶づくり体験』では抹茶の原料である碾茶を石臼でひいてつくる。

森口正人工房長は「販売されている抹茶商品の値段だけ聞くと『高い!』と驚かれます。しかし重い石臼を20分回して、2gほどしかできません。それを体験すると『こんなに大変なんだ』と抹茶にかける手間暇を知っていただけ、皆さん大切に飲まれます」と笑う。時間をかけた体験を重視し、時短などは行わないのがこだわりだ。

また同工房内に茶園が設けられ、季節により茶摘み体験も可能。収穫から製茶の一貫した工程に親しめる。

ほかにも、昨年の4月26日に開設された「宇治資料館」には、歴史的に貴重な昔の製茶機が多数展示され、海外の紅茶園の方などが視察に訪れるほど。

宇治資料館

宇治川を挟んで対岸にある「宇治喫茶館」にも立ち寄りたい。料理旅館を改装した同館は窓が多くしつらえられ、季節ごとに移り変わる宇治川沿いの絶景を堪能できる。“”ちょっと一服“”ちょっと体験”のテーマのもと、テークアウトのドリンクやスイーツ、軽食も充実し、地元の名店の協力で、お弁当が予約注文できるのも気が利く。

宇治喫茶館

そして、同館は『手軽なティーバッグの店』でもあり、さくら、レモンなど11種類あるフレーバー宇治茶(各250円)などは宇治茶の新たな可能性を広げてくれる。

丸久小山園 西洞院店・茶房「元庵」 茶文化のアンテナショップ

西洞院店・茶房「元庵」

「品質本位の茶づくり」をモットーに全国茶品評会第1位、自園出品茶農林水産大臣賞受賞などを誇る丸久小山園。同園が直営する西洞院店・茶房「元庵」は築100年以上の町家を改装。写真をSNSにアップしたい若者や外国人客の心をつかむ。特に中庭のしつらえは素晴らしい。

しかし「町家スタイル」を売りにするつもりはなく、あくまでお茶を楽しんでもらうための脇役。メニューも抹茶のロールケーキ(700円)なども多少はあるが、お茶と、お茶を引き立てる控えめな和菓子の組み合わせが基本。抹茶「雅の院」と和菓子のセット1100円などがおすすめだ。

また同社の社員は、茶道部出身者が多く、入社後2年は本社で毎週茶道の稽古をする本格派。同店で一期一会の精神を体現する。

手軽にお茶を楽しめるティーバッグ

「抹茶スイーツブームですが、町のお茶屋さんなどは姿を消しています。当社はもともと裏方に徹する会社でしたが、作り手もお茶文化の発信に貢献しなければいけない時代になった」と店長の渡辺和正氏。菓子の材料としての安価な抹茶の製造量は上がっても、こだわりを持って作る上質なものの需要は伸びていない。

茶房「元庵」や、同店で行われる「お抹茶の点(た)て方教室」などさまざまなチャネルでまず「上質」と出合い、そこから日常的にたしなんでほしい。そんな茶文化全体のアンテナショップを目指す高い志が、凛として心地よい空間を演出している。

共栄製茶「宇治森半店」 「氷茶」のおいしさを伝える

共栄製茶宇治森半店

近鉄京都線の小倉駅から、10分ほど歩くと共栄製茶の宇治森半店がある。風格ある同社創業の地にあり、入り口から一歩足を踏み入れると、昔ながらの茶舗の雰囲気を感じる。地域との触れ合いを大切にする同社の矜持(きょうじ)がうかがえる。

店内で大きなスペースを占めるのは「氷茶ギフト」や「水出しのお茶」だ。「氷茶」は1928(昭和3)年に同社が独自開発したもの。同店の中嶋義弘氏は「冷たい水で出すとタンニンの抽出が抑えられて、アミノ酸系の甘さやうまみ成分が出てきます」と太鼓判。

夏にぴったりの氷茶ギフト

夏の主力商品というだけでなく未来へお茶文化を引き継ぐ戦略も垣間見える。「湯冷ましでじっくり淹(い)れればおいしいお茶が飲めますが、若い人の家には急須どころかポットもない」と同氏。そこで「お茶ってこんなに甘くておいしい!」とまず知ってもらうため、簡単に抽出できる「氷茶」や「水出し」に思いを託す。

水出しのお茶のコーナーも充実

「氷茶・グリーンティー詰め合わせ(通常価格4320円)」など、価格も手ごろで若い人へのギフトにぴったり。氷茶でお茶のおいしさに感動したら、急須のお茶にも挑戦してほしい。

つぼ市製茶本舗「茶寮」 創業の地・堺でカフェ展開

茶寮 つぼ市製茶本舗

「例えば急須は不便だけど、おいしいよ!というアプローチではなく、急須は、そもそも不便なものではなく心を伝えるツール。お茶は人と人をつなぐもの」とつぼ市製茶本舗の谷本美花氏。

1850(嘉永3)年、堺に創業した「つぼ市」。三代目のころに勃発した太平洋戦争で堺の旧市街は灰燼(かいじん)に帰した。唯一焼け残った「茶」の看板を持って、隣の高石市で再興を果たした同社。その日から「看板を堺に戻す」ことが宿願となった。

時は流れ、堺市の阪堺電車・神明町駅前で解体の危機にあった築約350年の町家。これを買い取り、「茶寮 つぼ市製茶本舗」としてよみがえらせた。

落ち着いた雰囲気でお茶を楽しめる

同社にとって、カフェは初めての試み。不安もあったが「おかえりなさい!つぼ市さん」との手紙をもらうなど、町全体が温かく迎え入れてくれた。人が人をつなぎ、開店3年半で「お茶の町・堺」を発信するシンボル的存在に育つ。

温かみのある雰囲気の物販スペース

「つぼ市は産地のお茶屋ではありません。自分たちがするのは目利きで茶葉を全国から選び抜き、火入れ、ブレンドなど職人技で、最高の品質に仕上げること。まさに職人の町・堺ならではです」と同氏。さまざまな条件で味が変わるお茶を、常においしく作り、また淹(い)れるのは至難の業。技術を磨くだけでは不十分で、最後は、飲む人のことを思い、どれだけ心を込められるかにかかる。

山城物産茶寮「辻重庵」 地域住民に憩いの場を提供

京セラドーム大阪から川を一本隔てた住宅街。周辺に小学校や幼稚園などが多く、いつも子どもたちの笑い声が絶えない街角に、山城物産が直営する茶寮「辻重庵」はある。

山城物産の発展の礎となった南堀江の地に貢献したいと30年ほど前に開店。現在、同地域はタワーマンションの建設ラッシュ。人口が急増する半面、住民同士のつながりが希薄化していると感じる同店は、コミュニティー再生の場所を提供したいとの思いを強くする。

地域住人が集う「喫茶スペース」

「将来的には『子ども食堂』や『高齢者の見守り』のように地域貢献の場にしたいと思っていますが、まだまだ道半ば。今は『峠の茶屋』のように気軽に一休みできる場所を目指します」と小売販売担当の辻由紀代氏。抹茶そのものを凍らせて、その氷で作る、手間暇かけた「抹茶かき氷」を破格で提供。

抹茶に至っては、喫茶店の一般的なコーヒーよりも安い価格設定だ。商売をいったん脇において「地域住民の憩いの場に」との理念を具現化する。またお茶文化を後世に伝える活動にも積極的。急須を見たことがない、という子どもたちも少なくないが、小学校の「町探検」という授業などに協力し、情報を発信する。

大人気の「それいけ!アンパンマンのむぎちゃ」

家族で同店を訪れた森諒真君(5歳)は「抹茶は苦くなくて好き。家でもお茶を飲むよ」とコメント。小さな住人にもお茶文化は確実に受け継がれていた。

◇日本食糧新聞の2017年6月23日号「緑茶特集」の記事を転載しました。