こんにちは。京都をベースに活動している調味料研究家の松本葉子です。今回は私が大好きな福島県にあるユニークな食べ方の麺をご紹介したいと思います。
その名は「なみえ焼そば」。「なみえ」とは福島県浜通りエリアの「浪江町」のこと。50年ほど前に、肉体労働をする人たちのために安価で腹持ちのよい食事として、浪江町で誕生した麺料理です。

麺、具、食べ方、すべてに流儀あり

東日本大震災によって浪江町全体が避難指示区域となる前は、なみえ焼そばは浪江町内の約20の飲食店で食べることができ、浪江町をはじめ福島県内の人たちに親しまれていました。また、まちおこしの主役にもなっていたので、全国的にもファンが増えつつあったのです。

そんななみえ焼そばの一番の特徴は麺。極端な太麺です。浪江町にたくさん店があった時には、店ごとに麺の太さは違ったといいますが、それでも基本は「極太」です。しかも、具をラードを使って炒めて、麺にはこってり甘辛味のソースを吸わせて仕上げるから、そりゃもう、濃厚。

そして、気がつきました。具は豚バラともやしだけなんです。焼そばっていうと玉ねぎやネギ、彩りのピーマンとか人参なんかを入れたくなりますが、ダメです。豚バラともやし以外の具が入っていたら、なみえ焼そばにはなりません。

そしてそして、もうひとつ、とっても重要なことが。それはもやしの量です。写真は「杉乃家」のなみえ焼そばですが、太もやしの量がすごいです。麺がもやしより太いのもすごいけど。

ラードとソースが合わさって味付けは重量級にこってり。豚バラ肉も大きなのが結構はいっていますが、意外なほどどんどん食べ進められるのは、この大量のもやしの威力です。なんたって野菜は炭水化物に比べたら軽いですからね。

食べる前にもう1アイテム。これでますます食欲増進

ちなみに、このなみえ焼そばにかけるのはコショウではありません。一味唐辛子です。店で食べる時も、地元の人間じゃなさそうだと思う客には、お店の人が、「これかけてね」と一味唐辛子の瓶をドンと目の前においてくれます。

確かにこのソースには一味唐辛子がよく合うんですよ。というわけで、周りを見れば、ハンパない量の一味唐辛子をふりかけている人も多々。

唐辛子の刺激が豚バラやラードの脂っぽさをうまく消して、食欲を高めてくれるせいか、「杉乃家」では、一見とてつもない量に見える“大盛り”を年配の方でもあっさり完食しています。

遠くて食べに行けないなら、自作にチャレンジを

浪江町がまだまだ復興の途上にある今、以前と同じなみえ焼そばを食べられるのは、二本松市に移転している「杉乃家」など、極めて少ない場所しかないのが残念です。でも、こんなお土産用のセットも福島県産品を売る店で手に入りますよ。

中身はこんな感じ。やっぱり太麺の存在感がすごいです。知らない人がサラダ油で炒めたりしないように、ラードもちゃんとついてます。一味唐辛子もね。

そして作り方をみると、麺袋に対して、豚バラ肉50g、もやし170gを用意しろと書いてあります。麺とほぼ同量のもやしが必要だなんて、なみえ焼そばの食べ方を知らなかったら、これ間違いじゃないのって思ってしまいそうです。

でも、福島の人は優しいのです。「作り方例」として、「自分流でかまいません。お好きな具材でお楽しみください。」と書いてありました。

「杉乃家」で使われていた皿は、浪江町の伝統工芸品の大堀相馬焼。馬が9頭描かれた「馬九行久」・うまくいく図柄でした。お土産用のパッケージにも「なみえ焼そばを食べると何事も馬九行久」と書かれています。

それを信じて、この福島のおいしい焼そばの食べ方、試してみませんか。