ポルトガルが大好きで、ポルトガル料理専用の特殊な鍋まで持っている調味料研究家の松本葉子です。日本人にとってなじみ深い菓子・カステラは、室町時代後期に日本に伝来した南蛮菓子をもとに作られた和菓子です。そして、その原型はポルトガルにあり、宣教師によって伝えられたという説も広く知られています。
今回は、ポルトガル人マダムにカステラのルーツといわれる菓子「パォン・デ・ロー」の作り方と、現地での食べ方について教わってきました。

ポルトガルにはカステラというお菓子はない!?

今回、「カステラ」について教えてもらったのは、ポルトガル出身のアーティスト、Kristina Marさん(以下、クリスティーナさん)。料理上手なクリスティーナさんはアーティストとしてグローバルに活躍するかたわら、京都のご自宅でポルトガル料理も教えています。

今回教わったのは、ポルトガルの伝統菓子パォン・デ・ロー(Pão-de-ló)。

「日本ではポルトガルというと、カステラ、金平糖、サッカーをイメージされる方が多いですが、実はポルトガルにはカステラという名前のお菓子はないんです。でも材料や作り方、できあがったものの風味などから、カステラのルーツはこのパォン・デ・ローだと考えられています」とのこと。

日本のカステラは長方形で上部が焦げ茶色、中身は黄色のスポンジケーキ風のものがほとんどですが、ポルトガルでは四角形のほか、丸形のものも多く、驚くほど大きく作ることも多いのだそう。

でもいずれも、材料は卵、砂糖、小麦粉といたってシンプル。ヨーロッパの菓子にしては珍しくバターやミルクといった乳製品をまったく使いません。だからこそ乳製品を食べる習慣がなかった時代の日本でも作りやすく、普及したとも考えられます。

基本の材料はたった3つ!家にあるもので簡単に作れる【半熟カステラ パォン・デ・ロー】

■材料 18㎝丸型1個分
全卵 2個
卵黄 7個
砂糖 90g (三温糖がおすすめ)
薄力粉 30g
*好みで
ブランデー、マディラ酒、ポートワイン、ラム酒など 小さじ2
オレンジの表皮をすり下ろしたもの 適宜

■作り方
1.型にクッキングペーパーを敷く。焼き上がると生地が膨らむことと、あとで取り出しやすいように型からはみだすように敷いたほうがよい。

2.アルミホイルで型に合わせてドーム型の蓋を作っておく。

3.オーブンの余熱に時間がかかる場合は余熱スタート(190度)。

4.大きいボウルに全卵と卵黄を入れてよく混ぜてから、砂糖を少しずつ加えながらハンドミキサーで泡だてていく。
*オレンジの皮すりおろしはここで加えてもOK。

江戸時代にはすりこぎで泡立てていたそうで大変だったらしいですとクリスティーナさんに言ったら、ポルトガルでも昔は木製の泡立て器を使っていたので作るのにとても時間がかかったとのこと。でもこの泡立てがこのお菓子のポイントです。

上の写真で泡立てはじめから15分ほどたったところ。
泡立ては底からしっかりと全体を泡立てるようにするのがコツ。ひたすら泡立てていると量が増え、白くなってクリームのような艶がでてくる。

泡立ての終了は、生地が幅の広いリボン状に落ちるぐらいまでが目安。下の写真では「あともう少しがんばって」という状態。

5.しっかり泡だったら、薄力粉をふるいながら加え、ゴムべらで手早く混ぜ込む。
*ブランデーなどの酒はここで加える。

6.生地を型に流し入れて、190度のオーブンで16分~20分程度焼く。アルミホイルの蓋をすると熱が入りやすい。

7.生地が膨らみ、焼き色がついたら、オーブンから取り出し、型に入れたまま網などにのせて冷ます。

冷めたら型から取りだして切り分ける。

*温かいうちに食べるのもおいしい。その場合は焼き時間を少し長めにする。

焼き上がり。オーブンから出した状態。冷めてくると下のような感じに。茶こしで粉砂糖をかけてデコレーションするのも良い。

このパォン・デ・ローの特徴は、クリスティーナさんいうところの「生焼け」。外側はふっくら香ばしく、中はとろっとした黄金色のクリーム状に仕上げるためには、「焼きすぎには注意して!余熱でも火が通るので、加熱時間は様子をみながら調整を」とのこと。

そしてクリスティーナさんによれば「これはあくまで基本。分量や焼き加減などは自分の好みで作ってみてください」と、かなりフレキシブル。私は自宅ではマディラ酒を大さじ1、オレンジの皮のすり下ろしを半個分いれて作りました。

ただし、「卵はできるだけ新鮮でクオリティの高いものを使ってください」とクリスティーナさん。確かに何度か作ってみると、使う卵によって仕上がりの味がかなり変わることがわかりました。というわけで、ここは奮発するのがおすすめです!

本場でのカステラの味わい方あれこれ

ポルトガルのパォン・デ・ローは、地方や店、各家庭によってそれぞれ個性があります。形も違うし、しっかり焼き上げたスポンジケーキに似たものから、今回作った中身がとろける半熟タイプまで、味わいも多彩。

私もポルトガルで、お菓子屋さん、レストランのデザート、お祭りの屋台などいろいろなところでさまざまなパォン・デ・ローを食べました。

そして日本のカステラは、四角く切り分けて食べますが、ポルトガルでは放射状に切るほか、すくって皿に盛ったり、ちぎって食べるなど、食べ方もいろいろです。

また、日本では紅茶やコーヒー、日本茶などと味わうことが多いですが、ポルトガルではマディラワインやポートワインと一緒に楽しむことも多いのです。

日本人にとってカステラは栄養豊富なお菓子という意味合いで、お見舞いの品などに使われたりもするので、お酒との組合せは意外に思えますが、ぜひ試してみてください。

遠くポルトガルから伝わり、日本で長い年月にわたって親しまれてきたカステラ。時には本場の味を自作して、お菓子の歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

Kristina Mar
cooking class