昔からわが家では梅干しを漬けています。紫蘇(しそ)と塩だけで漬ける、シンプルな梅干しです。5月に収穫した梅は、塩漬け→天日干し(土用干し)→陰干し→紫蘇漬けという手順を踏んで、11月末ごろから美味しく食べられるようになります。子供の頃、祖母の家の倉庫いっぱいに広がる梅干しの良い香りに、ついつい、つまみ食いをしてしまったのを思い出します。
私にとって梅干しの香りは、冬の到来を感じる香りです。今回は、今が出来立て梅干しの「漬け汁」「漬け紫蘇」など梅干しのすべてを活用するレシピを紹介します。

できたての梅干しはきれいなピンク色

わが家では「南高梅」という梅を漬けます。「南高梅」は梅干し作りに向いた品種です。果肉が多くぽってりジューシーですが、皮は薄く、フルーティーな風味が楽しめます。

漬ける期間によって、梅干しは味も見た目もずいぶん変化します。できたての梅干しは、香り高く、鮮やかできれいなピンク色です。2年3年と長く漬けるにつれ、塩のカドがとれ、丸味のある味になります。

色が抜けて少しずつ赤茶色になり、香りも弱くなりますが、古漬けの梅干しは味がなじんでおりお粥などと一緒に食べるととてもおいしいです。梅干し好きには、古漬けの熟成したものこそ本当の梅干しだ!という人もいるほどです。

梅干しというと日の丸ごはんやおにぎりの具など、ごはんのお供というイメージがありますが、調味料としても大変役立ちます。

梅の漬け汁「梅酢」で鮮やかに!梅酢漬け

かぶ、大根、ちょろぎの梅酢漬けは、お正月料理にも彩よく便利に使えます。かぶや大根は、約2日で色が染まり、きれいに漬かります。軽く下茹でしたちょろぎは、1週間〜10日程でおいしくいただけます。

梅酢漬けのかぶを、長芋や漬けていないかぶと合わせて

ミョウガ、新ショウガ、は年中常備できます。たっぷりの汁に漬けておけば、冷蔵庫でひと月以上持ちます。焼魚に添えたり、お弁当のごはんの底に敷いたりと便利に使えます。

梅のタネは、しょうゆ漬けに!便利な調味料に早変わり

梅肉を外してしまった種でも、まだまだ果肉が残っています。ひたひたのお醤油に漬けておくと美味しい「梅じょうゆ」になります。(2週間頃からが食べごろ。)梅酢のような強い酸味や塩味はないですが、梅の香りのする優しいおしょうゆが出来上がります。もちろん、長期保存もできます。

ごま油と混ぜてドレッシングにしたり、お刺身醤油がわりに使ったりするのもおすすめの食べ方です。

家に常備している梅酢漬け(左)梅の種を醤油につけたもの(右)梅紫蘇のしっとりふりかけ

梅紫蘇のしっとりふりかけ

梅紫蘇は適度に汁を切り、大きな茎は落としてみじん切りにします。その後、すり鉢でよくすりつぶします。ごま、かつおぶし、梅肉、香りをつけるため少量のしょうゆ、ワサビ少々(子どもで食べられる程度の隠し味に)を混ぜ合わせれば、日持ちのするソフトふりかけができます。冷蔵庫に常備しておくと便利です。

梅肉を使った万能梅みそだれ

つぶれた梅干しは、たたいて梅肉にします。そのまま調味料にできますが、酸味や塩味が強いと感じる時はひと工夫すると食べやすくなります。

  1. 少量の昆布だし(150cc)で、梅肉(約7粒分)をとろ火で炊きます。小さじ1ほどの本みりんをお好みで足すと、よりまろやかに仕上がります。
  2. ジャムのような鮮やかな見た目になり、梅の香りが広がったら、火を止めてよく冷まします。
  3. 40gの米みそをすり鉢でよくすりつぶし、冷めた梅ソースと混ぜ合わせます。

燻製の食材のお香りによく合います。
写真は、クレソンとオイルサーディンのサラダに梅みそだれをかけたものです。

塩分と、添加物について

わが家の梅干しは塩分15%で作っています。この塩加減は、冷蔵庫を使わずに作れるギリギリのラインです。減塩の梅干しは、完全冷蔵で作るか、または添加物を入れて作ります。美しい色、梅の香り、風味を引き出すには、ある程度の塩は必須です。上記の梅酢漬けも、適度な塩分があってこそのレシピです。

おいしい梅干しを食べて育ったせいか、梅干しがおいしくないと私は本当に悲しくなります。梅干しは日本人の「ソウルフード」と言ってよいほど食卓には欠かせないものですが、日本で消費される梅の約半分は海外から輸入されています。

輸入品の梅は生産地でいったん塩漬けにし、長期保存ができるようにしてから運びます。そのため日本に輸入されたときには、梅の色・香り・風味はすでにほとんど飛んでしまいます。梅干しとして商品にするため、あらためて酸味を加え、香りや色もつけます。

こうして作られますので、外国産の梅を使った梅の梅干しは、やはり大変味が落ちます。おかかをまぶしたり、調味料で味付けをしている商品が多いです。安価なものやホテルのビュッフェなどで見かける梅干しのほとんどは外国産です。梅干しを選ぶ時は、国産の梅で漬けた色の鮮やかな紫蘇漬けがおすすめです。

梅干しは家庭の常備薬

祖母に教えてもらったこと。梅干しはおいしいだけでなく、消化器の調子も整えます。子供のころ、腹痛やお通じの調子が悪い時は「梅干しの種を口の中に入れときなさい!」と言われました。

長く口の中でタネを転がしてても、ほのかに残る梅の香りや酸味のおかげで絶えず唾液が出ます。唾液の分泌が胃腸の不具合を治してくれます。

熱や下痢による脱水時は、梅干しととろろ昆布を入れてお湯を注いだものを母が作ってくれていました。おいしいのはもちろんですが、糖分が入っていないので血糖値も上がりません。ミネラル補給水・分補給には最適です。

ぜひ、梅干しを常備して、さまざまな味付けを楽しんでみてください。