美味しいものなら香りならぬ“臭い”すら愛しくなってしまう調味料研究家の松本葉子です。毎月23日は乳酸菌の日ということで、今回は私が大好きな鮒寿司をご紹介したいと思います。乳酸菌が人間の健康に役立つということは古くから知られています。そしてその乳酸菌が含まれる食品といえば、まず思い浮かぶのはヨーグルトや漬物ではないでしょうか。でも鮒寿司にも良質の乳酸菌がたっぷり含まれているのです。

そもそも鮒寿司ってどんなもの?

鮒寿司は独特の酸味がありますが、これは乳酸発酵によるもの。鮒はそのままでは骨が気になる魚ですが、乳酸発酵によって骨が溶けたり柔らかくなるため、鮒寿司ではほとんど気になりません。最近では、鮒寿司の乳酸菌を元にしたサプリや食品も販売されているくらいなんですよ。

名前は知っているけれど、食べたことはもちろん見たこともないという人が結構多い鮒寿司なので、まずは簡単にそのプロフィールをご紹介。

鮒寿司は「なれ(熟れ)ずし」と呼ばれる食品の一種で、いわゆる現代の寿司とは別モノ。そのルーツは平安時代にまでさかのぼるといわれる伝統食です。

作り方は、琵琶湖で獲れる鮒(基本はニゴロブナ)のうろこや内臓を除去してまず3ヶ月程度塩漬けにし、その後ご飯とともに半年以上漬け込んで発酵させます(これを「本漬」といいます)。

そして、今も昔も鮒寿司は滋賀県の名産で、県内には専門店(基本は販売のみ。写真の老舗「阪本屋」もいわゆる寿司屋ではなく鮒寿司販売店)もいくつかありますが、京都でも昔からよく食べられています。

実は京都の有名料理店でも酒肴に鮒寿司を出すところが多いんですよ。

大事なのはメス!? これを知っていれば鮒寿司通

10年以上前に起こったのに滋賀や京都でいまだに語りぐさになっている事件があります。

滋賀県の倉庫から、鮒寿司が大量に盗まれたのです。ニゴロブナが激減して以来、鮒寿司の価格は高騰。1尾数千円はするので被害総額もかなりのものでした。

しかし、地元民を驚かせたのは「犯人はメスだけを盗んでいった」という衝撃の事実!そう、鮒寿司はメスの方が断然高価なのです。

これがメスの鮒寿司です。オレンジ色の部分は卵。この「子持ち」が高価な理由です。

そしてこちらがオス。「お買い得品」の表示通り、メスより大きなサイズでも値段は安いです。卵はもちろんなく、内臓を抜いた部分にご飯が詰まっています。

このパッケージにも「身はオスの方が美味しいです」と書かれていますが、実際オスを好む人も多いです。

鮒寿司にはオスとメスがあって、食べ方(卵重視/身重視)で選ぶということを知っていれば、あなたも鮒寿司通!

滋賀や京都で定番の鮒寿司の食べ方ベスト3

<1位>そのまま、酒や熱々ご飯のお供に
滋賀の地酒ならなんでも相性抜群!といいたいところですが、淡麗辛口タイプよりどっしりした芳醇な味わいの日本酒が合います。

ワインは赤でもOKという人もいますが、白の方が無難。ちなみに、ミシュラン星付きの京都の某店では甘口の白と一緒に供されるのですが、この絶妙なマリアージュを知って鮒寿司愛好家になる人も多かったりします。

<2位>お茶漬け
飯on飯+発酵臭で大丈夫?と思われそうですが、これが不思議に洗練された味になるのです。下の写真のように、塩昆布やネギを添えることも。

<3位>吸い物
鮒寿司(頭や尾を使うことが多い)を椀にいれ、醤油か塩を加えて熱湯を注いだもの。とろろ昆布を加える人も多いですね。

「いい」はイイ!ってご存じ?

ところで、鮒寿司を漬け込んだご飯は「飯(いい)」と呼びます。鮒寿司を買うともれなくついてきますし、鮒寿司専門店では漬け込みの副産物である飯だけを買えるところもあります。なので、滋賀では「鮒寿司高いし、いつも飯だけ買ってる」という人もいるくらい。

これ、独特の酸味とこくがあって美味しいんですよ。しかも乳酸菌たっぷり!

鮒寿司の飯は、そのまま食べるのはもちろん、クッキーに焼き込んだり、アイスクリームに混ぜてもおいしいです。

言うのを忘れていましたが、ちゃんと作られた上質の鮒寿司は「臭い!」ではなく「匂う」という感じ。だから飯をスイーツに使うのも十分ありなんですね。

今回はワインに合わせたかったので、プチトマトに詰めてオードブル風の一皿を作ってみました。

食べず嫌いは損!上質のものを選んでぜひ鮒寿司体験を

鮒寿司は専門店のほか、滋賀産品の販売店などで手に入ります。ネット通販しているところもありますよ。

お値段は大きさや造り手によっても変わりますが、1尾で2000~8000円程度。ただし、安価すぎるものは、臭い・味ともにワイルド系であることも多いので、ビギナーは専門店での購入をおすすめします。

また、鮒寿司を酒粕に漬けなおした「甘露漬け」といわれるものならよりマイルドに楽しめるでしょう。

健康食、美容食としても見直されている鮒寿司。まだ未体験なら是非味わってみてください。