お酒がすすむ、簡単でおいしいおつまみレシピが人気の呑兵衛料理家おねこさん。おねこさんがつくるおつまみには、お酒のあるなしに関わらず、おいしいテーブルのヒントがいっぱい。根菜の素揚げや冬野菜のかき揚げ秘ワザも教えていただきました。

“誰か”のためではなく“私”のためにつくると、料理は楽しい

料理家として仕事をするようになったのは1年ほど前からです。それまでは、会社員として勤め、疲労困憊で帰宅する毎日。なのに、家族からは「ごはんはまだ?」「お腹が空いた」と言われ、誰かのために料理をつくることがストレスになっていたことがありました。

そこで、「私が食べたいからつくる」「自分を癒すためにつくろう」と発想を切り替えてみたのです。すると、「こんなに疲れたのだから唐揚げにしてもいい」と思えたり(笑)。私が幸せになるためにつくる–そう考えることで、料理が楽しくなっていきました。

北海道で暮らすようになって約20年になります。移住してきた当初は、みそ汁の作り方も知らないくらい料理初心者だったんです。当時、図鑑ほど厚みのある料理本を購入して、最初から最後のページまで、本に書いてある通りにつくりました。全レシピをつくり終えるのに、1年以上はかかったと思います。

レシピには、下ゆでをする意味や調味料の割合の理由など「何のために」という理屈は書いてないですよね。だから、料理初心者の私にとっては疑問だらけ(苦笑)。とくに揚げ物は「なぜ、たっぷりの油で揚げなければいけないの?」など、分からないことがいっぱいでした。

でも、ある時、揚げ物は湯船に浸かることをイメージすれば上手くできると思ったんです。半身浴は、体の芯まで温まるのに時間がかかり、肩まで浸かったら短時間で温まりますよね。それと同じ発想で、揚げ物も中までしっかり揚げたい時は低温で時間をかけて、カリッと仕上げたいなら高温でサッと揚げればおいしくなるって。あの時の手応えは今でも覚えています。それから料理の理屈が分かるようになった気がします。

時短は目指さず、できあがりを想像してワクワクしながら、つくっています

おいしいおつまみをつくるコツは、お酒の味やのど越し、香りなどを邪魔せずに引き立たせることです。また、お酒によっては調和させることもポイントです。

私はお酒の中でもビールが大好き。ビールに合うおつまみをつくる時は、炭酸の刺激に負けないメリハリ感を出すようにしています。例えば、焼き鳥に薬味や香辛料で刺激を加えると、ビールの豊潤な味わいに刺激が相まって、のど越しも最高です。

辛口の日本酒には、砂糖やみりんで味つけをした煮物など、甘さとまろやかさがあると、互いのうま味が引き立って舌の上で調和します。ハイボールには、唐揚げにレモンを絞るなど、さわやかな香りがあるおつまみを。赤ワインなら、うま味が強いものを組み合わせれば豊潤さが引き立ちます。牛肉はもちろん、白身魚の香りが際立つ料理もおすすめです。

料理をつくるうえで大事にしているのは、時短を目指さないこと。急いでつくると、成功も失敗も記憶に残らないので、次に上手くつくるためのヒントが生まれないからです。

私は何よりも、できあがりを想像してワクワクしながら待つ、料理をつくる過程が楽しいんです。それを時短で省いてしまったら、料理が作業になり、ストレスになってしまうんですよね。見た目や香り、感触を楽しみながら気楽につくることが一番だと思います。

春菊のかき揚げは高温の油でサッと揚げればサクサクに

揚げ物は、キッチンが汚れるし、面倒くさいと思っている方も多いですよね。でも、揚げ物はとても簡単です。

大根やにんじんなど根菜を素揚げにするコツは、電子レンジで加熱し、やわらかくしておくこと。そうすれば、高温の油で1分程度揚げるだけで、表面はパリッとし、根菜のほっくり感や甘みも引き立ちます。 この季節においしい春菊は、かき揚げにもぴったりです。葉物は水分を多く含んでいるので、高温の油でサッと揚げることが大事。表面だけ色づけば、水分は飛んでいるのでサクサクに仕上がります。

揚げ物はカロリーが高いと思いがちですが、短時間で揚げれば、素材が油を吸う量を抑えることもできるんです。やっぱり揚げたてが一番おいしいので、揚げ物こそ自分でつくって、できたてのおいしさと感動を味わってほしいと思います。

実は会社員だった頃、冷蔵庫の中がごちゃごちゃに詰まっていて、何が入っているか分からない状態でした。それがストレスであり、料理をする前に物を探す作業が無駄だと痛感。一念発起して、冷蔵庫の中の物がひと目でパッとわかるように整えました。それから2年半以上、廃棄ゼロを達成。冷蔵庫の整理整頓がフードロス対策につながっていると実感しています。

今後は、「料理は楽しい」ということをもっと広めて、料理を始めたい、楽しみたいという人の背中を押せればいいなと思っています。料理は「楽しくつくって、おいしく食べて飲む」のが一番ですから。

<プロフィル>
おねこ 呑兵衛料理家、Nadia Artist。豊富な食材に魅了され、北海道在住20年。毎日の晩酌を欠かさない大のお酒好き。「夜が楽しければきっと明日はもっと楽しい!」をモットーに、夜を盛り上げるおつまみをレシピサイト「Nadia」で発信。食品、酒類メーカーのレシピ開発を中心に活動している。初の著書『ごはんもお酒もすすむ! 絶品おねこ食堂』(宝島社)を発売。Instagram:@oneko_kitchen

『ごはんもお酒もすすむ!絶品おねこ食堂』
おねこ著/宝島社 定価:990円(税込)

◇百菜元気新聞の2022年1月1日号の記事を転載しました。