ラーメンのトレンドは時代とともに少しずつ変化している。ここ数年は鶏でダシをとった繊細なうま味の「淡麗系スープ」人気が顕著だが、世のラーメン愛好家たちは次なるヒットラーメンに目を向け始めている。外食レストラン新聞では、ブームが来る!とアツい視線が注がれている“次世代のラーメン寵児”を予測し、その実態に迫った。

蘭州ラーメン「一清二白三紅四緑五黄」の本場の味

中国・北西部の蘭州発祥のラーメン。現地では、朝夕問わず親しまれている屋台料理。注文が入ってから生地を手で延ばして麺を作る。麺の太さはお客の好みに仕上げてくれ、日本でもこのスタイルを踏襲している店が多い。その特徴は「一清二白三紅四緑五黄」と表現される。

澄んだ牛骨のスープ(一清)にラー油を加え(三紅)、具材は薄切りの牛肉と大根(二白)、香菜、葉ニンニクを加える(四緑)。麺は黄色がかった麺を使用(五黄)。黒酢が別に添えられ、途中で加えて”味変”する食べ方が定番だ。

<蘭州牛肉麺 東珍味 小籠包>香港出身料理人の思いが凝縮!

蘭州牛肉拉面 880円(税抜き)

横浜中華街に位置し、観光客だけでなく、多くの中国人も日常的に足を運ぶ名店だ。同店を運営する東珍味の代表取締役、黎慶徳氏は香港出身。料理人を父親に持ち、子どもの頃から麺料理に親しんでいたことから、本場の蘭州ラーメンを提供しようと考えたという。

麺は注文が入ってから生地を作り、手で引っ張りながら芸術的に仕上げていく。かん水は使わず、小麦粉、塩、水のみで作る麺のためか、普通のラーメンの麺と比べ、つるっとした口当たりが心地よい。牛骨と牛すね肉で丁寧にだしをとり、10種類以上の香辛料で味を付けたスープが絶妙で、この味は日本人調理人にはなかなか出せないだろう。

蘭州ラーメンの“緑”は元来、スープの臭みを消すためのものだが、同店のスープは澄んだうま味があり、香菜はそのうま味を倍増させるのに一役買っている。あっさりとしていながらもしみじみとおいしく、ラー油がまた絶妙なアクセントになり、毎日食べても飽きない、と思わせる。

朝昼晩問わず食べたくなる味わいだ。日本の定番ラーメンとはどこか異なり、「おいしいく栄養のあるものを食べてほしい」という香港の名料理人らしい思いがそのまま伝わってくる、まさに“本場ラーメンならではの美味”である。

●店舗情報
「蘭州牛肉麺 東珍味 小籠包」
所在地=神奈川県横浜市中区山下町139 ケンビル1階
営業時間・定休日=11時~22時/木曜休
席数=70席

<中国蘭州ラーメン 火焔山蘭州拉麺 池袋店>清らかなスープとしなやかな麺

蘭州ラーメン 980円(税込み)

同店の壁に掲げられた「蘭州ラーメンの起源」の解説文によると、「スープが鏡のように澄んで、香りが良く、麺が細くしなやか」というのが、蘭州ラーメンの定義。

同店の蘭州ラーメンもこれにのっとり、牛骨スープと味をピリッと引き締めるラー油、具材の牛肉スライスと大根、風味の良い香菜と青ネギ、そして手延べの麺で構成されている。“清らかなうま味”と表現したくなる滋味あふれるスープと口当たりの良い麺が特徴的で、現在日本で主流の濃厚こってりラーメンとは違ったラーメンの魅力に気づかされる。

注文後に手延べで仕上げる麺は、「細麺」「平麺」「三角麺」と太さが選べる。あっさりとしたそうめんに近い口当りで、常連の中国人客は朝食にも好んで食べるという

スープには26種類の香辛料を使用し、メニューには「漢方入り」とうたっている。しかし、同店のスープは漢方のネガティブな味イメージとはほど遠く、ブレンドした香辛料が独特の魅惑的な味を作り出している。蘭州ラーメンは現地では昔から「体を温め、養生させる麺料理」として食べられてきたそうで、ちょっと不思議な印象の大根具材も納得だ。

●店舗情報
「中国蘭州ラーメン 火焔山蘭州拉麺 池袋店」
所在地=東京都豊島区池袋2-47-7
営業時間・定休日=11時~15時、17時~23時/無休
席数=28席

麻婆麺 シビ辛にハマる愛好家続出

麻婆豆腐をのせたラーメンは昔ながらの定番だが、最近、新たに脚光を浴びている。そのキーワードとなるのが「シビ辛」だ。日本人はこれまで、花椒(ホワジャオ)に代表されるしびれる“麻(マー)”の辛さはあまり好まない、とされてきたが、ここ数年「シビ辛」にハマる人が急増。

シビれる辛さの麻婆麺が注目を集めているのだ。汁なしと汁ありの2種類があり、麻婆豆腐の主張が強いタイプが今のトレンド。また、麻婆麺で評判の2店を今回取り上げたが、どちらも「ぶどう山椒」を使用しているのも興味深い。

<SHIBIRE-NOODLES 蝋燭屋>本格麻婆豆腐たっぷり!

麻婆麺 1,000円(税込み)

一日に数量限定で提供される麻婆麺は、中華料理店出身の片桐豊店主が作る本格麻婆豆腐がどっさり。粘度の高い麻婆ソースが中太麺によく絡み、ひと口食べるとパンチのあるシビレと辛さが飛び込んでくる。

「よく見かける、ラーメンスープに同化したサラサラとした麻婆豆腐ではなく、本格麻婆豆腐がしっかりと味わえる麺料理にしたかった」と、片桐店主は話す。豚の背ガラと丸鶏でとったスープは麺がほぐれる程度の少量で、麻婆豆腐の味をじゃましない。最後のひと口まで麻婆豆腐が麺にたっぷり絡むつくりだ。

和歌山産紀州ぶどう山椒を使用した「ぶどう山椒オイル」は、上品な和の香りとやわらかいシビレをプラスするアイテム

片桐店主はもともと辛い料理は苦手だったそうだが、「辛い料理でも山椒の香りが加わると途端においしくなる」と感じていたことから、山椒の風味とシビれる辛さを利かせた麻婆麺を考案した。

同店の麻婆豆腐は食感の良い豚粗びき肉と葉ニンニクを使った本格派の味わいで、花椒でバランスの良いシビ辛味に仕上げている。また、卓上に置かれた「ぶどう山椒オイル」を好みで加え、シビレと香りをさらに強めて楽しむこともできる。独特の爽やかなシビ辛味は一度食べるとやみつき度が高く、同店では麻婆麺目当てに毎日行列ができる。

●店舗情報
「SHIBIRE-NOODLES 蝋燭屋」
所在地=東京都中央区銀座3-5-16 第一島田ビル1階
営業時間・定休日=11時30分~15時30分、17時30分~22時/日曜休
席数=14席

<箸とレンゲ>ぶどう山椒の魅力を表現する新感覚の創作麻婆麺

麻婆麺 980円(税込み)

創作ラーメンで名高い庄野智治氏が手掛ける「ぶどう山椒の麻婆麺」が、ラーメンマニアを中心に評判を呼んでいる。フュージョン料理を思わせる印象的なビジュアルで、味の決め手になっているのが和歌山産の「ぶどう山椒」。

「ラーメンと相性の良いコショウ以外の香辛料を探して全国各地を巡り、出合った。このぶどう山椒の魅力を表現するべく試行錯誤し、この麻婆麺が完成した」と、庄野氏は語る。

庄野氏がほれ込んだ、紀州かんじゃ山椒園のぶどう山椒

鶏白湯スープに平打ちのちぢれ麺、上にはふわふわの麻婆豆腐をのせ、具材はニラ、白ネギ、揚げゴボウ、揚げナス、エノキ、春雨と何とも個性的な顔ぶれ。ピリッと刺激的なのに和の優しさが感じられるぶどう山椒と鶏白湯スープの組み合わせで、やわらかいシビ辛味に仕上がっている。

多彩な食感の具材と食べると、麻婆麺でありながら麻婆麺とはどこか異なる無国籍風の味わいが不思議に魅力だ。新感覚の麻婆麺の逸品である。

●店舗情報
「箸とレンゲ」
所在地=東京都杉並区阿佐谷南2-42 BeansA-4
営業時間・定休日=11時~23時/無休
席数=25席

オリーブ油そば 罪悪感なく食べられる健康油そば

人気の「油そば」に健康感をプラスした、油そばの新しいカテゴリー誕生といってもいいだろう。一般的な油そばとは一線を画し、軽やかでシャレた味わいが魅力。

<オリーブ油そば 三六>もたれず、太らず!和とイタリアン融合

オリーブ油そば 750円(税込み)

このメニューは、同店の監物(けんもつ)昌宏店主が運営する別店舗のBARで、飲酒後の〆に提供していた名物料理だ。鶏肉、カツオ、昆布などでだしをとった醤油ベースのタレにオリーブ油を合わせた調味で、好みでレモン汁をかけていただく。

パクチー、玉ネギ、ネギ増し、粉チーズ、オリーブ油、温玉と、トッピングも異色。(トッピングは別料金)

監物店主いわく「油そばというメニュー名だが、油そばとは違ったカテゴリーの料理です」。実際、オリーブ油とだし醤油で味付けされた同メニューは、油そばのちょっぴりB級風のイメージとはまるで異なり、オリーブ油の芳醇な香りが鼻に抜けるシャレた味わいだ。

「油そばなのに、“もたれない”“太らない”“(食べていて)罪悪感が少ない”のが何といっても魅力です」と、監物店主は笑顔を見せる。

●店舗情報
「オリーブ油そば 三六」
所在地=東京都台東区浅草4-24-1
営業時間・定休日=11時~23時/水曜休
席数=10席

◇外食レストラン新聞2018年11月5日号の記事を転載しました。