食卓に、春の息吹を添えて。年が明け、お正月料理にもひとくぎりついたころ。早くも八百屋さんでは、初物の鮮やかな春野菜を見かけるようになりました。ひとあし先に春を見つけてワクワク嬉しくなりますね。初物の野菜は彩りもよく、食卓も華やぎます。季節の移ろいを感じる冬野菜と春野菜を組み合わせた献立は、おもてなしの一品にもおすすめです。

今しか味わえない、ぜいたくな味わいを

今が出始めの野菜には、筍(たけのこ)、菜の花、うるい、ふきのとうなどの山菜。そして旬が短く今しか味わえない野菜に蕾菜(つぼみな)や雪の下かぶなどがあります。どれも淡く鮮やかな色合いと食感、ほのかな苦みや甘みがあります。この時期ならではの繊細な味わいを生かした調理を心がけたいものです。

初物の野菜を調理するときは、生のままか軽く茹でて味見してみましょう。短い旬のあいだでも、採れる時期や場所が異なると少しずつ風味が変わります。とても繊細で優しい味わいの野菜が多いので、味付けはシンプルに薄味がおすすめです。火の通し加減にも注意して、食感や香りを損なわないようにしましょう。

【菜の花】色鮮やかにするコツは

菜の花とゆずのお浸し風

塩茹でした菜の花を、出汁しょうゆとゆずの絞り汁で和えます。ゆずの千切りを入れると、色鮮やかになります。ゆずの絞り汁は長く和えておくと菜の花の色が変わってしまいます。食べる直前にさっと味つけするのがおすすめ。定番のお浸しにする時も同様に。

菜の花は浸け置きすると色がくすみやすいので注意してください。茹でて保存したい時は、薄口しょうゆなどで軽く下味をつけ水分を絞っておくといいです。

菜の花おにぎり

塩茹でした菜の花は細かく刻みます。塩(粗めの海の塩、または藻塩)、桜海老の乾物、ごま、香りづけ程度に薄口しょうゆを合わせ、炊きたてご飯に混ぜ込みおにぎりに。海老のかわりにシラスを使っても美味。

【博多蕾菜】ほのかな苦味がやみつきに

蕾菜はわりと最近作られるようになった新種の野菜です。コリコリとした食感と、ほのかな苦味は一度覚えるとやみつきに。1月~3月頃までと旬が短い野菜です。

博多蕾菜の名の通り、福岡の野菜ですが、「四川児菜」(しせんじな)の名前で各地で生産されています。ザーサイと同じ株という話も。確かに中華風の味付けやごま油と、とても相性がよい野菜です。

まずはシンプルに――蕾菜の塩炒め

ごま油でさっと炒めると、すぐに火が通ります。紹興酒などで香りをつけるのもおすすめです。

蕾菜のしゃきしゃき香り和え

薄切りにスライスした蕾菜を熱湯で10秒ほど湯がきます。

千切りした白ネギ、ごま、塩、ごま油で軽く和えれば出来上がり。

カラッと揚げればメインの一品に―蕾菜の肉巻きフライ

蕾菜を1/2〜1/3の大きさにカットし、豚ロースの薄切りで巻きます。豚ロースには軽く塩・白胡椒を振っておきます。薄く小麦粉をまぶし、溶き卵に漬け、パン粉を付けて揚げれば完成。

お弁当のおかずにも便利です。お好みで豚バラを使ってもよいのですが、お肉の脂の香りが蕾菜の風味に勝ってしまうこともあるので、ロースがおすすめです。

縁起が良い初物を頂きましょう

旬の先取りは昔から縁起がよいとされ、少々値が張っても意気込んで食べては自慢したそうです。初物自慢の始まりは江戸時代。「初物七十五日」と寿命が伸びると言ったそうです。

初物というと初鰹や八十八夜の新茶などを想像する方も多いと思います。今のように保存技術のない時代は、「旬」の食べ物から季節を感じることは暮らしに深く結びつき、いまよりずっと身近でした。

ですから昔は、芽吹きの季節のほろ苦い山菜に春の訪れを感じ、初鰹、白魚、鮎、ヤマメといった魚、キュウリやトマトなどの夏野菜で盛夏を知るといったものでした。茄子や秋刀魚が出てくると秋を実感し、ぶりに脂が乗り大根が甘くなると冬本番。季節をこのように彩り豊かに過ごし、初物を楽しんでいたのでしょう。

今は一年を通して手に入る野菜も多いですが、食材にはそれぞれ「はしり」「さかり」「なごり」と風味に変化があります。旬の野菜はその変化によっても季節の移ろいを教えてくれます。

早いことが決して美味しいとは限りませんが、春の香りと彩りをひとあし先に感じさせてくれる季節野菜は、今も変わらず私たちの食卓を楽しませてくれます。