「40年間にわたって地元で愛され続けている“町中華”のチャーハン」と聞くと、昭和テイストのあのおなじみの風貌が目に浮かぶだろう。しかし、東京・錦糸町「菜来軒」の「五目炒飯」は、昭和の風情を漂わせながらも革新的だ。具材を刻んでご飯と炒める従来のチャーハンとは一線を画し、メインの具材を刻まず、そのまま盛り付ける。小さな店ながらもこの五目炒飯目当てに行列ができる、評判の人気メニューである。

懐かしさと新しさが共存する町中華

「菜来軒」の「五目炒飯」は、今年76歳になる女将の福澤和子さんが元気に鍋を振り、一品一品手際よく作り上げている。その映える見た目の魅力でテレビ取材も多く、駅から徒歩10分以上の立地だが「テレビで取り上げられた直後は行列ができる。ずっと鍋を振って、もう大変」と、和子女将は笑う。

五目炒飯だけで1日に40食以上売り上げることもあり、お昼の時間帯は来店客の9割が注文。チャーハン用に、毎日ご飯約2升分炊くという。

作り方は、細かく刻んだ長ネギ、チャーシュー、卵焼きとご飯を炒めてチャーハンにし、大きく切ったチャーシュー、かまぼこ、片栗粉と卵白をまぶして炒めたエビ、卵2個分を使った卵焼きをお玉に入れて、チャーハンと一緒に盛る。

具材が塊でのったその盛り付けはインパクトがあるが、流行の“映え”を狙ったわけではなく、「彩りがよく食べ応えがあるチャーハンにしたかったのよ。チャーハンにニンジンや椎茸を刻んで入れるお店も多いけど、具材はシンプルな方がおいしい」と、和子女将は言う。

エビ、チャーシュー、卵焼き、チャーハンをお玉に仕込み、器にポンと盛り付ける

実際、毎朝仕込む豚肩ロース肉のチャーシューの塊や、強い火力で一気に仕上げる大きな卵焼きは食べ応え抜群だ。「みんな、エビは好きでしょう。大きい方が喜んでもらえるから」と和子女将がうれしそうに説明するぷりぷりの大きなエビも、魅力のポイントだ。

具材は特徴的だが、味付けは昔ながらの“町中華”の王道手法で、「塩、コショウ、うま味調味料だけ。変な味付けをたくさん加えるより、これが一番おいしい」と、和子女将は言い切る。斬新な見た目と、ホッと安心できる味わいという「新しさと懐かしさ」が共存した異色の“おばあちゃんのチャーハン”なのだ。

「昔ながらの町中華」のたたずまいも好ましい

■店舗情報
「菜来軒」
所在地=東京都墨田区石原4-19-4
開業=1981年/席数=15席
営業時間=11時30分~24時。月曜休
平均客単価=800~1000円

◇外食レストラン新聞の2020年8月3日号の記事を転載しました。