京都出身で調味料研究家の松本葉子です。京都と滋賀は隣同士。なので食文化も近いんです。昔は海産物が手に入り難かった京都では淡水魚をよく食べますが、もちろん滋賀では琵琶湖の魚は重要な産物です。
さて、6月29日は「佃煮の日」。これは佃煮という言葉の元になった東京佃島の神社の起源に由来する記念日ですが、滋賀では湖魚を佃煮ならぬ「あめだき」にして食します。今回は滋賀の食べ方・湖魚のあめだきを中心にご紹介します。

琵琶湖には美味しい魚がいっぱいいるんです!

滋賀県の面積の1/6を占める琵琶湖。初めて琵琶湖を見た人はその大きさに驚くといいますが、豊かな自然の中、多くの魚介類が棲息しています。

中でも小魚類が多いのですが、これを「あめだき」にします。湖魚のあめだきに使われるのは滋賀や京都以外ではなじみのない魚も多いと思います。

トップの写真は、上から右回りに、「石貝」「稚鮎」「いさざ」「ごり」「すごもろこ」です。それぞれ個性的な風味があるんですよ。

新鮮な魚が捕れるのに、なぜ「あめだき」?

琵琶湖の魚の中でも網で捕る小魚は、そのサイズからして焼魚なんかは無理。しかも一度に大量にとれるわけで、保存の観点からも佃煮的なものにするのが必然でした。

また、山椒や生姜などを使って濃い味付けの佃煮にすることで淡水魚独特のクセも消せます。そしてこれは食べてみればわかるのですが、甘味の勝った味付けが淡水魚にとってもよく合うんです。

小魚だけではなく、大型魚、例えば鯉もあめだきにします。

大量の卵を抱いた鯉のあめだきはとてもリッチな味わい。栄養価も高いので、昔から病後や妊婦さんにも薦められてきました。

おかずとしても酒肴としてもあめだきはおすすめです

写真の左側にあるのは、滋賀や京都で「えびまめ」と呼ばれるお総菜です。
琵琶湖で捕れる小さな海老を大豆と炊き合わせたもので、海老からでる旨みが大豆に染みこんで絶品。これは写真のようにあめだきより薄めの味にすることもありますが、あめだき同様のこっくりと濃い味に仕立てることもあります。

右は稚鮎といさざのあめだき。鮎のあめだきは、ホンモロコに次いで高級品です。あめだきでは歯ごたえがある硬めに仕上げるのですが、噛むほどに独特の香気が口の中に広がります。丁度旬が重なることもあり、山椒と一緒に煮ることも多いです。

いさざは、あまりなじみのない魚かもしれません。頭が大きい小魚で煮る時は注意しないと頭が全部とれちゃったりします。淡水魚のクセは結構ありますが、旨みも強い魚で、滋賀では春の味として親しまれています。

写真では胡麻をからめていますが、「いさざ豆」といって、大豆と一緒に煮ることもよくあります。

湖魚のあめだきは小さくても存在感がある味なので、京料理店などでは八寸に盛り込まれたりします。

家庭ではご飯のおかずとして食べることが多いですが、酒肴としても秀逸。滋賀県には旨い酒を醸す蔵元も多いので、是非滋賀の地酒と一緒に愉しんでみてください。圧倒的な相性の良さですよ。

琵琶湖の魚のあめだきは、滋賀県ではどこでも手に入ります。川魚店はもちろん、スーパーの惣菜コーナーなどにもありますし、また専門店なら種類も多くあります。淡水魚はちょっと…という方にも、ごりのあめだきは食べやすくておすすめですよ。

観光物産館などにも必ず何種類かのあめだきが置いてあるので、未食の方は是非一度試してみてください。雄大な琵琶湖を眺めた後では、味わいもひときわ深く感じられると思います。