京都出身で調味料研究家の松本葉子です。京都人のイケズ具合を語る伝説みたいな「ぶぶづけどうどす?」のぶぶづけ=お茶漬けにも欠かせないのが京漬物。
漬物は京都の土産物の中でもとても人気があるようで、京都駅やデパ地下などには有名処の漬物店がずらりと出店していて、季節を問わず大勢の人で賑わっています。
毎月21日は漬物の日。今回はこの京都のお漬け物の食べ方についてご紹介します。

柴漬け・千枚漬、実は…有名漬物のトリビア

京漬物と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはどんなお漬け物でしょうか?

今や日本全国で食べられている柴漬けですが、洛北・大原が発祥ということになっています。建礼門院の逸話などを聞いたことがある方も多いでしょう。

が! 柴漬けってぱりぱり歯触りの良い紫色のキュウリの漬物だと思っていませんか? 実はこれ、違うのです。今でこそ柴漬けというとキュウリがほとんどですが、本来の柴漬けはナスを赤紫蘇とともに漬け込んだものなのです。しかも、重石をしっかりして、乳酸発酵させます。ナスを薄切りにして昔ながらの方法で漬けられた柴漬けはまるでなめし革のようにしなやかで独特の酸味があります。

千枚漬についても案外知られていないことがあります。まずあれ、薄く切ってるわけじゃないです。本格的に漬ける千枚漬は最初かぶらを結構厚めに切ってます。それが重石をじっくりかけることで押されて薄くなるんです。これがホント。

そして、千枚漬を買うと、一緒に緑の葉が入っていることがありますが、あれは聖護院かぶらの葉じゃありません。壬生菜です。千枚漬の彩りに壬生菜の漬物を添えてあるのです。

さらにさらに……京都では奈良漬は酒粕漬けではないことも。写真は京都人にとっての「奈良漬」の代表格・寛政元年創業の田中長奈良漬店のパッケージです。味醂漬けって書いてるでしょう?

漬物でしか食べられない野菜もあるんです

「煮ても焼いても食えない」なんて表現がありますが、京都でよく食べられている漬物の材料となる「すぐき(すぐき菜)」と「日野菜」は、この言葉通りです。まぁ食べられないってことはありませんが、煮ても焼いてもおいしくないです。

すぐき漬は独特の漬け方で乳酸発酵の酸味をしっかりだして仕上げる上賀茂特産の漬物です。原料のすぐき菜という野菜は一見かぶらみたいに見えるんですが、繊維質が強くて漬物にしかなりません。

日野菜は滋賀県の日野という土地由来の野菜ですが、京漬物としてもよく知られています。生の日野菜はごく細い大根のような野菜で首のところが鮮やかな紫色です。ぬか漬けにするほか、薄い輪切りにしてその名も桜漬けというピンク色の浅漬けにします。

日野菜はほのかな苦みがある野菜で、漬物にするとそれがアクセントになって喜ばれるのですが、大根のように料理に使ったりすることはほとんどありません。

写真左が日野菜漬(ぬか漬け)で、右がすぐき漬です。
ついでにもうひとつトリビア?を。 日野菜は斜め切りか薄い輪切りにします。すぐきは地下茎(かぶらみたいなところ)は、ごくごく薄く切ります。どちらも葉は相当固いのでみじん切りにします。

このふたつの漬物の切り方は、京都人にとっては「掟」ともいえるもの。料理店でもすぐきが厚く切って出されたりすると、「おたく、どちらの方ですのん?」と、イケズ満開になるわけです(笑)

京都では定番の漬物の食べ方あれこれ

まず「贅沢煮」。「大名煮」ともいわれる写真左の料理です。

漬かり過ぎた大根のぬか漬けや沢庵漬を水に浸けて塩だししてから煮たものです。そのまま食べられる漬物を煮るから「贅沢」だとかいうことになっていますが、そのまま食べておいしくないから煮るんじゃないの?

それはさておき、倹約家の京都人なら、出汁をつかわず、出汁をとった後のかつお節や煮干しと一緒に煮たりします。唐辛子を入れることも多いですね。同じような料理が北陸にもありますが、京都でもこれは家庭の味です。

また、沢庵を刻んでばら寿司(ちらし寿司)にいれることもあります。祇園の老舗「いづう」は、鯖寿司で有名ですが、ここには「御台所寿司」というのがあって、これは沢庵が入ったばら寿司です。

家庭なら贅沢煮の隣にあるように、残り物の漬物を全部細かく切ってご飯に混ぜることも。ちりめんじゃこがよく合うので一緒に混ぜるのもおすすめです。

割烹なんかでは、トップの写真のような漬物寿司(これは家で作ったものなので見た目がイマイチですが)が登場することもあります。

京都と漬物はやっぱり切っても切れない深い関係が。今度京都で漬物を買ったら、京都人の漬物の食べ方も意識してみてはいかがでしょう? ただし、イケズが伝染しても責任もちませんが…(笑)