だしのうまみを生かすと料理がおいしくなります。とくに野菜料理にだしを用いると、野菜のおいしさが引き立ちます。野菜料理にうまみを効かすため、肉を組み合わせることはよくありますが、だしでも同様の効果を得ることができ、肉の飽和脂肪酸が加わらない分、おいしくてヘルシーな副菜になります。

素晴らしい「だし」の世界

去年、朝日新書から「だしの神秘」という本が発行されました。著者は京都大学農学研究科教授を長く務め、現在は龍谷大学農学部食品栄養学科教授を務めている伏木亨先生です。

伏木先生は食品の味について多角的なアプローチで研究しておられて、しかもその高度に科学的な研究内容をわかりやすく執筆する能力にも長けておられます。

私が編集していた月刊誌「食生活」でも、「脳とうま味の関係」というタイトルでご執筆いただいたことがあります(2011年10月号)。脳がうまみを受け入れるメカニズムについて、実にわかりやすく明快に、しかもおもしろく解説していただきました。

そんな名文家の伏木先生が専門分野の「だし」について書いたのですから、楽しくないわけがありません。1ページめくるごとにおもしろく、感動を呼ぶ内容になっています。ぜひ、手に取っていただきたい一冊です。

だしを効かせた、ほんのり酸っぱい「ナスとピーマンの焼き煮びたし」

だしのうまみを生かし、野菜のおいしさを引き立てた、おいしくてヘルシーな副菜をご紹介します。まずは、「ナスとピーマンの焼き煮びたし」です。

<材料・2人分>
ナス…1個
ピーマン…4個
ごま油…大さじ1
だし汁…1/2カップ
酒…大さじ1
砂糖…小さじ2
酢…大さじ2
しょうゆ…大さじ2
ショウガ…1片

<作り方>

  1. 水に昆布を入れ、30分〜半日浸けておく。かつお節は水で濡らして湿らせ、ピーラーで削る。
  2. ナスは乱切り、ピーマンは種を取って四つ割にする。ショウガはすりおろす。
  3. 昆布を浸けた水を中火で沸かし、沸騰し始めたら昆布を引き上げる。火を止めてかつお節を入れ、2分ほどおいたらキッチンペーパーを敷いたざるで漉す。
  4. 鍋に(3)のだし汁、酒、砂糖、酢、しょうゆ、(2)のすりおろしたショウガを入れて煮立て、ショウガの香りが立ったら火を止める。
  5. フライパンで油を熱し、(2)のナスとショウガを焼く。
  6. (5)に火が通ったら(4)の中に入れ、器に盛って完成。

だしが決め手の料理です。できたてでもおいしいし、しばらく時間をおいて具材に浸け汁が染み込んだところでいただいてもおいしいです。浸け汁は煮立てたことで、酢のツンとした酸味が適度になくなり、ショウガの香りも立ち上がります。

アサリと切り干し大根の合わせ煮

<材料・4人分>
アサリ(殻付き)…200g
水(砂抜き用)…1/2カップ
塩(砂抜き用)…小さじ1/2
青ネギ…適宜
酒…大さじ3
薄口しょうゆ…大さじ1
切り干し大根…1袋
にんじん…中1/2本
油揚げ…1枚
水…2カップ
だし汁…1カップ
砂糖…大さじ2
薄口しょうゆ…大さじ1
塩…小さじ1/2

<作り方>
1.殻付きのアサリをよくこすり洗いし、バットや平らな器に入れ、塩を溶かした水をひたひたに注ぎ、ラップをして2時間〜半日ほど冷蔵庫の中で砂抜きをする(砂抜きの間にアサリが口から水を勢いよく吐き出すので、冷蔵庫が汚れないようにラップをすると良い)。

2.切り干し大根をほぐしながらもみ洗いし、水2カップに30分ほど浸けて戻す。

3.にんじんと油揚げは細切りにする。

4.(2)の切り干し大根を食べやすい長さにざく切りする(戻し汁は捨てない)。

5.鍋に(3)(4)、切り干し大根の戻し汁、だし汁(だし汁の作り方は「ナスとピーマンの焼き煮びたし」参照)を入れ、砂糖、薄口しょうゆ、塩を加え、好みの歯応えになるまで中火で煮る。

6.青ネギを刻む。

7.(1)のアサリを冷蔵庫から取り出しザルに開け、フライパンに入れ、(6)の青ネギと酒、薄口しょうゆを加え、蓋をしてアサリの口が開くまで3分程度火にかける。

8.(5)の切り干し大根の煮物を器に盛り、(7)のアサリの酒蒸しを上から回しかける。

かつお節と昆布のだしのほか、アサリを酒蒸ししたときに出るアサリのエキス「コハク酸」もだしになります。切り干し大根の戻し汁もうまみがあり、だしになります。アサリのエキスが切り干し大根に絡んで、とてもおいしいです。

かつお節を削ったり、だし汁を漉したりする作業が面倒という方は、もちろん粉末だしを使ってもかまいません。しかし、実際にやってみるとさほど手間はかからないし、値段も粉末だしとさほど変わらなかったりします。ぜひ、一度お試しください。