お料理に「あと一味」、すだちをかけるのが徳島流【料理マスターズ・神田裕行】
私はすだちが大好き!
もちろん私は徳島市の出身であり、いくばくかの郷土愛がその想いに拍車をかけていることは認めますが、その私情を差し引いてもすだちは魅力的な果物であり、調味料であると思うのです。
お味噌汁には皮を切って浮かべます
私は徳島で料理屋を営む両親の長男として産まれ、高校を卒業してから大阪で板前修業したのですが、その時に驚いたのが、すだちが徳島県外だと意外と知られてない上、しかも高級品として扱われているということでした。スーパーマーケットに並んでいるのは一粒ずつで、しかも1個の値段が当時でも50円とかしたのです。
そうです、まだ昭和の徳島市内ではすだちはみかんと同じように箱で買うのが普通で、市場では一箱100円、200円が当たり前だったのですから。
徳島の人はすだちを何にでもかけて楽しみます。お刺身に、お漬物に、焼き魚に、はもちろんのこと、お味噌汁には皮を切って浮かべますし、お酒に絞るかたもいらっしゃいます。
中国料理のお店に行くと卓上にお酢が置いてあり、いろんな料理にかけますよね? あの感覚だと思います。お酢はクセになるし、健康的な調味料です。例えばお漬物。けっこう塩が効いているにもかかわらず「あと一味」の気持ちでお醤油をかける方、けっこういますよね?でもこういう時に「あと一味」のすだちをかけるのが徳島流なんです。
ちくわやかまぼこなんかにも同じような使いをしますよ。お醤油の代わりにすだちを一振り、はもちろん健康的なんです!だって塩分の代わりに身体に良いクエン酸を加える訳ですから高血圧対策に最高ですよね?塩がしてある焼き魚にも最適です。塩味をまろやかにし、かつ風味が効いておいしく召し上がっていただけますよ。
胃腸にも優しい「すだち酢」
でも徳島のすだちを使った料理で究極なのは、ちらし寿司などを作る時の寿司酢にすだち酢を使うことでしょうか?
そうなんです!神山町やその近隣のすだち特産地帯の方々はお寿司の寿司飯作りに市販の米酢や蒸留酢を使わず絞ったすだちの果汁を使います。もっと言うとしめ鯖などのお魚の締め酢にもすだちの酢を使います。
「ちょっとフルーティになりすぎるのでは?」と思うかもしれませんが、これが最高においしいんです。蒸留した酢を使うと酢の物にせよ、寿司飯にせよ、ちょっとツンとした酸味を感じますよね?
でもすだちの酢はそういう酢酸系のツンが無くて口にも胃腸にも優しいんです。すだちの寿司飯にすだちの果汁で締めたお魚のまた合うこと!僕が保証いたしますのでぜひお試しくださいね!
あ、確かに東京や、関東以北の方にはちょっと高くつきすぎますかね?でもご安心ください。現代はネット社会、近くのスーパーで買うすだちは高くても、ネットで調べていただければすだちの酢一升で二千円くらいで手に入ります。「一升なんて使い切れない?」もちろんそう思われると思うかもしれませんが実はこのすだち酢、冷蔵庫ならずっと長持ちしますし、実は冷凍もできます。
瓶で送られて来たなら500くらいの小さな空きペットボトルに移し替えて冷蔵あるいは冷凍してください。自家製ポン酢を作るのも良し、お白湯にたらりと垂らしてすだち湯を飲んだり、焼酎に垂らしてすだち割にしてみたりと用途はたくさんあります。ぜひ健康にもグルメな食卓にも万能なすだちをご家庭に。
神田裕行(東京都 かんだ 第4回料理マスターズブロンズ賞受賞)
大阪、喜川昇六での修業を経て1981年渡仏、パリの和食店TOMOの料理長となる。88年フランスのレストランガイド、ゴー・エ・ミヨでヨーロッパの日本料理店の最高得点を獲得し た。91年帰国、徳島の料亭 青柳へ。修業と並行して地元の調理師学校教授を務める。98年赤坂のbasara 総料理長を経て2004年 かんだ開業。1963年徳島県生まれ。
日本に、料理人を対象にした国の顕彰制度があります。2010年に農林水産省が創設しました。おいしい料理を提供することはもちろん、良質な食材を作る生産者と一緒になって日本の第一次産業の活性化に貢献している料理人を表彰します。食と農がつながり、地方が元気になります。現在、全国に49名の料理マスターズ受賞者がいます。この「料理マスターズガイド2017」は、世界に冠たる日本の食の未来に光を当てる料理のプロフェッショナルの世界に、読者の皆様をご案内します。
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