国内で7000万人に達すると想定されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)人口。情報発信の在り方が個別化の様相を帯び、大きく変化している中、巨大な新需要が食品産業で生み出されている。「自家消費」や「贈答」「プチ贅沢(ぜいたく)」など従来までの“胃袋”に関連するニーズとは異なる、「自己表現」や「拡散」、「コミュニケーションツール」を主たる目的とする新需要だ。
「インスタ映え」「フォトジェニック」などファッション性やイベント性を取り込むこれらの動きは、“脱・胃袋依存型”の新トレンドとして市場を席巻。近い将来、潜在需要や拡散効果を含めると食品産業85兆円(生産額)の1割を超えるという。日本食糧新聞ではこれらの新たなニーズを「食の第3需要」として定義、現状や食品産業に及ぼす影響、今後の課題などを探る。

脱・胃袋依存型の「食の第3需要」

「食」に対する需要構造は戦後、短期間で大きく変化してきた。しかし、「空腹を満たす」「食事を楽しむ」など“自らの胃袋”を媒体とする「第1の需要」と、「ギフト」や「土産」「パーティー」など“他者の胃袋”を介する「第2の需要」を軸とする構図はこれまで不変で、ライフスタイルや社会的ニーズに対応する新需要(簡便性需要や健康需要など)は、その範囲内においてのみ創出されてきた。

「食の第3需要」は、マクロ的に“胃袋”に依存しない(あるいは主軸としない)点において、従来までの需要構造と決定的に異なる。少子高齢化を背景に、国内の胃袋は当然減少傾向に入る。新しい付加価値や購買理由を模索する必要性が強まる中、食品業界はこれまでにない“新種の需要”として対応することが必須となるだろう。

視覚に訴求するオシャレ系メニューは初動での拡散効果が非常に高い(大阪・天満橋「JTRRD Cafe」

ルーツにはさまざまな諸説があるが、日本食糧新聞の姉妹紙「日食外食レストラン新聞」によると、食品の外観(盛り付けやデザイン)が国内で大きくクローズアップされたのは、80年代に外食市場に誕生した「フュージョン(各国の伝統料理の枠に収まらない融合料理)」にさかのぼるという。

元来、わが国は異国の食文化を迎合し、融合して新たな潮流を生み出す力に長ける。同紙の岡安秀一編集長は「フュージョンの登場により、“インパクトのある盛り付け”の概念が拡大したが、スマホやSNSの爆発的な広まりを背景に15年ごろから再び注目されるようになった」と分析する。

「鬼盛り」「発想系」「シズル」 最先端の外食やスイーツでも

17年流行語大賞にも選出された「インスタ映え」、マーケティングの重要概念となっている「フォトジェニック」。両キーワードは「食の第3需要」を分析するのに、必須の新文化だ。現在最先端を行く外食分野を例に、「日食外食レストラン新聞」の協力に基づき特性を分類する。

(1)鬼盛り系

“がっつり”と盛るタイプで、ブームの火付け役である「レッドロック」の「ローストビーフ丼」などで知られる。メニュー開発しやすいことから店舗サイドで採用しやすく、動画による拡散性に優れる。男性層・若者層の自己表現ツールとしても定着。

(2)贅沢系

稀少高価な材料をふんだんに使用することでインパクトを増大。採算度外視での低価格から、「プチ贅沢」を取り込む高価格まで価格設定が幅広い。イベント性に優れ、マスでの露出も多い。

(3)発想系

ユニークなデザインや花火によるエンターテインメント性を具現化するアイデア主導型タイプ。白身をメレンゲ化した親子丼や、アニメロボットそっくりのケーキなど、全世代での“場”を盛り上げるツールとして機能する。

(4)オシャレ系

女性が好むおしゃれでかわいいデコレートを追求。「食の第3需要」を最も象徴する分野であるが、店舗サイドのセンスが非常に問われる。初動での拡散効果が非常に高く、多くのヒットを生んでいる。

(5)シズル系

誰が見ても“とにかくおいしそう”と感じさせる盛り付けメニュー。焼き音が漂うような分厚いステーキ、具だくさんの断面を強調した“萌え断サンド”などが代表例で、加工食品を含めた必須の差別化戦略である「シズル感」を極限まで追求する。

これら分類ジャンルはいずれも“自身の胃袋”に加え、不特定多数の他者を巻き込んだ消費促進(口コミ喚起)に優れる共通点を持つ。消費の2次利用ともいえるこの特性は嗜好(しこう)が多様化する現代において非常に有効であり、副次的な経済効果を誘発させる。

さらに17年下期からは惣菜やテークアウト分野でも提案がさらに加速しており、首都圏デパ地下を主戦場にSNS映えを意識したメニューが並ぶ。また、リテールスイーツではすでに差別化戦略の基軸として積極的に取り入れられており、和菓子分野にも波及する。

両分野ともに原料を提供する素材メーカーではトレンド分析が活発化、メニュー提案でも「インスタ映え」「フォトジェニック」を意識した取組みが完全に定着。さらに容器メーカーでは食シーンの美観化に対応する新機軸製品を多数商品化、催事連動などを含めた通年での活性化を進めている。

食の発信を楽しむ声も

市販の加工食品分野も有望だ。口コミ・拡散の側面では従来までの商品パッケージのデザイン性や斬新なフレーバー提案による話題喚起から、食シーンの喚起や口コミなどの拡散効果へ誘導する取組みが目立ち始めている。

大手では近年に限定すると、コカ・コーラシステム「コカ・コーラ」の“リボンボトル”、明治「明治ザ・チョコレート」のパッケージアレンジ、150万人シェアの“バズ祭り”を記録したネスレ日本「キットカット」が知られる。企業、消費者と発端を問わず、製品特性に新たな魅力が付与され、その価値や魅力を共有することで拡散につながるという点で共通するといえるだろう。

ハロウィーンコスプレなど催事と連動した提案は今後主流になる可能性が高い(メルシャン考案の期間限定ワインバー「悪魔の晩餐会」)

食に対する新たな需要喚起を背景に、生活者の生の声も続々と聞こえてきた。料理動画サイト「モグー」などを運営するスターツ・アウトが開催したSNS映えする料理教室「盛り付けワークショップ」には、多数の女性が参加。最も目立った声は「盛り付け自体を楽しみ、それを発信することでお互いのコミュニケーションを楽しむ」というものだった。

料理そのものをまず「楽しみ」、美しく盛られたメニューを画像(動画)発信することを「楽しむ」。そして、これらを共有すること自体を「楽しむ」—消費者サイドとして「食品」に係るすべての価値や魅力を享受するとも言えるこの流れは、舌や胃袋のみによる楽しさを超越し、従来までのホビーとしての料理やグルメ文化とは一線を画すものだ。

SNSの普及により全生活者が情報発信拠点となる中、食品に携わる関係者はこれらの声に耳を澄まさなければならない。

「表現する食」の課題は

世界最高峰のレベルを持つ日本の食品産業として、取り組むべき課題も多い。

衣食住において、「食の第3需要」は自己表現やコミュニケーションツールとしての側面で「衣」や「住」の領域に大きく足を踏み込む。人類は「食」なしでは生存できない。すべての生活者の命を預かる重要な基幹産業として、外観や不安定な口コミ拡散に動じない、成長への信念と拡大施策、そしてコモディティーな安定供給をまずは忘れてはならない。

例えば外食分野では、SNS拡散や口コミ効果を狙う新メニューが日々登場、これにより参入障壁の低下を招いている。話題メニュー定番化は食文化の向上につながるが、極めてまれであり、一過性の話題で終わってしまうことも多い。実力や歴史ある繁盛店、名店、有名店などはその店の料理というだけで、インスタ映えするメニューとして成立する。社会問題にもなっている「インスタバエ」は食本来の楽しさへの警鐘と位置付けることができるだろう。

また、大半の企業ではSNSに専属する部署を効果的に設置することは困難だ。発信側としての機能に集中することは可能だが、拡散による“風評被害”に完璧に対応することは事実上、不可能に近い。対応策は現状、自社のブランド力や強みを磨き抜き、消費者の信頼を積み重ねる以外に手はない。

総じて、「食の第3需要」へは、無視できない巨大な新トレンドとして自社の強みを最も効果的に生かせる形で消費者ニーズに対応することを模索する構図が続くと思われる。ハイリスク・ハイリターンの新トレンドとして、各食品市場、各企業がどのように可能性を見極めるか。第1のターニングポイントは、そこにある。

◇日本食糧新聞の2018年1月1日号の記事を転載しました。