福島県郡山市は、地元資源であるコイを中軸に活用した地域活性化に取り組んでいる。約140年前の水路開拓に端を発するコイ養殖は、現在全国屈指の生産地に成長。市が主導する「コイの街・郡山」の定着と鯉食の浸透を目指し、市内外への情報発信や商品開発を進めている。

年間約900tと全国有数の生産地

郡山市のコイ生産量は年間約900tで、茨城県に次いで全国第2位。そのうち700~800tを郡山市で生産しているため、市町村別では全国第1位だ。同市におけるコイ養殖の歴史は、1878年の安積疏水の開拓にまでさかのぼる。

明治維新後の武士の救済と殖産興業のための国営事業として進められた猪苗代湖からの約130kmにわたる水路開拓は、それまで広大な原野が広がっていた郡山一帯を潤した。当時は海産物が手軽に買えず、淡水魚のコイは貴重なタンパク源。

同地域では養蚕業があり、餌となる蚕のサナギが豊富で、開拓によって不要になった灌漑用ため池は、格好の養殖場となった。

全国唯一の鯉係でプロジェクト推進

全国屈指の養殖量を誇る郡山市だが、出荷先は古くから郷土食としてコイを食してきた会津や、東北、関東甲信越など市外がメーンだった。

そこで郡山市は、2015年に全国で唯一の「鯉係」を園芸畜産振興課内に創設。「鯉に恋する郡山」を合言葉に、新たなコイ料理の開発や、郷土料理としてコイを食べるハンガリーとの文化交流などの普及プロジェクトを行ってきた。

これまで市内でコイ料理を食べられる店は3店ほどしかなかったが、現在は28店舗まで増加。若穂囲(わかほい)豊係長は、「将来的には50店舗まで増やしたい」と規模拡大を目指す。

また、コイに特化した冊子「KOIKOIマガジン」を創刊し、同市のコイとの関わりに始まり、市内の鯉料理店を特集するなど、一般消費者への普及を図っている。

郡山市内のコイ料理店を網羅する「KOIKOIマガジン」

味・栄養効果訴求 コイ食普及目指す

現在、市内にある養鯉業者6社の中で最大の年間500tを生産する熊田水産は、市内外への原料出荷に加え、早い段階から養殖したコイの加工を手がけてきた。旨煮をはじめ、洗い、魚醤油などを手がける。養鯉では独自配合の餌料を与え、地元市場へ出荷している。熊田純幸社長は、「最近は相場安が課題だが、臭みがなく肉に甘みがある特徴をもっと訴えたい」と語る。

熊田水産は養鯉と加工の両方を担う

コイは元来薬用魚として重宝されてきた側面があり、「母乳の出をよくする」「むくみ解消に効果がある」などの効能があるとされる。実際、コイはビタミン類やミネラルが豊富で、栄養面でも優れている。

こうした薬利効果も解説しながら、郷土食としてのコイ料理の提供を行うのが正月荘だ。鈴木正二社長は、新しいテイストを加えたコイ料理にチャレンジ。コース料理の中でも提供される「中華風甘酢あんかけ」は幅広い層に人気だ。郡山市では、コイのパウダー化などにも試みており、今後も地域資源の活用を進めていく。

◇日本食糧新聞の2017年10月4日号の記事を転載しました。