調味料研究家の松本葉子です。以前、奈良の奈良漬を取材したことを機に奈良漬が好きになり、加えて奈良の友人からしょっちゅういろいろな奈良漬をいただくので、奈良漬にはちょっとうるさいのです。
「奈良漬け」という名称は既に一般名詞。白瓜の粕漬けはどこで作られていても奈良漬けという名で呼ばれていることがほとんどです。けれど、奈良の奈良漬けはやっぱり特別。奈良の人たちにとても大切にされている奈良漬けの食べ方をご紹介します。

「my奈良漬け屋」があるってほんと?

奈良には奈良漬けの製造販売元がたくさんありますが、同じ「瓜の奈良漬け」でも店によって味も見かけもかなり違います。なので、奈良の奈良漬けの食べ方は、まず「お気に入りの店で買う」ことから始まるのです。

いくつかの店の奈良漬けを盛り合わせたのが下の写真です。
ちなみにこの写真の下部に写っているのは今西本店のきゅうりの奈良漬です。

アップはこれ。真っ黒です。粕のみで漬けた奈良漬けですが、4年を超える漬け込み期間の中で6回以上も漬け替えて作られたもの。初めて見る人は「これって奈良漬け?」と驚くそうですが、奈良ではこれじゃないと奈良漬けじゃない! という人もいます。

奈良漬けの掟その1 粕は洗い流してはいけない

奈良漬けのパッケージには、「粕は取り除いてお召し上がりください」「粕を洗ってから切り」などと書かれていますが、奈良では「断固洗わない派」が優勢です。

とはいえ、粕ごと食べるわけではありません。

友人曰く「粕は大事。食べてどうする!」 はぁ?

では洗わずに粕を取り除くにはどうするかですが、よく書かれている「ふきんなどで拭き取る」は実はNG。こてこてべたべたであまりきれいになりません。

最近のトレンドはこれ。シリコンなどのへらで粕をはがすように取り除きます。手も汚れずうまくはがれます。

で、取り除いた粕はどうするかですが、残った奈良漬けは粕にくるんで保存が鉄則なので粕は大切なのだそう。

私はラップに包んで冷蔵庫にいれているといったら某奈良漬け店主に抗議されました。「きちんと漬けた奈良漬けは粕にくるんでおけば常温で軽く2年は保ちます!」。

じゃあ奈良漬けを食べてしまったら粕は捨てるのか? そんなことはありません。何かを漬けます。でもたくさんあれば肉や魚も漬けられるけどちょっとじゃねぇ? という私にこれまた別の奈良の友人が教えてくれたのがこれ。

包み紙に残った粕に、ミニトマトや切ったりんごを漬ける。これなら少量の粕で漬けられてすぐに食べられて酒のあてにぴったり。

奈良漬けの掟その2 切ってすぐ食べてはいけない

「奈良漬けは切ってからしばらく冷蔵庫にいれておいてください」。取材で訪れた奈良漬け店のいくつかでこう言われました。「食べるのは切ってから3日後以降にして」と懇願されて仰天したことも。余分なアルコールがとんで味がまろやかになるそうです。

奈良の友人「常識やん」。……そうですか。

左:切ってすぐ 右:3日後 見た目はほどんど変わりませんが、確かに味は違います。最初のツンとくる感じがなくなりました。

奈良漬けの掟その3 用途によって切り方を変えるべし

奈良漬けといえば瓜をアーチ型に切ったものと思われがちですが、切り方で食感がかなり変わります。薄切りにすると切ってから時間をおかなくても食べやすいそうで、角切りにすると歯ごたえが良いそうです。

この掟に従っていくつかアレンジ料理を作ってみました。
ひとつめは、奈良漬け握り。酢飯の酢は軽めがよいようです。

ふたつめは、奈良漬けディップ。マヨネーズと奈良漬けって相性良し。

みっつめは、クリームチーズを薄切りの奈良漬けで巻いて、リンゴと蜂蜜を添えた一皿。

奈良の人だけが食べている?奈良漬けの新漬け

奈良漬けの新漬けってご存じですか? 普通の奈良漬けは何度も漬け替えをしながら2年以上漬けこみますが、新漬けは、瓜がとれはじめたらすぐに漬けてその夏中に販売されるもの。熟成の風味はありませんが、歯触り・味ともに軽やかで独特の美味しさです。

毎年の販売を楽しみにしている人も多いそうですが、少量しか出回らないので奈良の人でないとなかなか手に入りません。下の写真の左が新漬け。

奈良漬けは無限の可能性を秘めている!

最近人気の奈良みやげがこれ。奈良の洋菓子店と奈良女子大のコラボから生まれた奈良漬サブレです。これが美味しい! 焼き込まれた奈良漬けの風味が効いています。

長い歴史に培われた伝統ある漬物・奈良漬けですが、現代人の食生活にも柔軟に対応する懐の深さがあります。

奈良の奈良漬け、食べてみたくなりませんか?