亜熱帯で生産された常識破りのウイスキーが世界の注目を集めている。ウイスキーは冷涼地で造るのが常識とされていた中で、台湾の飲食料・酒類メーカー、金車グループが製造販売する高級台湾産ウイスキー「カバラン」が7月、本場英国の品評会で2年連続となる部門最高賞に輝いた。高温多湿の環境下で熟成される世界的にもまれなウイスキー造りの真価に迫った。

高温多湿下で短期熟成

李玉鼎社長(リー・ユーディン)は11年前、ウイスキー事業に参入。「ウイスキー市場の中長期的な拡大を見込み、台湾でのウイスキー造りを決断した」。台湾では無理と専門家から反対されたが、「品質にベストを尽くせば数量はついてくる」との思いで試行錯誤を重ね、台湾独自の気候を生かした高品質なウイスキーの製品化を実現した。

カバランは、ワインの熟成などに使った良質な米国製樽を自社でチャーリング(樽内面を焦がす)。高気温下で短期間熟成することにより複雑でバランスのある味わいを生み出している。最新鋭の香り検査機器も使い品質を一定に保つ。「今後もシングルモルトのみを造り続ける」(李社長)ことでブランドの個性の確立を目指す。

06年に蒸留所が稼働して以来、11年間で国際的な品評会で220超のメダルを獲得。カバランは新しいブランドであるために、大胆にチャレンジできる強みがあると捉える。現在も世界中の樽を使い商品開発を進めており、「20年ごろにはこれまでにない斬新な新商品を投入する計画だ」(李社長)。

蒸留所を構える台湾北東の宜蘭(イーラン)は気温が高く、6月から10月にかけて36度C前後の気温が続く。マスターブレンダーのイアン・チャン氏は「台湾は世界で最も暑いウイスキーの生産地」と評し、スコットランドのスペイサイドと比べても常時15度Cほど気温が高い。

ブランド名の「カバラン」は蒸留所のある地域の昔の地名からとった。気温が高いため、熟成が早く進むのが最大の特徴。熟成中のウイスキーに樽由来の香り成分などが非常に早く溶出する。その分、蒸散する量も多く、年間で10%程度にも上り、スコットランドの約5倍となる。

5階建ての熟成庫内の湿度は70%から85%と高い。下階の室温は27度C、上階は42度Cにも上り、1階から5階で10度C以上の温度差がある。熟成中の樽の各階の移動はなく、上階ほど大きい樽を使うなど樽の大小によって熟成速度をコントロール。品質の均一化を図っている。

16年12月には2棟目の工場を新設した。年間製造数量を当初の200万本から5倍の1000万本へと増強。ポットスチル(単式蒸留器)は合わせて10セット20機備え、生産数量は「世界で10位に入る」(李社長)。年々海外への販路を広げており、海外市場での売り込みを加速させていく考えだ。また、工場には年間で80万人超が見学に訪れるなど、一大観光地になっている。

同社はカバランの試飲販売を行う専門店「カバラン展示販売センター」を台湾域内に46店舗構える。台北市の中心地にある南京二展售中心では30~50代の男性客が多く、海外へのギフト需要も増えているという。17年年内には50店舗にまで拡大させる計画だ。

◇日本食糧新聞の2017年8月25日号の記事を転載しました。