画期的なべーガン寿司の店、「ビヨンド・スシ」が第1号店をオープンしたのは、5年前のこと。ユニオンスクエア近くにできた小さな寿司のファストフード店だった。雑穀米や野菜、オリジナルソースを使った寿司のユニークさがどう受け入れられるのか予想もつかなかったが、それから堅実に成長し、現在、5店舗を構える。
新しくオープンしたのは、3000平方フィートのフルサービスのレストラン。バーも備え、タイムズ・スクエアも近距離にある、ファッション街の一角の一等地だ。競争の厳しいニューヨークで、着実な成功を積み上げてきた理由は何なのか、オーナーシェフのガイ・ヴァクニンさんにその成功の秘訣を尋ねてみた。

客の声に耳を傾け次々と新店舗オープン

小さな第1号店をオープンした時、ヴァクニンさんのポケットには、1000$しか残っていなかったという。しかし、10ヵ月後には、かのチェルシーマーケットに第2号店をオープン。その後間もなくミッドウエストのビジネス街に第3号店をオープンした。そして、今年5月には、ヘラルドスクエアに第4号店とウォール街に第5号店をオープン。

ヴァクニンさんは、朝起きてまず最初にすることが、口コミサイトのYelpなどで客の批評を確認することだという。謙虚に客の声に耳を傾け、必要ならばすぐに改良する。エゴをまず捨てることが大切だという。

ちなみに、以前、料理があまりに塩辛くて驚いた店があった。実際にYelpの批評を読んでみると、「いくら辛いものが好きな自分でも、これは辛すぎる」といった批評ばかりだった。こんな批評がたくさんあるのだから、いつか改良されるだろうと思っていたが、いっこうに変わらず、いつの間にか閉店してしまった。

ヴァクニンさんは、客の舌に応えなければ、成長どころか存続さえ危うくなるのを知っている。開店当初からある寿司ロールも、客の反応をキャッチしてアップデートしている。また、同店の客のデモグラフィーもよく把握しており、53%が常連で、8割が女性だということだ。

寿司ロール

「クリーンな食」の新しいスタンダード

メニューのラインアップは、開店当時から拡充され、ラーメンやそばを使ったヌードル・サラダや、最近のボウル(丼物)人気をふまえてライスベッド・サラダなども加えた。(炊いたコメを底に詰めてあるのでライスベッドという)。

ライスベッド・サラダは、黒米ご飯にさまざまな野菜をのせたもので、4種類あり、それぞれキャロットジンジャーやハラペーニョ・ピーナツバターなどのオリジナル・ソースをかける。

ヌードル・サラダも4種類あり、たとえば、グリーンルートは、茶そばに海藻サラダ、ローストしたアーモンド、ごま、パセリ、コリアンダーをのせて、ポン酢のソースを絡めたもの。これがなかなか香ばしく、日本人の舌にも合う。サッシービーンは、ラーメンに、コリアンダー、黒豆、コーン、ローストしたトマト、アボカドなどをのせ、タヒ二ーのソースであえたもの。

禅サラダ(黒米ご飯、ベビーグリーン、アボカド、キュウリ、マンゴー、ポートベローマッシュルーム、カシューナッツ、コリアンダー、ハラペーニョ・ピーナツバターソース)(11$50¢)

同店のコンセプトは明瞭だ。「クリーンな食」の新しいスタンダードを築くことを目標に、サステーナブルで、オール・ナチュラル、ヘルシーで体に良く、目と舌を楽しませる料理を提供している。

使用している食材も、アボカドやアルファルファ、ポートベロー・マッシュルームなどの野菜やマンゴーなどのフルーツ、ナッツ類、雑穀米で、100%植物性。同店は、数少ないべーガンのレストランだ。べーガンは、あらゆる動物性の由来の食品を口にせず、卵、乳製品、蜂蜜も取らない。

同店は、以前はベジタリアンであったが、途中でべーガンに切り替えた。ベジタリアンがベーガンの店へ行けても、ベーガンはベジタリアンの店に行けない。べーガンにすれば、ベジタリアンも、ベジタリアンでない人もすべて包括できるので、それだけたくさんの人をすくい上げることができる。野菜たっぷりのおいしい寿司を食べるのに、べーガンやベジタリアンである必要はない。

ロングアイランド・シティにあるキッチンで、夜の間に仕込みをし、開店前に全店に配送、各店で注文を受けてから作っている。

新しくオープンしたヘラルドスクエア店のバー

新店舗はフルサービスの着席店

新しいファイン・ダイニングのヘラルドスクエア店は、6割がテークアウト客だったこれまでの店とかなり違い、着席してサーバーに注文する、フルサービス店だ。かなり大きなバーも併設し、豊富なドリンクリストには、日本酒のカクテルがずらりと並び、アフターファイブのビジネス客を狙っている。しかし、フードメニューは、他の4店と同じで、価格も同じだ。

たった3人で始めたビジネスが、今では100人の従業員を抱えるまでになった一番の秘訣は、ヴァクニンさんによると、「consistency=一貫性」ということだ。毎回、違ったもの、違った味で、ぶれがあれば、客足は確保できない。いつ同店のどのロケーションに行っても、必ず期待できる食体験を客は求めて来るのだ。

◆人気メニューベスト5

スパイシー・マング(黒米、アボカド、マンゴー、キュウリ、スパイシー野菜、焼き唐辛子ソース)(6$95¢)

★グリーン・マシーン(6種の雑穀米、キュウリ、グリーンアスパラガス、枝豆、アーモンドペストソース)(6$95¢)

★ラ・フィエスタ(黒米、アボカド、ハヤトウリ、ハラペーニョのピクルス、黒豆のピューレ、ライムのチップス、トマトワヒーヨソース)(6$95¢)

★スイート・ツリー(六種の雑穀米、アボカド、サツマイモ、アルファルファ、焼き唐辛子ソース)(6$95¢)

★ナッティ・バディ(ベビーグリーン、蕎麦、ピーナツバター、ニンジン、カシューナッツ、アボカド、焼き豆腐、コリアンダー)(6$25¢)

◆事業データ
ビヨンド・スシ(Beyond Sushi)
所在地=134 West 37th Street New York NY
開業日=2017年5月
営業時間=全日 午前11時~午後11時
客席数=70席
客単価=約15~18$

◇外食レストラン新聞の2017年8月7日号の記事を転載しました。