はじめまして。千葉県松戸市にある聖徳大学で講師をしている翠川美穂と申します。大学では食品の実習や実験を担当していて、豆腐や納豆を作ったり、お醤油の食塩や緑茶のタンニン量を測ったりしています。今回は、りんごを使った「褐変(かっぺん)の実験」をご紹介します。大学の授業でも、女子大生に簡単!楽しい!と好評の実験です。夏休みの自由研究にピッタリですので、ぜひ親子で一緒にやってみてくださいね。

皮をむいたりんごは、なぜ塩水へ?褐変を防止するワザを学びましょう

りんごって皮をむくとすぐに茶色くなってしまいますよね。これを褐変(かっぺん)といいます。皮をむいたらすかさず塩水に漬けて褐変を防止するワザは、きっとご家庭でも実践されていると思います。

今回ご紹介する「りんごの褐変の実験」は、塩水ワザをもう少し科学的に、さらに塩水以外の物も使って褐変を抑制してみようという実験です。家にあるものでできて、実験結果がすぐにわかるので夏休みの自由研究にピッタリですし、今からでも間に合います。

この実験は、大学で開催した夏休み子ども講座でも、お子さんたちに大好評でした。お子さんも料理や理科に興味を持ってくれると思いますので、親子で楽しく実験してみてくださいね。

りんごの褐変の実験は、1年生の前期の授業でやります。女子大なので女の子しかいません

実験の材料は、りんご1個とレモン・重曹・塩

<材料>
・りんご1個。なければじゃがいもでもOKです。
・レモン
・重曹
・塩

実験に使う器具は、おろし金、包丁、まな板、ティースプーン(4本)、小さいお皿(5枚)、ラップです。準備ができたらさっそく始めましょう!

<実験の手順>
1.最初にお皿の用意をします。
レモン汁、重曹、塩を、お皿1枚につき1種類ずつ入れておきます。レモンは、くし形に切ってお皿に果汁を絞ります。重曹と塩は一つまみで大丈夫です。余ったお皿のうち、1枚は比較のための無処理用、1枚は加熱用です。5枚のお皿に名前を書いておくのを忘れないように。テープや付箋を使いましょう(加熱するときは外してくださいね)。

2.りんごの皮をむいてすりおろします。
すりおろしたらスプーンですくって、レモン汁、重曹、塩の入ったお皿に入れます。ティースプーンなら山盛り1杯で十分です。すりおろしたりんごはすぐに茶色くなってしまうので、急いでお皿に入れて、入れたらすぐによくかき混ぜましょう。

コツは、一気にすりおろすのではなく、スプーン1杯分をすりおろせたら、すくってお皿に入れてすぐ混ぜる!をこまめに繰り返して、順番に進めていくことです。すりおろす!すくう!混ぜる!の親子の連係プレーが成功のカギです。

3. 加熱用のお皿にもスプーン1杯分のりんごを入れます。ラップをふんわりかぶせて、電子レンジで500W 40~50秒加熱します。実験室にはレンジがないのでガスバーナーで加熱していますが、りんごに火が通ればいいのでレンジの方が簡単ですね。

残りのお皿は、褐変度合いを比較するための無処理のお皿ですので、すりおろしたりんごを入れておきましょう。作業はこれで終了です。さて、結果はどうなったかな…??

1:無処理(すりおろしただけ)、2:加熱、3:レモン汁(授業では薄い塩酸を使用しています)、4:重曹、5:塩、6:ビタミンC、7:15分おいてからビタミンC

なぜ加熱や塩で褐変を防げるの?

褐変は、酵素・酸素・基質の3つが揃うと起こります。基質は、りんごの場合はポリフェノール、じゃがいもの場合はアミノ酸です。切ったり皮をむいたりすることで、酵素・酸素・基質の3つが出会うのですが、つまり、3つのうちどれか1つをなくせば褐変を防ぐことができるのです。

まず2番の加熱は、1番の無処理に比べると褐変していませんね。これは、加熱によってりんご中の酵素が壊れたからです。酵素・酸素・基質のうち、酵素が壊れて働けなくなるため褐変を防ぐことができるのです。

3番のレモン汁は、レモンの果汁は酸性、つまりpHが低いですよね。りんごを褐変させる酵素は、pHが低いと働きが弱くなるのです。ただし、授業ではレモン汁ではなく薄い塩酸を使っていて、pHは2以下になるようにしています。レモンはpH 3くらいですので、希塩酸ほどの効果は得られないかもしれません。

4番の重曹は、りんごだと1番の無処理と変わらないように見えますが、じゃがいもの結果を見てください。

じゃがいもで実験するとこんなかんじになります。4番が重曹です。(ここでも3番は薄い塩酸を使用)

じゃがいもで見ると、4番の重曹は、褐変が促進されているのがよくわかると思います。重曹はアルカリ性ですが、じゃがいもを褐変させる酵素は、pHが高いとよく働くようになります。りんごの場合、りんご自体がpH 4くらいですので、少しの重曹を加えただけではあまりアルカリ性になりません。

じゃがいもで実験する場合ですが、注意がひとつあります。じゃがいも中のでんぷんは、加熱すると糊化(こか)して糊(のり)のような状態になり、焦げやすくなります。電子レンジ加熱の際は、少しお水を加えて加熱することと、焦げないように様子を見つつ加熱してくださいね。お皿に焦げ付くと、後で洗うのが大変です。

5番の塩は、りんごはじゃがいもよりも褐変を防げていますね。塩とは塩化ナトリウム、NaClのことですが、このClはりんご中の酵素の働きの邪魔をします。そのため、りんごを塩水に漬けると褐変しにくくなるのですが、じゃがいもにはあまり効果はありません。

褐変を防ぐ=成分の損失を防ぐ

褐変が起きると、基質であるポリフェノールやアミノ酸が使われて減ってしまいます。褐変が起こらないということは、つまり、体に良い成分の損失が少ないということです。料理の見た目もきれいに仕上がって、成分も損なわれない。褐変防止はいいことずくめですね。

最後に、もしお家にあれば、炭酸飲料、ビタミンC入りのサプリメントや化粧品も実験してみると面白いかもしれません。食品の中ではコーラのpHがダントツに低いので試してみましたが、茶色くなってしまって褐変なのかコーラの色なのかわかりませんでした(笑)

pHはコーラより少し高くなりますが、透明の炭酸飲料で試してくださいね。それから、酸素をゼロにすることは難しいですが、ラップをして空気を遮断したら褐変は防げるのか?というのも比較してみるといいですね。

ビタミンCのサプリメントは、ラップに包んで麺棒でたたくと簡単に粉末になります。ビタミンCには還元作用があり、褐変したりんごの色も元に戻してしまいます。市販のりんごジュースの色がきれいなままで褐変していないのは、ビタミンCが添加されているからなのです。

夏休みの自由研究におすすめの褐変の実験、ぜひやってみてくださいね。