紅茶を飲む人が増えてはいるが、アメリカはやはりコーヒーの国だ。しばらく歩いていない所に足を向けると、新しいカフェができている。これだけたくさんのカフェがありながら、あり過ぎるということはなく、新しいカフェが次々に登場し、しかも、どこも客が押し掛けている。ニューヨーカーのカフェの利用法はさまざまだ。コーヒーを飲むだけにとどまらず、仕事や勉強の場であり、ビジネスの交渉の場であり、社交の場であり、そして、食する所でもある。そんなNYのカフェ事情を取材した。

 

【1】スウェーデン発のカフェ「フィカ」。店名の「フィカ」がスウェーデン語で「一服」を意味するように、北欧らしく静かで落ち着いた雰囲気。

ベイクドメニューはNYカフェに必ずあり

知る人ぞ知る、「シンク・コーヒー」、「ザ・ビーン」、「ナインス・ストリート・エスプレッソ」、「ブルーボトル」、「スタンプタウン」、「カフェ・グランピー」などのカフェは、おなじみの店になって根を下ろしている。かと思えば、「マッドマン・エスプレッソ」、「ギミーコーヒー」、「サード・レイル」など、新しい店も次々に出現。

マンハッタンよりも実験的な気質のブルックリンには個人経営の店が多く、個性のある面白いカフェがたくさんある。もとはといえば、「ブルーボトル」や「スタンプタウン」、そして、あの「スターバックス」でさえ、個人経営の店だったのだ。

ブルックリンや西海岸発のカフェなどのアメリカ勢に加え、各国のカフェもお目見えし、イスラエル系の「アロマ・エスプレッソ」、スウェーデン系の「フィカ」【1】【2】などの他、韓国系の「カフェ・ベネ」は、ここ2、3年のうちに店舗が急増し、あちこちで見かけるようになった。

【2】「フィカ」のスープとハーフ・ラップサンドイッチのセットは9$18¢(税を入れるとちょうど10$になる)。ポテトとリークのスープは、大きめのボウルでサーブ。サンドイッチは、チキンサラダ、クランベリー、タラゴン、リンゴ、ネギを巻いた上品なラップサンド。

カフェにマフィン、クッキーなどベイクド・グッズは必須

これらのカフェは、必ずマフィンやクッキー、ペストリーなどのべイクド・グッズを揃えている。ランチや軽食を用意している店も多い。日中はカフェ、夜はワイン・バーといった使い分けをしている店もある。フード関係は、特に個性の見せどころだ。

新刊の雑誌や本が読める「バーンズ&ノーブル」書店のカフェでは、キッシュ、ピザなども提供。人気のランチは、「ハーフ・サンドイッチとスープ」(6$30¢)。スープは、書店の隅という調理設備の置けない狭いスペースでも既成品を温めるだけで用意できる。

お仕着せを嫌うアメリカ人消費者

ニューヨークのランチの相場は、もちろん高い店は高いが、通常、8$から15$といったところだ。ウエーターサービスのある店では2割のチップを用意しなければならないことから、セルフサービスのカフェやファストフード、ファストカジュアルで手軽にランチを済ませる人が多い。

NYのカフェシーン。

日本のカフェランチといえば、幕の内弁当や松花堂弁当に通じる、複数の食材が少しずつ彩り良く並べられたワンプレートものを思い浮かべるが、お仕着せを嫌うアメリカ人消費者には、まずは選択肢がないといけない。

日本の弁当を販売する「べんと・おん・カフェ」でもこの志向を受け、ランチボックスの六つの仕切りに詰める食材をすべて客が選べるようにしている。アメリカ人は、少し余分に払っても、自分の好きなものを食べたがるのだ。ファストカジュアルでは、3段階式の選択肢(ベース+具+ソース)を通して、客に100%のマイ料理を提供している店が多い。

NYの名物カフェ

ブルーボトル(Blue Bottle)
最高品質の豆をローストして48時間以内に販売することを目的に、クラリネット奏者がオークランドで始めた。今や日本にも進出し、知る人ぞ知る超人気のカフェに。

ピーツ・コーヒー(Peet’s Coffee)
約50年前、アメリカのコーヒーのまずさに驚いたオランダ人、アルフレッド・ピートがバークレーで上質の豆をハンドローストして始めた自家焙煎コーヒーの店。アメリカのコーヒー史を塗り替えることになる。

スタンプタウン(Stumptown Coffee Roasters)
ポートランド発のロースター。コーヒー豆の製造者をファーマーでなくプロデュ-サーと呼ぶ。NYでは2013年にグリニッチビレッジ店が元書店を改造してオープン。NY大学の校舎の集まる辺りにある、インテリっぽいカフェ。

カフェ・グランピー(Cafe Grumpy)
幻のコーヒーメーカー“クローバー”を使ってコーヒーを煎ることで有名。スターバックスのCEOシュルツ会長は、同店のコーヒーの味わいに感動し、クローバーを買収した。スターバックス(※一部の店)専用になったため、既存のクローバーはパーツの調達ができず、市場から消えつつある。

ザ・ビーン(The Bean)
いつ行っても学生で混雑しているカフェ。ブルックリンにある、1840年創業のアメリカ最古のロースターでローストしたコーヒーを使用。NYらしいボヘミアン的“ご近所”のカフェ。

マッド・コーヒー(Mud Coffee)
ミュージシャンが始めた。イーストビレッジ名物の派手なオレンジ色のトラックは、地下鉄駅の近くにあり、朝は通勤客の列。近くにある常設店、マッドスポットでは食事もでき、真夜中までオープン。音楽のライブも。

◇日食外食レストラン新聞の2017年2月6日号の記事を転載しました。