ニューヨークのカフェは調理設備が整っていない店が多いことから、フード・メニューは限られてしまう。大概は、サンドイッチやサラダ、そして温めるだけで済むスープといったところだ。典型的カフェランチは、サンドイッチ、キッシュなどのメインに、サラダかスープの選択を付けるパターンだ。夏はサラダが、冬はスープが好まれることが多い。
日本のカフェと違い、アメリカのカフェではまずパスタやライスのランチを目にすることはない。

【3】ハドソン川の対岸にあるホーボーケンにあるカフェ「チョコパン」では、焼きたてパンのサンドイッチに、ミニスープかサイドサラダを付けることができる。写真は、5種の穀物のパンにローストした野菜を挟んだサンドイッチ(8$20¢)。

気軽に寄れる軽食堂の役割も

フレンチのベーカリー「チョコパン」【3】や、フランス菓子専門店の「ペイヤード」や「ドミニク・アンセル・ベーカリー」【4】【5】などは、カフェとして軽食を提供し、利用者の拡大を図っている。

【4】「ドミニク・アンセル・ベーカリー」のカフェでは、スープやサンドイッチなどの軽食を、ランチタイム限定で提供している。写真は、「ホウレンソウとグリュイエル・チーズのキッシュ」(9$75¢)。
【5】「ドミニク・アンセル・ベーカリー」のオリジナルスイーツの人気商品、「クッキーショット」。ショットグラス状のチョコレートチップ・クッキーの内側をチョコレートでコーティングし、中にバニラミルクを入れた個性的なスイーツ。
【6】「ウエイサイド」のメニューの品数は多くないが、朝食、ランチ、ワインのおつまみなどのメニューを用意し、店を多角的に展開。
【7】「ウエイサイド」のモッツァレラ、ヤギのチーズ、サンドライド・トマトをサワードーのパンに挟んだサンドイッチ(8$50¢)とホームメードのトマトのスープ(カップ3$50¢)。

また、「ウエイサイド」【6】【7】や「エル・レイ・コーヒーバー」は、コーヒーの他にワインやビールも扱い、夕方以降は、パブとしての変身を遂げる。「エル・レイ・コーヒーバー」では軽めの夕食もサーブし、カフェだけでなく、気軽に寄れる軽食堂の役割も担っている。

【8】「アーゴ・ティー」の刻んだトマト、ニンジン、玉ネギをレンズ豆に混ぜたティーサラダ。

コーヒーも飲める「アーゴ・ティー」【8】は、ペストリー類もさることながら、軽食も充実しており、中でも、ヒヨコ豆、枝豆、黒豆、レンズ豆などの豆サラダは、人気のランチアイテムだ。以前は、豆類を紅茶で調理していたことから、“ティーサラダ”という名前が付いている。

【9】「チャオ・フォア・ナウ」のこの日のランチ・コンボのスープは、野菜チリ。豆、セロリ、ニンジンなど、シチューといったほうがいいほど具がたっぷり。サンドイッチは、スモークド・ターキーとトマトとチーズを挟んだもの。

そして、イーストビレッジの人々の憩いのキッチン・カフェ、「チャオ・フォア・ナウ」【9】では、チキンポットパイなどのコンフォート・フード、ホームメードのスイーツを食べに来る客でにぎわう。ここの人気メニューは、ランチ・コンボ(12$)。通常のサンドイッチの半分のハーフ・サンドイッチ(数種から選べる)に、スープかサラダが選択できる。

【10】「ラ・メゾン・デュ・クロックムッシュー」の2階のイートインスペース。
【11】同店のランチ・コンボのサラダは、ポテトサラダ、コールスロー、ニンジンサラダ、セロリ・レムラードから選ぶ。スープは、トマトスープか日替わりスープから。

クロックムッシュー専門の、憩い系キッチン・カフェ、「ラ・メゾン・デュ・クロックムッシュー」【10】【11】は、以前、日本の紅茶専門店があった一軒家に構える。木製の机と椅子が無造作な感じで並べられ、どことなく古い教室を思わせる、懐かしい雰囲気で、学生が勉強している姿がよく見られる。お得なコンボ(10$95¢)は、14種類の中から好みのクロックムッシューを選び(チーズまで選べる)、サラダもしくはスープを選ぶ。

パニーニやクロックムッシューは、小さな簡易調理場でも作れるし、作り置きでなく、温かいものを提供できる。しかも、中身を変えるだけで、いろいろなメニューのバリエーションが用意できる優れものだ。

自店で作らずともおいしければ良し

「スターバックス」の「タイ風ピーナッツチキンラップ」。ピーナッツ・ココナッツ・ソースにつけて食べる。ロールのサンドは食べやすくて人気。

カフェに必ずあるアーモンド・クロワッサンやブルーベリー・マフィンなどのベイクド・グッズは、ほとんどの店がベーカリーから取り寄せている。もともとがベーカリーの「ドミニク・アンセル・ベーカリー」や「エイミーズ・ブレッド」、「ブレッズ・ベイカリー」などの併設カフェは、自家製のベイクド・グッズを出すが、カリスマ主婦、マーサ・スチュアートのカフェでさえ、「バルダザー」や「チカリシャス」などからスイーツを調達しているように、多くが定評のあるベーカリーから取り入れている。フレッシュでおいしくさえあれば、カフェ利用者はいとわない。

コーヒーも食もある“居心地のいい場所”

何年か前、ある市場調査のインタビューで、いくつかの質問にすべて「スターバックス」と答えた女性が印象に残っている。彼女は、ほぼ毎日スターバックスで朝のコーヒーを買い、昼を食べ、友達と会うのもやはりスターバックスだった。彼女にとって、スターバックスは、コーヒーを飲む場所だけにとどまらなかった。

ハリケーン・サンデーでマンハッタンの39丁目以南が5日間停電に見舞われたとき、ミッドタウンにあるスターバックスは、停電難民でいっぱいになった。電気がないと、テレビもパソコンも携帯もできない。

そんなとき、多くの人が自発的にカフェへ流れ、カフェは、電源を共有し合い、情報を交換し合う場になった。暗闇の中、ロウソクで細々と生活していたとき、明るいカフェで人々と出会って情報を得、パソコンが生き返ってネットができたときは、世界が一気に開けたようだった。そして、もちろん、そこには、おいしいコーヒーと食べ物があった。

カフェは、リラックスした雰囲気の中で手軽にランチのできる場として重宝されている。おいしい軽食を気持ちよく食べる、それがカフェランチの醍醐味だ。

カフェと客の攻防戦

カフェ経営上の頭痛の種の一つは、コーヒー1杯で何時間も粘る人が多いこと。NYでは公衆トイレがほとんどないことから、カフェのトイレを利用する人が多い。そのため、カフェの中には、レシートに書かれたコードナンバーを打ち込まないとトイレに入れないようにしている店、トイレに行くには店の人に言って開けてもらわねばならない店、トイレのカギを用意して管理している店、25¢コインを投入する有料トイレにしている店などがある。

また、カフェにパソコンを持ち込んで長居する客が後を絶たず、回転が悪い。特に、数人しか座れない狭い店内に何時間も居座られてはたまらない。アメリカのカフェはどの店もWi-Fiが使えるようになっているが、PC対策として、2時間経つとWi-Fiを使えないようにしている所、電源を取り外した所、窓際に設置したハイテーブルだけPC限定にし、そこにはクッションの付いた座り心地の良い椅子ではなく、スチール製のスツールを用意した所などがある。

ある店では、低いローテーブルとゆったりした座椅子に替えてパソコンを使いにくくさせ、それまで押しかけていたPC客がものの見事に少なくなった。なかには、Wi-Fiをすっぱりとやめたカフェもある。しかし、客あってのカフェ。客との綱引きは難しい。

NYの人気カフェランチ・スポット

フィカ(FIKA)
スウェーデン発のカフェ。スウェーデンの伝統的なスローロースティング法でローストした、コクのあるコーヒーが飲める。スウェーデン人シェフの作るスイーツも充実。

チョコパン(CHOC・O・PAIN)
ハドソン川対岸のホーボーケンにあるフランス人によるフレンチベーカリー・カフェ。焼きたての自家製パンやスイーツで有名。

ドミニク・アンセル・ベーカリー(Dominique Ansel Bakery)
ソーホーにあるフレンチのベーカリー・カフェ。クロワッサンとドーナツのハイブリッド、クロナッツで一躍有名に。

ウエイサイド(Wayside)
ビールやワインも飲める小さなカフェ&バー。スイーツや軽食もあり、店を多角的に展開。いろいろな用途に利用できる。

アーゴ・ティー(Argo Tea)
シカゴ発の紅茶専門チェーン。コーヒーメニュー、スイーツや軽食も充実しており、東海岸一帯に進出。

チャオ・フォア・ナウ(Ciao for Now)
イタリアン夫妻の経営するキッチン・カフェ。「キッチンで少量作るのと工場で大量生産するのとでは、同じレシピを使っていても味が違う」として、すべてホームメード。イーストビレッジの人々の憩いの場になっている。

ラ・メゾン・デュ・クロックムッシュー(La Maison du Croque Monsieur)
フランスの田舎家を思わせる一軒家で、たっぷりの大きめカップで出されるトマトスープと、チーズがとろける熱々のクロックとの相性は抜群。

◇日食外食レストラン新聞の2017年2月6日号の記事を転載しました。