小泉今日子さんほか豪華女優8人&たくさんの美味しい料理が登場する映画『食べる女』を観に行ってきました。企画・原作・脚本・プロデュースは筒井ともみさん。エッセーと映画のレシピ46を紹介した『いとしい人と、おいしい食卓』(講談社刊)も公開に合わせて発売されました。筒井さんが言われた「あなたはあなたらしくあればいい。」というメッセージを受け、本にあるレシピの中から、これは自分らしい料理だ!と感じた10品(サラダから主菜・主食・デザートまで)を作ってみました。

赤ワインに合う「玉ねぎのソテー」

『いとしい人と、おいしい食卓』の本では赤玉ねぎのレシピ。もし、おうちに玉ねぎがあったらいつでもすぐに作れる主菜にもなるボリューム満点の最強前菜です。和風バルサミコソースと香草を添えて。

赤玉ねぎは、地元スーパーをいくつか回って探してみたのですが見つかりませんでした。なので普通の玉ねぎで作ってみました。

紅茶こしに小麦粉を入れ、ふりかけると便利、と筒井さんが教えてくれました。黒いプツプツは、粗挽き黒こしょうです。

玉ねぎをスライスして爪楊枝で留め、小麦粉をまぶしてオリーブオイルを熱したフライパンで揚げ焼きのソテーにします。小麦粉をまぶす作業は、牛乳パックを切って広げた簡易まな板でやると、後片付けが楽です。

ソテーしたら、そのままフライパンに、5年以上熟成したバルサミコ酢と醤油を入れ、少し煮詰めた和風のソースを作ります。赤ワインが好きそうな客人が来たときに思いつきで筒井さんが作られたひと皿だそうです。確かに赤ワインに合う合う。

「玉ねぎ×油」は、かき揚げしかり、串揚げしかり、最強の組み合わせ。翌日は、残った玉ねぎのソテーを、かき揚げがわりにうどんに入れて食べました。ううっ!うまいです。

子どもも喜ぶ「にんじんのミモザサラダ」

筒井さんはこの『いとしい人と、おいしい食卓』の中で「にんじん嫌いの子供も、きっと好きになるんじゃないかな」と言っていました。試してみると、That’s right! まさにその通り!

ミモザサラダなので卵を粗めに切ったものをにんじんの上にかけますが、我が家では食べる人がお好みの粗さでくずしながらいただきました。

「本当ににんじん嫌いの子でも食べるか?」を実際に試してみました。ちょうどファミリーサポートでお預かりしているにんじん嫌いの3歳の女の子が我が家にやってきました。グッドタイミング!

なんと女の子は、なんのためらいもなく口に入れ、パクパク。おお! 食べましたぞ。筒井さんのアドバイスどおり、ドレッシングで使うお酢は「千鳥酢」にしました。「千鳥酢」がなぜいいのかというと、「やさしいから」というのが理由だそうです。

千鳥酢は、京都市東山区にある享保年間に創業した歴史ある村山造酢株式会社が作るお酢。米と熟成した酒粕から仕込んで醸造された米酢で、有名料亭やお寿司さんなどで愛用されているまろやかな味とかおりが特徴。素材の持ち味を引き立ててくれるお酢です。

西武池袋本店で開催の「第52回京都名匠会」で出品されていたので、購入しました。

きのこ好きに「ブラウンマッシュルームのシンプルサラダ」

火も、包丁も、まな板も、いっさい使わずにでき、しかもめっちゃおいしいのがこのレシピのすごさです。

以前、イタリアを一人旅したとき、ある衝撃体験がありました。サラダを注文したら、お皿に山盛りの野菜がテーブルにどーんと置かれ、そのあと、ドンドンドンとビネガー、レモン、オリーブオイル、塩、こしょうの5点セットが目の前に用意されました。

それまでは市販のドレッシングしか食べたことがなかった青二才の小娘だったわたしは、どうしていいのか正直ビビりました。まわりをみると、5点セットを使って、食べる人がみなそれぞれ、好きなように自由に楽しげに食べているではありませんか。かっこいい! 市販のドレッシングは買わなくてもいいんだ! というのがわたしのイタリア衝撃体験です。

この「ブラウンマッシュルームのシンプルサラダ」もまさにその衝撃が追体験できるサラダ。筒井さんのレシピでは、レモン以外にも、かぼす、すだちなどお好みの柑橘類でどうぞ、と記されています。わたしはみかんを使ってみました。きのこ好きにはたまらないおいしさですよ。

1分でできる「やわらか春菊の和風サラダ」

軽く洗って、速攻で食べられる時短サラダ。地元のスーパーで見つけた春菊を使いました。火を通した春菊よりもやさしい香り、と筒井さんがおっしゃる通り、生で食べたほうが春菊は断然おいしいことを発見!

地元のスーパーで見つけた春菊を使用。パッケージに「茎が柔らかく、清々しい香りと甘みがサラダにぴったりです。」と書かれていました。栽培期間中は農薬も不使用。春菊が嫌いな我が家の夫と子供たちが、「これ何?うまっ!」と行ってペロリと平らげました。

さっと洗ってすぐに食卓に出せる1分でできる筒井ともみさん作、やわらか春菊の和風サラダです。これはぜひオススメ。

実山椒とにんにく風味「時短チキンソテー」の作り方

爽やかなしびれる辛さが魅力の花山椒が最近、人気を呼んでいます。うなぎにパパッとかける山椒、実山椒しょうゆ漬け、山椒たっぷりの京都の黒七味など、山椒はわたしの大好物。この一皿も、かなりしびれます!

シンプルなのに、パンチがあるチキンソテーです。「いつものチキンソテー」に実山椒を加えるだけ。1〜2時間漬け込んでおくのがポイントです。

ところで「いつものチキンソテー」とは?

わたしは時短料理の目的で、買い物はいつもまとめ買い。近所の業務用スーパーで大量にチキンを買い込んで冷凍しておきます。その際に食べるときにすぐに調理できるよう、1食ずつチキンを小分けし、あらかじめ塩とこしょうを揉み込んでおきます。

今日はチキンにしようと思ったら、朝のうちに冷凍室から冷蔵室に移しておけば、あとは焼くだけなので簡単。さて、おいしくできる時短チキンソテーのコツは、2つ。

<1>塩をしっかりよく揉み込む

塩でお肉をマッサージするイメージでモミモミ。これがチキンソテーのおいしさの秘訣。業務用スーパーで買う安いチキンでも、はたまた料理が苦手な人でも、絶対に失敗なしでおいしく焼き上がります。

<2>厚みを均一にする

厚いところは火が通りにくいので、そこにしっかり火を通そうとすると、他の部分が焼けすぎになります。削ぎ切りするような要領で、お肉に包丁を斜めに入れて観音開きにするように薄く開いて厚みを同じにします。

今回はもも肉で作りましたが、ももでもむねでもOKだそうです。手羽先や骨つきもも肉もいけますね。

筒井さんは初夏のころ八百屋の店先にパック入り実山椒が並ぶと思わずたくさん買ってしまうそうですが、「あ、わたしも!」と共感しました。

たっぷり作って醤油づけにしたり、オリーブオイルに漬けたり、ラー油に入れたり、ちりめんじゃことまぜたり、サンマの蒲焼にかけたり、お弁当のごはんに振りかけたり。冷凍もできるので、大量に作り置きしておきましょう。1年中、「実山椒パラダイス」が楽しめます。

男心をくすぐる「手羽先(手羽元)と里芋の煮込み」

これは筒井ともみさんの歴代のボーイフレンドたちに人気ナンバーワンのメニューだそうです。男心をくすぐるどんな秘密が隠されているのだろうか?という探究心から挑戦してみました。

見るからにあったかくて、やさしさに溢れたメニューですね。砂糖、醤油、酒で味付けし、筒井さんいわく「ほんのり甘いけれど甘すぎず。男たちが求める何かがこの料理にはあるのだろう。」と。

でもこれ、男だけじゃなく、女も魅了される滋養とやさしさがあります。わたしは圧力鍋を使って調理したので、じっくり味が中まで染みて、やわらかく煮上がった身が骨からほろほろとくずれて食べやすい。しかも、軟骨もぽりぽり食べられます。コラーゲンもたっぷりでお肌にもやさしいですね。

筒井家の人気メニュー「さんまの湯豆腐」

筒井ともみさんが小さいころから食べていたお鍋で、筒井家の人気メニューだそうです。さんまが旬なこの時期にぴったりのお鍋ですね。我が家でもすっかり人気メニュー&定番レシピになりました。

さんまの肝を取り出して、頭を落とし、3つにぶつ切りにし、さっと湯通ししてから鍋に投入します。さんまの肝は捨てずに、筒井さんは特製さんまの肝だれの作り方を本で教えてくれています。このたれはイカの塩辛やカツオの酒盗のような大人の味で、日本酒にも合います。

何度でも食べたくなる「豆腐のぶっかけご飯」

筒井さんいわく、故・吉本隆明さんの長女で漫画家のハルノ宵子さんに教えてもらったレシピだそうです。ご飯に豆腐!?と驚き、さっそく挑戦。

水切りした豆腐を好きなだけぶっかけ、お好みの調味料をかけていただきます。ひとこと感想をいうなら、「また食べたい!」です。かなりいけます。

調味料は「おこのみで」と本に書かれていたので、まずは鰹節でいただき、翌日のランチではラー油、その次の朝食で味噌。その後は醤油、塩、めんつゆ、ポン酢など、次々挑戦してみました。タンパク質も摂れて、女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンも摂れて、女子力もアップです。

本では、刻んだぬか漬けとしょうがのみじん切りを混ぜた「かくや和え」があればなおいい、と書いてあります。かくや和えとは何か? 漢字では覚弥、または覚也和えと書き、古漬けを刻んで酒・醤油・針ショウガで和えたものをいいます。

フライパンひとつでできる「きのことクレソンのスープパスタ」

きのこ好きにぴったりのパスタ! フライパンひとつでできる時短パスタメニューなので、おうちでひとりで食べるランチにおすすめ。1人分はパスタ40gで作りますが、きのこたっぷりなので十分満足感があります。

材料を見てみると、パスタ(フェデリーニ)と書いています。フェデリーニというのは、太さがスパゲッティとカッペリーニに中間くらいで、1.4~1.5mm。パスタの袋にフェデリーニと書いていなくても、この太さのものを買えばOKです。さっぱりとしたオイル系や、スープパスタに合うパスタです。

40gは通常の1人分の半量。これくらいです。

きのこをたっぷり炒めたら、水と調味料を加え、2つ折にしたパスタを入れてフタをして煮込みます。

シンプルなデザート「しらたま」

映画に「しらたま」という名前のふっくら白玉のような真っ白い猫が登場し、みんなの癒しの存在になっています。鈴木京香さん以外、出演者7人の女優の皆さん方はおうちで猫を飼っていらっしゃるそうです。

ゆであがった白玉に砂糖をまぶして食べるシンプルなデザートです。わたしがかけたお砂糖は、ミネラルをたっぷり含むきび砂糖なのでうっすら茶色です。

食いしんぼうな女の欲望を満たす映画

この本『いとしい人と、おいしい食卓』のおかげで、またひとつわたしの人生が豊かになりました。筒井ともみさん、ありがとうございます。

筒井ともみさんのプロフィールをあらためて紹介します。

1948年、東京生まれ。成城大卒業後、スタジオミュージシャン(ヴァイオリン)を経て、脚本家となる。本書によれば「満員電車に乗らず、うちでできるから」という理由で脚本を書き始めたそうです。

テレビドラマ『響子』『小石川の家』で向田邦子賞を受賞。映画も多数てがけ、『それから』でキネマ旬報脚本賞、『失楽園』で日本アカデミー優秀脚本賞、『阿修羅のごとく』で日本アカデミー最優秀脚本賞を受賞。映画『食べる女』では、脚本のほかプロデュースもつとめたそうです。

筒井さんが30代半ばを過ぎたころ、お母さまがクモ膜下出血で倒れ、わずか4日の入院で亡くなられ、レシピ帳がどっさり残ったそうです。

最後に本文から少し抜粋します。

私なんか仕事のことを考えない日はよくあるけれど、献立について考えない日はほぼ一日もない。先々の献立まで考え、やり直し、また考える。これだけの熱意を仕事に注ぎこめたら、私だって優良なモノ書きなれるかもしれないが、そうなりたくないので、今日も献立を考え、夕刻から料理作りに勤しむ。

本書には、筒井さんのお母さまと筒井さんご本人も何十年も月日とかけて作り続け積み重ねてこられた珠玉のレシピが満載です。まさに本書は、

「いとしい人がそばにいて おいしいごはんがあって たわいないことで笑っている」

そんなシンプルな「幸せ」を見つけることができる一冊です。

真ん中が映画フライヤー、右)筒井ともみさん著『食べる女』(新潮文庫)、左)筒井ともみさん著『いとしい人と、おいしい食卓』(講談社)