日本の「食」に家族で向き合い、その魅力をイギリス流のユーモアを交えて伝えているマイケル・ブースさん。ジャーナリストらしい探求心から得られた情報や印象をまとめた『英国一家、日本を食べる』は、クスっと笑えるエッセイ。ベストセラーになり、TVアニメにもなりました。そのブース氏が初来日以来10年ぶりに、たまりにたまった日本の「食」への情熱を新刊本で熱く語っています。

来日回数は25回以上

最初に日本に来たのは2008年です。パリのル・コルドン・ブルー時代に知り合った友人の日本人シェフから、1冊の本をもらったのがきっかけでした。辻静雄の『Japanese Cooking:A Simple Art』(講談社インターナショナル刊、2006年)です。

その本には200以上もの日本料理のレシピが載っているのですが、それだけでなく、コメの精神性から器の役割まで、ありとあらゆることが解説してありました。日本料理では季節が何より重要だということや、味のない食材でも、食感や舌触りを楽しむことなど、それまでの日本料理へのイメージを覆すもので、辻氏の説明する言葉ひとつひとつが全て生きていると感じました。

読んだその日のうちに日本行きを決め、チケットを購入しました。妻と息子2人(当時、6歳と4歳)の分も一緒に。その時は3ヵ月足らずのスケジュールで、北海道から南下し、東京、京都、大阪、福岡、沖縄を訪ね、日本ならではの食材を味わい、日本料理の哲学、技術を学んで、日本人の長寿の秘密であるヘルシーな食事を探求しようと思っていました。

その時のことをまとめたのが『英国一家、日本を食べる 上・下(※)』(角川文庫、2018年2月)です。知れば知るほど日本が大好きになり、それ以来、この10年間に取材で3回、それ以外でも25~30回は日本に来ています。日本は本当に魅力的で、僕の情熱は増すばかりです。

『英国一家、日本をおかわり』(角川書店、2018年3月)は、この間の食べ歩きや、インタビュー内容をまとめたものです。読んでいただけると、僕の日本愛を感じていただけると思います。
※原書は亜紀書房より刊行された『英国一家、日本を食べる』(2013年4月)と『英国一家、ますます日本を食べる』(2014年5月)

お気に入りの食材は紅芋とゆず イギリスで栽培する日を夢見て

日本の食材の中で特に気に入っているのは紅芋ですね。特に妻は紅芋にご執心で、沖縄の紅芋の専門家に苗を8本いただき、大切に国に持ち帰る努力をしていました。

しかし、沖縄の後に日本を旅している間に6本がダメになってしまい、かろうじて残った2本をイギリスに持ち帰ったのですが、結局すべて枯れてしまいました。でも、妻はまだあきらめてはいませんよ。いずれイギリスで栽培したいという野望を持っています。

僕は、日本はどの国よりも柑橘の種類が豊富で素晴らしいと思っています。すだちやみかん、日向夏もいい。中でもゆずは特別ですね。かなり前から欧米のシェフ、特にパティシエに注目されています。ジョエル・ロブションは気絶しそうなくらいおいしいゆずのスフレをつくるし、最近では食品産業の主流にゆずが仲間入りして、アイスクリームからビール、チューインガムにまでゆずの香りがついていますよ。

日本ではゆずの皮を汁物や魚介類、赤身肉の料理に加えたりするんですよね。風呂にも入れる! 僕はこのゆずをイギリスで育てたいという企みを持っているので、日本のゆずの木の半数があるという四国に情報を仕入れに行きました。

ゆず農家の方に話を聞くと、肌寒い気候ほど香りが強くなるということ。これはイギリスでの栽培には良いニュースですが、「ゆずの木が実をつけるには15年から20年ほどかかる」との悲しい情報も。種からゆずを育てるには、尋常ではない献身が必要のようです。

その後、ゆずの木を種から育てるという、厳粛な20年がかりの誓いを自分自身に立てました。ヨーロッパ一のゆずを育て、それを全部自分のものにしたいと思っています。

息子2人と田植えも体験(2016年5月、画像提供KADOKAWA)

北海道の魚介、京都の漬物…地域ごとの特色が日本の魅力

日本は各地域がそれぞれに特色を持っているので、とても楽しいです。日本に住むならどこがいいかとよく聞かれますが、選ぶのが本当に難しい。

沖縄は料理が変わっていていいかなと思うし、九州は海外の人を惹きつける魅力を持っている。桜島で育つ野菜や果物なんて、とても興味深いですよね。

もちろん四国も好きです。大阪はグルメに関しては世界一だと思うし、北海道は魚介がおいしい。秋田のりんごも素晴らしかったですね。

京都では、ありとあらゆる漬物があるのに驚きました。僕自身はなすのしば漬けが好きかな。今回、京都には一泊しかできなかったのですが、あるレストランでだしの料理をいただきました。たけのこの土瓶蒸しです。だしもたけのこも絶品でした。今回、山菜や旬の野菜を楽しみにしていたので、堪能しました。

夏に向かうこの時期は、なすやとうもろこし、枝豆などが出回るので楽しみですよね。特に僕の料理人魂をくすぐるのがみょうがなんです。甘くて酸味があって、アメイジングですよ。鶏肉や豚肉、魚にとても合います。しそも加えるとよりファンタスティックな味になります。素晴らしい!

日本が好きで、どの外国人よりも日本の食材に愛を感じていると信じていますが、それでも47都道府県のうち、まだ30県しか訪れていません。残りの17県も全部回りたいと思っていますので、みなさん、どうか応援してくださいね!

<プロフィール>

Michael Booth 英国サセックス生まれ。フードジャーナリスト、トラベルジャーナリスト。2010年に「ギルド・オブ・フードライター賞」、2016年には「ギルド・オブ・トラベルライター賞」を受賞。ジャーナリストとして料理の経験を深めるためパリの有名料理学校ル・コルドン・ブルーに入学し、1年間の料理修行を経験。『英国一家、インドで危機一髪』『限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?』『英国一家、フランスを食べる』など著書多数。


『英国一家、日本をおかわり』
マイケル・ブース著・寺西のぶ子訳 角川書店 定価:1,944円(税込)

『英国一家、日本を食べる 上・下』
角川文庫 マイケル・ブース著・寺西のぶ子訳 定価:864円(税込)

◇百菜元気新聞の2018年6月1日号の記事を転載しました。