日本の飲酒シーンに新たに出現した「ちょい飲み」文化。今や居酒屋だけでなくさまざまな業態が、“ライトに飲める場”としての新たな価値を打ち出し、進化している。今回は、ライトに飲める魅力がありながら、同時に「酒の魅力を発信する」という姿勢にも重きを置く、酒販の直営ちょい飲み店事例を紹介する。
「日本酒 室」は、業務用酒販のサカツコーポレーションが、“おいしい酒と肴(さかな)のペアリング”をとことん追求し、16年12月にオープンした、日本酒を愛する立ち飲み店だ。北陸の日本酒と能登の漁港から直送される刺し身、日本酒に合う独創的な料理を揃えている。

あまり出回らない地元自慢の日本酒を

店構えは、日本酒党が集う“通好みの店”といった風情ながら、実は軽く飲みに立ち寄るちょい飲み目的のお客が大半。

「初見のお客さまは、日本酒目当てではなく“何となく立ち寄ってみた”という方がほとんどです。そんなお客さまがウチの来店をきっかけに日本酒ファンになることも多く、うれしいですね」と、同店の野阪亮輔店長は言う。

おばんざいメニューの中から好きなものを2種(580円)または3種(780円・各税込み)選べる「おばんざい盛り合わせ」が人気。“複数の肴を少しずつ”が、酒飲みの心に響く。写真の料理は、左から「塩辛」「自家燻製沢庵と竹葉酒粕のポテサラ」「能登もずく酢」

日本酒は、石川、福井、富山の北陸3県で実直に酒造りを営む、小さな酒蔵の銘柄を中心に取り揃えている。そうした蔵元の酒は造られる量が限られ、地元だけでほぼ消費される品が多く、「あまり出回らない地元自慢の日本酒だからこそ、その味をたくさんの人にも知ってほしい」というのが店の思いだ。

対セット 1,500円(税込み)
日本酒(600ml)3種類と、それぞれの酒に合うつまみ3品のペアリングセット。写真は左から、「竹葉 能登純米28BY」と「酒米を使った糠漬け」、「常きげん 美山錦生原酒」と「鶏のオリエンタルソース」、「越前岬 滓酒」と「クリームチーズの酒粕漬け」。月替わりで内容が変わる

提供形態にもこだわり、冷酒は5種類のグラスを使い分け、熱かんは銘柄ごとに1度刻みで温度を調整し、最も味が際立つ状態で提供している。そして、日本酒の味を単独で楽しむのではなく、「お互いを引き立て合う『酒+料理』のコンビで、ぜひ楽しんでほしい」というのが同店の一貫した姿勢だ。

看板メニューは能登の漁港から直送された魚

それゆえ、日本酒をいっそうおいしくするメニュー開発にも力を入れている。「枠にこだわらず、北陸の日本酒に合う味を追求しています」と、野阪店長が自信を示すメニューは、少しずつつまみ、日本酒との妙をしみじみ味わいたくなるような、ひと工夫加えられた料理が多い。

お造り盛り合わせ(大) 1,680円(税込み)
能登の漁港から直送された、日本海の天然鮮魚を使った刺身。リピーター客の6割はこの鮮魚目当てとか。「小」は3種類盛り合わせで880円、「中」は4種類で1,280円、「大」は5~6種類「お互いを引き立て合う」

店の看板メニューである、能登の漁港から直送された魚は、鮮度抜群。この刺し身目当てで常連になる客も多い。

まさに酒と料理をしっかりと堪能したいオトナ向けの店だが、「楽しく酔っぱらいたいだけのお客さまも、大歓迎ですよ」と、野阪店長は笑う。

“日本酒+料理”の魅力を発信する店ではあるが、幅広い楽しみ方ができる店を目指しているのだ。

●「日本酒 室」
所在地=東京都港区浜松町2-8-10
営業時間=16:00~23:00、土曜14:00~20:00/日曜・祝日休
席数=立ち飲み14席
ちょい飲み平均客単価/2,600円

◇外食レストラン新聞の2017年10月2日号の記事を転載しました。