あまたある食べ物の中でサーモンほど「嫌いな人がいない」食材はないだろう。ただ安定した人気ぶりは平凡や没個性と表裏一体。そうした懸念を盛り付けのビジュアルで突き抜けたのが、東京・渋谷のサーモン専門店「サーモンパンチ」だ。とりわけ「炙り漬けサーモンとイクラのたまごかけご飯」は、日販100食の名物商品となっている。

「当店はサーモン料理専門のバルですが、若者がお酒を飲まなくなっている傾向もあり、食事目的のお客さまも取り込めるよう丼メニューの目玉商品が必要と考えました」とJグループホールディングス広報PR部の水野香織さんは開発の経緯を語る。

写真では少しわかりづらいかもしれないが、丼の縁を囲むサーモン切り身がせりたって立体感がハンパない。内側はたっぷりのイクラで満たされ、中央に卵黄が鎮座する。サケ・イクラの親子丼そのものは珍しくはないが、ここまでデザイン力が際立ったものは唯一無二。これが20~30代の女性のハートをつかんで、来店客の8割が注文。週末は1日100食を売る文字通りの名物商品だ。

炙り漬けサーモンとイクラのたまごかけご飯 1200円(税込み)

調理で驚いたのが仕込みの手間。まず半身フィレで仕入れたノルウェーサーモンをサクの状態にカットしてからフライパンで軽く炙った後に、醤油風味の漬けダレに一晩漬け込む。次に冷凍庫で1日冷凍させて、当日は半解凍の状態でダイス状にカットし、常温で完全に解凍させてようやく盛り付けることができるのだ。

「同品の美しさを左右するのが、切り身の断面の美しさ。きれいに揃った直線的なカットを実現するには半解凍の状態がベストなんです。開発当初はなかったオペレーションですが、現場の料理人がきれいな盛り付けを試行錯誤しながら追求して生み出した工夫です」と水野さんは胸を張る。

半解凍の状態でダイス状にカットすることでゆがみのない直線的な断面が実現

提供前はホールスタッフが盛り付けを厳しくチェック。同品を注文するお客は100%SNSに写真や動画を投稿することから、ビジュアルの美しさに徹底してこだわる。

味は鉄板のおいしさ。3cm角と大ぶりダイスカットされたサーモンの食感は、食べ慣れたスライスとは異なってより濃厚な味を楽しめる。最初はサケ、イクラそれぞれの味を楽しんで、後半は混ぜながら飯とともに頬張って重層的な濃厚さを味わうのがポイントだ。

●店舗情報
「サーモンパンチ 渋谷店」
所在地=東京都渋谷区道玄坂2-25-6 ホリウチビル地下1階/開業=2021年4月/坪数・席数=20坪・46席/営業時間=11時30分~15時、17時~21時。無休/平均客単価=1500円

◇外食レストラン新聞の2021年12月号の記事を転載しました。