東京の中野駅から徒歩3分の場所にある「ケバブカフェ エルトゥールル」は、ハラールのケバブをはじめ、さまざまなトルコ料理を楽しむことができるお店です。こちらはケバブ屋さんでありながら、お祈りができる「プレイヤールーム」を設けています。店主はトルコ人のゲルズ・ムハメット・アリさん。ハラール対応の飲食店は増えつつありますが、東京でお祈りのスペースを設けているケバブ屋さんはおそらくここだけなのではないでしょうか。

礼拝所もある中野の「ケバブカフェ エルトゥールル」

店主でトルコ出身のゲルズ・ムハメット・アリさん

店内はテーブル席がふたつにカウンターが3席。こじんまりとしていて、居心地のよい空間です。この日は親子で仲良くケバブを食べにきているムスリムもいました。お客さん同士で和気あいあいと楽しくおしゃべりをしながら、ケバブを待ちます。

ハラールに対するこだわりと品質管理

お店の入り口には、ハラールのロゴマークの入った看板とハラール認証が目にとまります。アリさんによると、誰が見てもこのお店は完全ハラールだと分かり安心して食事ができる場所を提供したいと思い、ハラール認証をとったそうです。

ハラール認定証

実はこのハラール認証をお店で取得するということは、費用がかかるだけではなく大変なことなのです。イスラム教では豚やアルコールの摂取を禁じられているので、製造工程や調理の仕方は当然として、調味料を含めても豚由来の成分やアルコールが入っていないものを使用しなければなりません。「砂糖」ひとつ選ぶにしても不純物などを取り除く工程で、家畜の骨等を使用していないかなどにも注意が必要です。

日本では、外食がしにくいと感じているムスリムがたくさんいます。そういった時に、ハラールの認証があれば安心して食事ができる基準になります。

看板にもハラールマーク

認証された店舗はハラール屠畜された肉を使用し、よほどのことがない限り材料を変更することは避けなければなりません。たとえ認証を取る際に申請した食品や調味料より、他のメーカーの方がセール等で安値になっていても安易に変更することはできません。

また、流通の事情などにより品切れ等が発生した場合は、その都度申請した機関と相談しながら変更申請を行う必要があります。

「どこのお店よりもおいしい!」と評判のエルトゥールル自慢のケバブ

「最高のケバブを全ての人に提供したい」というアリさんの願いと、完全ハラールの徹底した管理のもと、エルトゥールルのケバブは作られています。人気のメニューはピタパンに具材を挟んだケバブサンドと棒状に包まれたケバブラップ。

やわらかい鶏肉とトマトペースト、サラダ、特製ヨーグルトソースが口のなかで混ざり合い、ほどよい酸味とジューシーで甘い肉汁が絶妙な味わいです。具がこれでもかというくらいぎっしり詰まっています。

ケバブサンド(チキン)¥600

こちらは大きなデーツが付いた、エルトゥールルラップ。日本向けにアレンジして中にライスが入っています。この薄いトルティーヤで、よく破れずにたくさんの具材を巻いているなぁと感心してしまいます。太巻きのような、重量感ある食べ応え抜群の一品です。

エルトゥールルラップ ¥800

そして常連さんに人気なのが、ごはんの横にチキンやサラダ、トマトペースト、ひよこ豆のペーストのフムスが添えられたケバブプレート。自分の好きな組み合わせで食べられるのが嬉しいですね。どのメニューもボリューム満点です。

ケバブプレート ¥900

祈りとは神(アッラー)との対話であり生活の一部

ムスリムは一日5回のサラート(礼拝)を行います。サラートはイスラームの5つの義務のなかのひとつですが、個人と神との絆を深める対話のようなものです。ムスリムにとって祈りは生活の一部なので、特別なことをしているわけではありません。

また、サラートの場所はどこでもよいと言われていますが、都内は人ごみが激しく心落ち着く場所を探すのも大変なので、近くにいるムスリムが気軽に立ち寄れるプレイヤールームがあればより親切といえるでしょう。

メッカの方角を示すマークと足が洗える礼拝所

アリさんは食事や礼拝を気にせざるを得ないムスリムに対して、自分のお店を拠点として外出や観光などをもっと楽しんでほしいという思いからこのプレイヤールームを設置したそうです。

ムスリムの本質や考え方に触れることができるお店

実際にお店に行き、お店のスタッフやお客さんと話してはじめて気づく点は多くあります。寡黙なアリさんですが、ひと言一言に人柄の良さがにじみ出ていているのを実感できます。真面目で一貫した価値観をもっているので、敬虔なムスリムの生き方や考え方を学ぶことができます。

奥さんのゆりさんによると、「ビジネス的な感覚でいうならば、狭いお店にプレイヤールームをつくるよりは、あともう2席座れるようにして回転率を上げるほうがよいと考える方もいると思います。もっといえば、お酒を出すほうが利益も上がります。でも、私は彼を尊重したいと思いました」

そういったアリさんの思いが、一つひとつの料理やお店の雰囲気にも反映していて、心地よく感じるファンが多いのだと感じました。取材中も途切れることなくお客さんが来ていました。

アリさんと奥さんのゆりさん

どのメニューも写真付きで、英語と日本語で具の中身まで明確に記載されています。こういうところも、「何が入っているのか分からないものは食べない」というアリさんの食に対する配慮を感じます。

ハラールフードは特別なムスリム向けの料理ではなく、安全で栄養価のある清潔で身体によいものという意味が含まれています。つまり、ムスリムだけが食するものではありません。これからムスリムは3人に1人となる時代です。日本ではまだイスラームというと、ISのようなテロや武装集団の怖い宗教イメージを想像してしまいがちですが、実際は全く異なります。

ムスリムの基本的な考え方を知って学ぶことが、日本の将来のビジネスや共存する生活のうえでも可能性を広げるヒントになりそうです。

まずは身近なハラールフードから食べてみてはいかがでしょうか。

ケバブカフェ エルトゥールル(kebab cafe Ertugrul)
住所:東京都中野区中野3-33-14 中野第1ビル1階
電話:03-6382-8895
営業時間:11:00~23:00(毎月第2水曜日定休)