からしやマスタードのぴりっとした辛味は料理のポテンシャルを高くしてくれますね! ですが、それぞれの違いはご存知ですか? 和食にはからし、洋食にはマスタード…?いえいえ、実は使い方はそれに限らないんです!
今回は、家庭で楽しめるお手軽レシピをご紹介すると同時に、からしやマスタードの原材料の違いから歴史まで、専門家である「日本からし協同組合」がわかりやすく解説します。

からし・マスタード・粒マスタードは原材料の種子が違います

からしとマスタードはどちらも「アブラナ科からし菜」の種子が原材料となる香辛料です。種子の違いが、からしとマスタードの違いになります。

オリエンタルマスタードシードを主原料とし、薬味的に少量ずつ使用するものを「からし」、イエローマスタードシードやブラウンマスタードシードを主原料として、ソース的に比較的量を多く使用するものを「マスタード」と呼ぶのが一般的です。

<からし>
オリエンタルマスタードシードを主原料とする。辛味が鼻にツーンと抜けて刺激味が強い。主に和食との相性がよい。

<マスタード>
イエローマスタードシードを主原料とする。辛みは穏やかである。主に洋食メニューとの相性がよい。

<粒マスタード(粒入りマスタード)>
ブラウンマスタードシードを主原料とする。粒々の食感が味わえ、酢や食塩などを加え、マイルドな味にしています。主に洋食メニューで粒感も楽しみたいメニューと相性がよい。

これらの辛みの違いは、それぞれの種子を粉にし、水を加えた時に発生する辛味成分の違いが、それぞれの辛味の強さを大きく左右します。製造方法にも違いがあり、からしは水やお湯で練りますが、マスタードは水やお湯を加えて、その後、酢や食塩などさまざまな味付けをされます。(※チューブ製品などは、保存性確保のため、食用油脂や食塩を加えています。)

なお、「からし」の英名が「マスタード(Mustard)」といい、翻訳的には同じものを指しますので、同意語とのとらえ方もあります。

「和がらし」と「洋からし」どう違う?

「和がらし」と「洋からし」の分類・呼び名は、さまざまなものがあります。かつて、国産原料のからし種子はオリエンタルマスタードなどでした。その後、欧米からイエローマスタードなどのからし種子が渡来し、区別するため古来からのからしを「和がらし」といい、欧米からのからしを「洋からし」と呼ぶようになりました。

イエローマスタードの「洋からし」はキメが細かいことから、キメの細かいものを「洋からし」、粗いものを「和がらし」と呼ぶこともあります。

一部のからし製品の原料にもイエローマスタードシードが使用されるようになったため、イエローマスタードシードを使用している製品のことを「洋からし」と呼ぶ場合もあります。

さらに、からし種子を搾油せずにつくるからし粉を「挽からし」といいますが、挽からしを主原料にしたものを「和がらし」と呼ぶこともあります。

また、ねりからしでは、辛味が鼻にツーンと抜けて刺激味が強く、納豆やおでんなどに使うものを「和がらし」、マイルドな辛さで、ホットドッグやドレッシングなどに用いるものを「洋からし」と、用途で分けて呼ぶこともあります。

「マスタードは瓶」「からしはチューブ」なぜ容器が違う?

チューブ製品は、そもそも日本でのみ発達しているといっても過言ではありません。チューブ製品の最大の特徴は「少量ずつ適量絞り出せる」ことです。日本では、からしは薬味として少量ずつ使用されることが多く、複数回使用しても辛味が飛散しない必要があったためです。わさびなども同様です。

一方、マスタードは、辛味が控えめで、欧米では特に調味料として比較的量を使用します。チューブではすぐになくなってしまうため、瓶やボトル容器が適しています。辛味が少ないため、瓶を開けても飛散を気にしなくていいのです。

また、マスタードは、主にイエローマスタードの種子に酢、砂糖、ワインなどを加えて作られます。それらが瓶の中で熟成し、辛味以外の風味をアップさせるのです。

さらに、ヨーロッパなど遠方から輸入されるマスタードは、船便では長期輸送であり、かつ赤道近くを通過するため保存性の高い瓶が使われているとも考えられます。

からしに合う料理は

からしの代表的な使い方は、納豆やとんかつ、おでん、豚まん、焼売、冷やし中華など和食のメニューに添えられていますね。

ユニークな使い方をするレシピもご紹介します!

からしアイス

アイスにねりからしを混ぜ込みました。甘い中にからしの風味がありクセになる味です。

【材料】(1 人前)
バニラアイス 60g
ねりからし 小さじ2/3
ミント 1 枚

【作り方】

  1. ボウルにバニラアイス、ねりからしを入れ混ぜ合わせます。
  2. 器に盛り、ミントを添えます。

マスタードに合う料理は

マスタードは主に洋食で使われることが多く、代表的な使い方としてハンバーガーやサンドイッチ、ナゲット、フライドポテトなどと一緒に食されることが多いです。

ユニークな使い方をするレシピもご紹介します!

マスタードジャーマンポタージュ

からしの辛みがアクセントのちょっと大人のスープです。

【材料】2人前
じゃがいも(大) 1 個(150g)
玉ねぎ 1/4 個(50g)
バター  10g
固形ブイヨン 1/2 個
生クリーム 大さじ2
カレー粉 小さじ1/4
水 250ml
塩 少々
粒マスタード 大さじ1
<トッピング>
ベーコン
ねりからし 適量

【作り方】

  1. じゃがいもを2cm角にカットし、玉ねぎをみじん切りにします。
  2. 鍋にバターを熱し、カレー粉と玉ねぎを入れ、弱火で玉ねぎがしんなりするまで炒めます。
  3. (2)に水を入れ、煮立ったらじゃがいもとブイヨンを加え、蓋をしてじゃがいもが柔らかくなるまで煮込みます。
  4. (3)をミキサーにかけ、なめらかな状態にします。生クリームと粒マスタードを加えて塩で味を整えます。
  5. ベーコンを1cm幅にカットし、カリカリになるまで炒めます。
  6. (4)を器に盛り、ベーコンとねりからしをのせます。

☆ワンポイント
ベーコンをたっぷりのせると、より美味しくお召し上がり頂けます。

粒マスタードに合う料理は

日本では、ソーセージやホットドック、ベーコン、ポトフなど、粒感も同時に楽しみたい料理に合わせて食べられていますね。

ユニークな使い方をするレシピもご紹介します!

牛肉のマスタード炊き込みご飯

牛肉の炊き込みご飯に、粒マスタードを混ぜ込むことで牛肉の風味を引き立てました。

【材料】2 人前
米 1 合
粒マスタード 大さじ1と2/3
万能ねぎ(小口切り) 15g
<具材>
牛バラ肉切り落とし 100g
にんじん(千切り) 20g
<調味料>
塩  少々
砂糖 少々
醤油 大さじ2/3

【作り方】

  1. 炊飯器に米、具材、調味料を入れ、1合目の目盛まで水(分量外)を入れて炊き上げます。
  2. 炊き上がったら、粒マスタードを加えて混ぜ込みます。
  3. 器に盛り、万能ねぎを散らします。

ストックがないときは代用しよう

からしやマスタードをいざ使おうと思ったら…冷蔵庫になかった!なんてこともあるのではないでしょうか。そんなときは、からしの代わりにマスタードを、反対にマスタードの代わりにからしを代用することもできるのです!

【餃子マスタードソース】からしがないときはマスタードで代用!

【材料】
粒マスタード(マスタード) 大さじ1
白ワインビネガー(お好みの酢でも可) 大さじ1/2
はちみつ 小さじ1/2
醤油 小さじ1/2

全て混ぜ合わせれば完成です。

【からしピクルス】マスタードがないときはからしで代用!

【材料】(2人分)
きゅうり 1/2本
にんじん 1/4本
大根 50g
パプリカ(赤・黄など)  1/4個

<ピクルス液>
ねりからし 小さじ1
酢 100ml
水 50ml
砂糖 大さじ1
塩 小さじ1/2

【作り方】

  1. 野菜は5cmの長さの棒状に切る。
  2. ピクルス液を混ぜ合わせ、(1)の野菜を加えて混ぜる。

からしもマスタードも元は同じのからし菜が原料なので、使い方次第で代用が効きますね。食べ合わせや辛味の調節がちょうど良ければ、さまざまな料理で活躍すること間違いなしです。

日持ちさせるコツは?

開封前は、表示の賞味期限内はおいしく使えます。開封後は冷蔵庫保管で3ヵ月を目安としてください。キャップをしっかり締め、冷蔵庫で保管し、なるべく早くご使用ください。ペースト状のねりからしは辛味、風味がデリケートなため、製品に記載された保存方法で保存していただくことが大切です。

納豆などに付いている小袋タイプのからしには賞味期限は記載されていませんが、納豆の賞味期限と合わせて考えるようにして下さいね。

チューブの粒マスタードは開封後はキャップをしっかり閉じ冷蔵庫で保管し、3~4ヵ月を目安にお早めにお使いください。

からしとマスタードの歴史

からしやマスタードは古代エジプトに起源を持つとされ、その後シルクロードや航海貿易などにより東南アジア、中国、北米へと広がって行きました。

日本では正倉院の文書にもからしは登場しており、一般的には、薬味のからしとしてではなく、からし菜として利用されることが多かったようです。からしが薬味や民間薬として一般的に使われるようになったのは、室町時代以降のことのようです。からし酢やからし味噌ができたのもこのころです。

江戸時代の料理本「料理物語」(1643年)では、鮒なます、ぬたなます、鯛の霜降り、なまかつおなどにからしが使われています。

からし粉が商品化され、企業化されたのは嘉永元年(1848年)に大阪の新与からしの黒川与兵衛によるものです。広く世に出始めたのは明治維新以降であるとされています。

マスタードに関しては、ギリシャの数学者ピタゴラス(紀元前約530年)は、マスタードはサソリによる刺傷に中和剤として使うと述べていたそうです。新約聖書には、マスタードが登場する記述が数カ所あります。

マスタードの栽培は、アラビア人によりスペインに広められ、また、ローマ人によりガリヤ地方やイギリスにもマスタードが普及して、練りマスタードの作り方が確立されました。中世ヨーロッパでは、マスタードは庶民の料理に使われる唯一のスパイスでした。

13世紀には、美食家バーガンディ侯の協力により、フランスのディジョンで現在のようなマスタードペーストが作られるようになりました。マスタードを石臼で挽き、ブドウの果汁でのばしたペーストが町工場で作られるようになり、17世紀には錠剤に固める方法が考え出されました。

1720年、イギリスのクレメン婦人がマスタードの殻を取り、粉砕機で粉砕し、ふるいを通した、粉末マスタードを発明しました。その後、19世紀初頭には、イギリスに世界初のマスタード粉末製造会社(colman)が設立されました。

1853年に、フランスのディジョンで、モーリスグレー氏がマスタード種子の処理の自動機械化を発明しました。これにより、低価格での提供が出来るようになったことと、ディジョン地方の土地がマスタードの栽培に適していたこと、及び、ブルゴーニュ地方に近いためブドウの酸味果汁を利用できたこと(現在はワインビネガーなどを使用)により、ディジョンが有名となりました。

さいごに

からしとマスタードの違いについて、お分かりいただけたでしょうか? 単に付け合わせとしてからしやマスタードを添えるだけではもったいないですね! 意外性のある組み合わせのメニューや代替した使い方など、さまざまな形でからしやマスタードを楽しんでいただけるとうれしいです。