NHK「プロフェッショナル」でも話題になった志麻さんの最新刊が出版されました。生活情報誌『ESSE』読者支持率ナンバーワンの“伝説の家政婦”。これまで反響の大きかった超簡単なレシピを厳選したベスト版です。「簡単であることは、日々の食事を楽しむためにとても大切な要素。楽することは手抜きではなく、楽しむということ」という志麻さんに、料理を楽しむ秘訣を教えていただきました。

仕事で最もうれしいのは、ママたちの悩みごとを解決できた時

ミシュラン三ツ星レストランでの修行を経て、日本の老舗フレンチレストランなどで15年ほど働きました。頭の中には和洋中、デザートのレシピが600ほど入っています。

「自由でおおらかなフランスの家庭料理のエッセンスを伝えたい」と思い、厨房から普通のおうちのキッチンへ仕事の場を移し、現在の肩書きはフリーランスの家政婦です。下の息子が9カ月なのでお休み中でしたが、保育園が決まったので春から仕事に復帰します。

料理する時間は、1軒3時間。お宅におじゃましてその場で材料を見て、10品から15品の1週間のつくりおきを仕上げます。これまで1500軒ほど行きましたが、調味料は種類もメーカーもばらばら。ボウルがない、包丁が切れないなどは珍しくありません。道具もコンロの火力など、環境もみな違います。

違うからこそ学んだことはすごく大きい。この仕事をしていて何がうれしいかというと、お母さんの悩みごとを解決できた時です。子育て中のママから「子どもの食欲がない」「にんじんが苦手」などの相談を受け、調理のコツや作り方もよく聞かれます。

私のレシピは企業秘密ではないので、何でも教えます。尋ねられなくても教えちゃう(笑)。仕上がりが美しく見えるキャベツの切り方から、にんじんのグラッセはじっくり煮たほうが甘みが出て子どもは食べやすくなるといったことまで、たくさんおしゃべりして帰ります。

何をつくろうか献立に悩んだら“シンプル”に立ち返ってみて!

「どうやって手早くたくさんの献立を考えるんですか?」とよく聞かれます。料理がワンパターンになってしまう悩みも相談されます。そんな時は「レシピ通りにつくらなきゃ、というこだわりを捨てるといいですよ」とお話ししています。

私の場合、冷蔵庫を開けて材料を見た時、まず考えるのは「レシピ」ではなく「調理法」です。じゃがいもがあれば、煮るのか焼くのか蒸すのか。煮物がずっと続くと飽きてしまうし、1週間毎日飽きずにおいしく食べられる献立を考えます。家族の「また、これ?」は、味よりも同じ調理法の時に言われがちです。

今回の本で「献立力をつけよう!」というコラムがありますが、毎日献立で悩む時間は本当にストレスですね。そんな時はシンプルに立ち返ると答えが見つかります。

たとえば、肉や魚はただ焼くだけ。野菜はゆでて添えるだけ。肉と野菜を一緒に料理すると味つけがどうしても難しくなるので、それぞれ塩やバターで調理する。こんな風にシンプルに考えると料理が楽しくなります。

多くの人はレシピ通りにつくらなきゃとレシピに縛られがちですが、もっとレシピから自由になっていい。レシピ本を出してる私が言うのもヘンですが(笑)。この本には自由になれるコツがいっぱい詰まっています。

肉じゃがは誰にでもつくれる献立ですが、牛肉を豚こま肉やひき肉、鶏肉にしたり、じゃがいもがなければ子どもがその日、保育園で掘ってきたさつまいもを使ったり。だしをコンソメ、トマト缶、カレールウに。レシピからどんどん自由になってください。料理が楽しくなっていきますよ!

訪問したお宅にないとショックな野菜は「たまねぎ」です!

私は共働き家庭で育ち、小学1年生の時から包丁を持たされ、「自分のものは自分でつくりなさい」と料理の基本を教わりました。母は看護師で超多忙だったのですが、いつも「今日は何をつくろうかな」と料理本を開いては楽しそうに料理をしていました。それが私の原点です。

昨年、3年ぶりでパリ郊外にある夫の実家を訪れました。私は妊娠中で長男は1歳。フランスでは男性も普通にキッチンに立って料理します。フランスの家庭料理って、素朴で温かい。男性がよく料理をするのも簡単シンプルだからこそです。

食事の時間は、みんなでおしゃべりしながらわいわい食卓を囲みます。息子はどんな会話をしているのかまったく分からないのに、ニコニコ本当にご機嫌で。あんなに楽しそうな笑顔はこれまで見たことがないくらい楽しそうでした。息子の様子を見て、食事にはすごいパワーがあるなとあらためて感じました。

フランス料理の味つけの基本は、塩とこしょうです。甘みが欲しいなという時はみりんや砂糖ではなく、たまねぎとにんじんを加えます。仕事で伺った訪問先のお宅でザルやコンソメがなくても平気ですが、ないとすごくショックな野菜があります。それが「たまねぎ」です。

今回の本で人気ナンバーワンの「コンソメトマト煮」でも使っていますし、ベスト10にランキングされているしょうが焼きやフライパンパエリア、チキン南蛮、ムサカでは、すべてたまねぎが登場します。手づくりドレッシングも、たまねぎのみじん切りを少し入れるだけで本格的な味に。市販のドレッシングに足すだけでもOK。料理を自由に楽しんでくださいね。

<プロフィール>
たさん・しま 大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校卒業後、ミシュラン三ツ星レストランで研修。2015年よりフリーランス家政婦として独立。訪問先の家族構成や好みに応じた料理が話題を呼び、「予約の取れない伝説の家政婦」として注目される。フランス人の夫と、2歳と9カ月の息子2人と下町で暮らす。

『いつもの食材が三ツ星級のおいしさに 志麻さんのベストおかず』
タサン志麻著/扶桑社刊、B5判、96ページ(オールカラー)、定価:1000円(税別)

<本の中身ちょっと拝見>

肉はロール状に、野菜はディップに。見せ方を少し変えるだけでおもてなし仕様に。

上は野菜の甘味とコンソメ味のコントラストが絶品の重ね焼き。下はツナをドレッシングがわりに使ったサラダ。

◇百菜元気新聞の2020年3月1日号の記事を転載しました。