米国・シアトル発祥で世界最大のフリーポアー・ラテアート大会。その世界大会が日本で初めて開催されたのが2014年の「第11回デザート・スイーツ・ベーカリー&ドリンク展」。シロップやピックなどの道具を使わず、ミルクを蒸気で温めたスチームミルクをエスプレッソに注ぐだけで、ハートや木の枝などを表現する競技「フリーポアー」。世界のトップバリスタが参加しラテアートの技を競う姿が大きな話題となった。「ラテアート」と「バリスタ」。この言葉と新たなコーヒー文化を日本に紹介したFBCインターナショナルの上野登氏に、世界のコーヒー市場の潮流と日本の課題、今後のラテアート大会への取組みを聞いた。

FBCインターナショナル・上野登氏に聞く

–第4回を終えた感想は。
回を重ねるごとに、ラテアート、バリスタ、この二つの言葉が認知されてきていると感じます。大手飲料メーカー各社が競って商品にバリスタという名称を用いているのは皆さまもご存じだと思います。さらにSNSでラテアートの画像が続々とアップされ、その魅力が拡散されている。若い世代の情報発信力のすごさを感じています。

–韓国の選手が上位を占めました。
東京ビッグサイトのFABEX2017 「第14回デザート・スイーツ&ベーカリー展」特設会場で開催しました。大会では64人の選手がトーナメントで戦い、優勝は韓国のUm Paulさん。準優勝が日本の田中大介さん、3位も韓国のOneway Dashさんでした。実は昨年も優勝は台湾で3位がオーストラリア。2年連続で日本は優勝を逃しています。

–海外勢の強さの背景は。
アジアにはまだまだ収入の低い国や地域が多く、若者が高収入を得る手段としてラテアートが注目されています。中国やフィリピン、マレーシア、インドネシアなどでもコーヒーブームが起き、ラテアートはカフェの集客の目玉です。国際的なコンテストに入賞すれば都会での就職も夢ではない。さらに、高みを目指す人は、アジア一の高収入が得られるシンガポール進出のチャンスを狙っています。

海外のトップ選手と戦うには情報収集が不可欠

–日本の若者も同じですか。
日本は他の国と事情が違っています。スマホを例にとると、新興国や経済的ハンディのある地域では“突然スマホが空から降ってきた”状態。砂が水を吸うように新しい文化を貪欲に吸収しようという動きが新たなビジネスを生み出しています。

一方、日本はポケベル、携帯電話、タブレット、スマホと変化が小刻みでそれぞれのインフラが複雑に入り交じっています。コーヒー業界も同様で、ネルドリップのこだわりの店に始まり、国内資本のカフェチェーン、外資によるチェーン展開などいくつものスタイルがあり一気にことが進まない。一番の問題は、正社員の採用が少なくアルバイトが多いことです。

–具体的には。
不安定な生活環境では目先のことしか考えられないでしょう。海外だけでなく日本国内でもラテアートを売りにしている店が増えています。そこで、動画などでトップバリスタの作品をまねてラテアートの技術を習得する人が増えているのですが、そこにはオリジナリティーが欠落しています。また、海外のトップ選手と戦うには情報収集が不可欠。英語力は必須なのです。

–課題解決の方法は。
日本企業は高齢化、人手不足時代の対策として、安定した雇用を進め、若い世代の育成に力を注がなければなりません。海外との競争力もあるカフェ業界にするためにも、ぜひ私どもの活動にご協力いただきたいと思います。

90年代のシアトルではのちに“ラテアートの神様”と呼ばれるDavid Schomerさんが「北部イタリアスタイル焙煎アラビカ種」の店Vivaceをオープンしました。こうした先駆者のたゆまざる努力が現在のラテアートとバリスタの文化を作り上げてきたのです。

今こそラテアートの原点に戻って、模倣ではなくアート(芸術)で各選手が競う大会にしたいと思います。実はすでに、スマホを使って、一筆書きのラテアートのコンテストを実施しました。これまでが日本のラテアート第1期とすれば、これからのラテアート大会は独創性の高い作品を描けるプロを育成する場にしていきたいと思います。

上野登氏は、婦人服アパレル、インテリアと美術品のバイヤーとして海外大都市を訪問。1980年代のシアトルでエスプレッソやラテ、カプチーノを知り起業、カフェ関連商材の輸入を始めた。現在、FBCインターナショナル代表取締役。「コーヒーフェストラテアート世界選手権 東京大会」第1回から総合プロデュースを務める。

 

コーヒーフェスト ラテアート世界選手権第4回東京大会は田中大介氏が準優勝

「コーヒーフェスト ラテアート世界選手権 第4回東京大会」が4月12~14日、第14回デザート・スイーツ&ベーカリー展「カフェ&ドリンクExpo」会場内特設ステージで開催された。世界16ヵ国280人の応募の中から、予選を勝ち抜いた10ヵ国64人のバリスタが腕を競い、優勝は韓国のUm Paul氏に決定した。

「コーヒーフェスト ラテアート世界選手権」は世界で最も歴史があり、世界最大規模のラテアート大会だ。2002年に米国・シアトルで第1回を開催、現在年間3試合を米国の3都市で実施。14年にアジア初の公式大会をFABEX会場で開催した。今回は日本食糧新聞社主催、Lifestyle Events, Inc.共催、総合プロデュースを上野登氏が担当した。

試合は世界各国から予選を勝ち抜いた64人のトップバリスタが参戦し、3日間にわたりトーナメント形式で行われた。競技はシロップやピックなどの道具を使わないフリーポアーで、バリスタ2人が3分間の競技時間の中で作った作品で最も良いと思う1点を提出。

審査の基準は(1)外観の美しさ(2)明確さ(3)色の表現力(4)創造性と難易度(5)速さ–の5項目。

右から3位のOneway Dash氏、優勝のUm Paul氏、準優勝の田中大介氏

優勝=Um Paul氏(韓国・ソウル、Um Paul Coffee Art)、準優勝=田中大介氏(日本・大阪、MONDIAL KAFFEE 328)、3位=Oneway Dash氏(韓国・ソウル、cafe Oneway)。

また、今回初めて取り入れた特別企画「世界チャンピオン来日ラテアートの超絶テクニックを披露!!」と題した無料セミナーが人気を集めた。台湾のバリスタSchroeder Hsieh氏(コーヒーフェスト ラテアート世界選手権第2回東京大会優勝)が最新のフリーポアー技術を披露。今回優勝を飾ったUm Paul(World Latte Art Championship2016優勝)がデザインカプチーノの最新技術を紹介し聴講者の拍手喝采を浴びた。

◇日本食糧新聞の2017年5月17日号の記事を転載しました。