パリの日本大使館から、子どもたちに和菓子を教えてみませんか?とお電話をいただいたときは、正直、外国の子どもたちに和菓子ができるのだろうか?と思ったものですが、まずはやってみることでまた違った世界が広がるのではと考え、お引き受けいたしました。

電子レンジで簡単にできる和菓子教室

パリのアクアマタリシオン公園には、ルイヴィトンが管理をする5歳から10歳までの子どもたちのワークショップ会場があります。子どもたちが動物と触れ合えるようにと、公園では主に鳥を放し飼いにしています。たくさんの種類の鳥の中にはクジャクやダック、カルガモなどがいて、人を怖がりもせずに歩き回っているのです。

公園の中にある古いブルーの建物はナポレオン3世が150年も前に建てたものだそうで、パリで保存される歴史的建造物にも指定されています。そのような貴重な歴史的遺産の中で、子どもたちのための和菓子教室を行ったのです。

ちょうど同じ時期には、パリの名門料理学校コルドンブルーでも和菓子の指導することになっておりました。教えると決まってからは早速、パリのアパートの一室を借り、講習会の一週間前には現地で和菓子作りの練習を始めました。

いずれの和菓子教室も、電子レンジで簡単に和菓子を作るということが基本でしたから、フランスで使われている電子レンジとパリのお水が和菓子に合うのかどうか気になったためです。日本は軟水ですがヨーロッパは硬水ですので、お水によってレンジの調理時間や和菓子のかたさ・繊細さ・味に違いが出るのではと思ったのです。

30年ものお付き合いがあるベテランのアシスタント、そして娘の暁子が加わり、楽しいパリのアパート暮らしも経験できました。

子どもの作りだす色にびっくり

さて、子どもたちのワークショップの日になりました。言葉の違いという不安もありましたが、子どもたちは明るくとてもお行儀がよく、学ぶ姿勢もしっかりしていました。事前にお干菓子を作るための材料には、黄、赤、緑、白、ピンク色の寒梅粉をボウルに用意しておきました。

私が最初にデモンストレーションをし、桜はピンクのお粉を、松は緑、菊は黄色というように見本を作ってみせました。そのあと子ども達が、好きな和菓子の型に好みの色のお粉を詰めて作り始めたのです。

すると、女の子の一人が、一つのボウルに黄色、赤、緑、ピンク、白のお粉を一緒に入れて手で混ぜ合わせはじめたのです。娘が、“ママ、なにも言わずに見ていましょう”と申しましたので、あとはその子の作り方をじっと見ていました。

固定観念をもって色の使い方の指導をした私は、その子どもの作りだす色にびっくりしました。全部の色を混ぜ合わせることでパステルカラーになり、お干菓子がなんとも言えずきれいにきらきら光って、まるでラメ入りのお化粧品のような色になったのです。

一人一人の子どもたちが懸命に、そして真剣に和菓子を作るときの発想や姿に私は感動を覚えると同時に、多くのことを学ばせて頂いたものです。五感を磨くために一番良いのは、お菓子作り、お料理と言われてきました。

手で作りながら、実際に見て、匂いを嗅ぎ、味わい、ご家族やお友達同士の会話から情報を伝え合うということがとても大切なのです。

そして私は、パリの子ども教育が、小さい頃から五感を磨くことを大事にしてきたことにはじめて納得いたしました。

こうしてあんなに心配していた子ども達の和菓子作りイベントは大成功のうちに終わりました。

低価格なプラスチック製の和菓子型を数十種類開発

ところで、日本での和菓子作りはこれまで、専門の木工職人さんに彫ってもらったとても高価な木型(たとえば、お干菓子用の木型で4万数千円、練りきり用の桜、紅葉、松などの木型でも、1個15000円くらいです)を使いながら何年も修行しないとできない職人技とされてきました。しかも木型を彫るベテラン職人さんは、日本で今や5人ほどになってしまったそうです。そこで私は、みんなが簡単に扱えて、しかもずっと低価格なプラスチック製の和菓子型を数十種類開発いたしました。

これらの型開発には、実に3年以上を費やしましたが、そのおかげでパリでのワークショップもうまく行うことができました。因みに、それらの型のなかで、子どもたちに一番人気だったのはやはり猫でした。いまや世界中が猫ブームです。パリの街を歩いていますと、招き猫が飾られているお店を沢山見ることができ、招き猫はパリでも大人気です。

私は、伝統文化である和菓子の型にも猫があっていいのではという発想から、招き猫、猫の肉球、猫の後ろ姿などをメーカーに作ってもらい、少しずつ広めることができました(この和菓子作り用の道具シリーズはその後、日本プラスチック日用品工業組合から、優秀賞も受賞しております)。

これからはもっと世界中の子ども達に、日本の伝統文化である和菓子をクック膳で教え続けて行きたいと思います。

当日の様子は動画でもご覧いただけます

料理研究家 千葉真知子 パリ・和菓子ワークショップ – YouTube

料理研究家 千葉真知子 パリ・コルドンブルー 講演- YouTube