かつて沖縄が琉球だった時代に宮廷料理のひとつとして供されていたという豚肉料理「はんちゅみ」。シンプルな材料ながら、現代の食卓にのぼることはほとんど無くなってしまった、幻ともいえる料理です。

いったいどんな食べ物?

ネットで検索してもほとんど情報が出てこない「はんちゅみ」。沖縄在住歴10年以上の筆者はもちろんのこと、周囲のウチナーンチュの友人に聞いても「知らない」「初めて聞いた」という返事がくるほどのまさに知られざる沖縄料理です。

文献(※)を調べてみたところ、茹でた豚肉を細く裂き醤油やかつお節で濃いめに味付けした、いわゆる“肉でんぶ”や “肉そぼろ”のようなもので、冷蔵庫などが無かった時代に長期保存のきく伝統食として食べられていたようです。
※『大琉球料理帖(著:高木凛)』:琉球王朝時代の食医学書『御膳本草』を基にして編纂。

基本の材料は豚肉、砂糖、醤油、泡盛、しょうが、かつお節という現代でも簡単に手に入るシンプルなものですが、作るのに手間と時間が掛かることから、徐々に作られる機会が減ってきたのではないかと言われています。

ちなみによく似ている食べ物として、中国・台湾あたりには「肉松(肉鬆)」(読み方はローソン ròu sōng)という食べ物があり、お粥に入れたりパンに塗ったり挟んだりして食べられているそうです。

はんちゅみの作り方

はんちゅみについて調べていくうちに、大きく二通りの作り方があることがわかりました。

ひとつは豚肉を醤油などで煮込みながら味付けした後、冷まして細く割いていく方法と、先に豚肉だけを茹でて細く割いてから、炒めながら味付けをする方法。仕上がりに多少の違いはありそうですが、今回は参考にした文献に沿った作り方をご紹介したいと思います。

必要な材料は豚肉、砂糖、醤油、泡盛、しょうが、かつお節ととてもシンプル。
どれもスーパーなどでも簡単に手に入るものですが、もし泡盛がない場合はこめ焼酎などで代用を。豚肉は脂肪の少ない赤身肉(今回は沖縄でグーヤーヌジーと呼ばれるウデ肉のブロック)を使用します。

はじめに、フライパンなどでかつお節をさっと炒って香りを立たせておきます。文献には削りたてのかつお節とありますが、現代の台所事情ではなかなか難しいので市販のだし用かつお節で代用します。

鍋に豚肉以外の材料をすべて入れて煮立ったら一口大に切った豚肉を入れ、ほろほろに柔らかくなるまで煮込みます。今回は圧力鍋を使用しましたが、無い場合は落し蓋をして弱火でじっくりと気長に。

豚肉の粗熱がとれたら、箸や手を使いできるだけ細かくほぐしていきます。さいごに、一緒に煮込んだかつお節やしょうがも混ぜ込んで完成です。

実際に作ってみると工程としては簡単ですが、煮込むのに時間がかかること、豚肉を細かくほぐすのが大変なこと。一度作ってしまえば長期保存がきくとはいえ、気軽にさっと作れるという料理ではないということを体感しました。

はんちゅみの美味しい食べ方

はんちゅみの美味しい食べ方といえば、なんといっても炊きたてのほかほかごはんにのせて。甘辛い味わいで、ついついお箸がすすんでしまう美味しさです。脂肪分の少ない赤身肉なうえに生姜もたっぷりと入っているので、意外とあっさりいただけけるのも嬉しいポイント。

ここにお茶をかけてお茶漬けのようにして。薬味として冷奴などにのせればボリュームのある副菜として。野菜と一緒に炒めれば立派な主役おかずになります。基本の材料に、白ごまやにんにく、辛子高菜などいろいろ加えてアレンジしてみるのもおすすめです。

ごはんのお友として冷蔵庫に常備しておきたいはんちゅみ。琉球の先人の知恵を今に伝える食文化のひとつとして、これからも大切にしていきたい伝統食です。