「おでん」といえば、かつては居酒屋の顔役であり、冬の風物詩でもあったが、コンビニで通年商品となったいまや、外食メニューとしての存在感はイマイチ。主役ではなく季節料理でもない中途半端な位置付けにある。そんな停滞に喝を入れたのが「たこ焼とおでん 池下」の「浅蜊おでん」だ。定番を劇的に昇華させた単純明快な「ダブル炊き」は、ブラッシュアップを模索する同業者の大きなヒントになろう。

アサリの風味をおでんに加味

「浅蜊おでん」は、アサリのおでんではなく、アサリの風味をおでんに加味した創作おでんだ。アサリの身が味わえ、殻の見栄えも良いので、普通のおでんに「香り・味・見栄え」の三拍子が付加されたといえる。ただし、「単にアサリを加えているだけ」と侮ったら、それは大間違い。アサリの濃厚なだし感と上品な香りを両立させる「ダブル炊き」が調味の決め手だ。

「おでん6種盛り」(大根170円、焼とうふ170円、鱧の平天250円、厚あげ170円、蘭王卵170円、こんにゃく150円)。「たこ焼き・ねぎしょうゆ」(400円)、「浅蜊汁」(700円)、いずれも税抜き。ヤカンは2Lのビールピッチャー。金属ボウルに氷を敷き詰めて提供し冷えたビールが持続

おでんとアサリを合わせるのは提供直前。まず、アサリを水(酒・塩・昆布入り)に入れて炊き出し、アサリ汁として仕込んでおく。そして、おでんの注文が入ると、アサリ汁の汁だけを小鍋に移し、新たな生アサリを加えて追い炊きし、皿に盛ったおでんに上がけする。つまり「仕込み炊き+追い炊き=ダブル炊き」というわけだ。

池下裕貴店主は「仕込み炊きは濃厚だけど香りが落ちる、炊きたては香りは立つけどだし感が弱い。それらを両立させる妙策です」と明かし、「おでんの持ち味を壊すことなく、アサリの心地よい風味が加味され、アサリの身もふっくら、鮮度感の演出にも好適です」と説く。

開店直前にアサリ汁を仕込む池下店主

浅蜊おでん目当てにリピーターも

アサリは形が大きく味が豊かな三重・静岡県産を愛用。アサリ汁の仕込み炊きに使う分量は、アサリ2kgに対し12L。追い炊き時、おでん1個に対し新たなアサリ2~3個を投じる。

アサリ汁は、単品「浅蜊汁」(700円)として提供しており、締め汁として人気。さらに、汁を「たこ焼き」(各種300円~)の生地だしにも活用しており、こちらも「魚介風味が濃厚」と好評だ。

開業は昨年1月。海鮮居酒屋で6年の経験を積んだ池上店主が「蛸焼とおでん くれ屋」(大阪市西区)で現在の調理方法を学び、リスペクト出店した。路地裏の目立たぬ小規模店のため、開業から夏場にかけて苦戦したが、おでん目当ての一見客が秋から増え始め、「浅蜊おでん」に魅せられたリピーターが着実に増加。現在は1日平均100~120人を集客する人気ぶりだ。

東梅田・阪急東通り商店街の路地裏に立地
【店舗情報】
「たこ焼とおでん 池下」
所在地=大阪市北区堂山町3-17 堂山町ビル1階
開業=2017年1月
坪数・席数=13坪・30席
営業時間=18時~翌5時。無休
平均客単価=2500円
1日平均集客数=100~120人
客層=会社員、男女比5対5

◇外食レストラン新聞の2018年4月2日号の記事を転載しました。