京都出身で調味料研究家の松本葉子です。
京ことばでは、食べ物にも「お」や「さん」をつけて呼ぶことも多く、例えば、いなり寿司は“おいなりさん”と呼び習わされています。
毎月17日は、「い」「な」の語呂合わせで、いなり寿司の日とのこと。
今回は、京都のいなり寿司の特徴と食べ方についてご紹介しましょう。

そもそも京都のおいなりさんってどんなもの?

まず、関東のいなり寿司とは形が違います。
関東のいなり寿司は正方形の油揚げを縦半分に切った長方形の中に寿司飯を詰めますが、京都をはじめとする関西では、油揚げを対角線に切った、つまり三角形の油揚げを使って角が立った形に仕上げます。
ちなみに、京都では油揚げのことも“お揚げさん”と呼び、これを甘めの薄味に煮上げて使います。

そして詰める酢飯に具が入っているのも京都のおいなりさんの特徴です。
家庭では、煮た椎茸、干瓢、にんじんなど好みの具をいれて作ったばら寿司(ちらし寿司)を詰めることも多いですが、寿司店などのおいなりさんに入っていることが多い具のベスト3は、1)黒胡麻 2)ごぼう 3)麻の実(京都では苧実(おのみ)と呼ぶ人が多い)です。
家庭でもこの3つは入れることが多いですね。

この中で3)の麻の実はあまりなじみがないかもしれませんが、「七味唐辛子に入っている極小のラグビーボール型の粒」といえば思い当たる方もいらっしゃるかも?
煎ってあるので香ばしく、ぷちぷちっとした食感が特徴です。

ちなみにこの麻の実、“京の台所”と呼ばれる錦市場の乾物屋さんで買ってきたものですが、「おのみください」って言ったら、店の人に「おいなりさんつくらはるの?」っていわれましたよ。

伏見稲荷大社とおいなりさんの親密なカンケイ

全国に約3万社あるという稲荷神社の総本宮が京都の伏見稲荷大社です。
初詣はもちろんのこと、通年多くの参拝者で賑わい、最近では「外国人に人気の観光スポット」の第1位にも選ばれています。

その伏見稲荷の参道にある飲食店では、古くからおいなりさんが売られてきました。
テイクアウトだけでなく店の中で食べることもできます。
参拝帰りの休憩や小腹が空いた時にもおいなりさんは気軽に食べられますし、ファストフード的にも楽しめて、参拝土産に買って帰るにも適しています。
下の写真は、稲荷参道で100年近く続く食堂『花家』の稲荷寿司です。

稲荷大神に仕えるキツネの好物が油揚げなので「いなり寿司」と呼ばれているそうですが、茶色い三角形がキツネの耳に似ているからという説も。
それを聞くと、三角形の京都のおいなりさんがなんだか可愛く思えてきます。

手土産や楽屋見舞いなどにも重宝する一品

京都では手土産においなりさんを使う人も多いのです。
先様の人数にあまり左右されず、分けやすく、すぐに食べられるけれど常温で保存もでき、相手の負担にならない価格のものということで、手土産にぴったりなのですね。
食事時にかかる訪問や、お菓子を手土産にしたくないという時にも重宝します。

また、南座に出演している役者さんの楽屋見舞いにも使われますし、祇園でお茶屋遊びをする粋人が舞妓さんや芸妓さんへの差し入れにおいなりさんを持って行くということも。

そういう時に選ばれるのは祇園の「いづ重」のものなど、もらった人が「あぁあそこの」とわかって喜ぶ名店のおいなりさんです。

つまみやすく、女性にも食べやすい小ぶりなおいなりさんを折り詰めにしてもらったり、お重に詰めてもって行く、あるいは、おもたせをお客さんと一緒に味わうというのは、京都らしい食べ方といえるでしょう。

おやつやお茶請けとして、また、気の利いた手土産としても使える京都のおいなりさん、是非楽しんでみてください。