「魔法が使えたらな…」。誰でも一度は思ったことがあるのでは?『魔女の宅急便』の作者として知られる角野栄子さんが今年出版したエッセイ集『角野栄子の毎日いろいろ』には、飾らない、気張らない魔法の生活がつづられています。“いちご色”の鎌倉のお宅にお邪魔し、美しい大人になるためのレシピを伺ってきました。

庭で採れたみかんでジュースをつくるのが楽しみ

鎌倉に住み始めたのは16年前です。特に理由はないのですが、小さい頃から何度も来ていて、なんかいいと思って越して来ました。生まれは東京・深川で、鎌倉の前は中野に住んでいたの。でも、東京は広すぎる。いまは、鎌倉で自然のままに暮らすことを楽しんでいます。

ここに家を建てる時から、テーマカラーは「いちご色」と言うようになりました。建築家の方に、何色にしますか? と聞かれたから「いちご色」って。「赤」より分かりやすいでしょう?

庭にみかんの木があって、この辺りの方々は食べないようですが、私はジュースをつくるのが楽しみです。ただ酸っぱいだけ。でもシャキッとするの。

この家で、作品の登場人物や、彼らが住んでいる街や風景を想像するのはとても楽しいですよ。

これまでで一番おいしかったのはイスラエルのフムス

海外にはあちこち行きましたね。25歳の頃、夫とブラジルに2年間住んだことも。ブラジルの食事は日本人も大好きだと思います。特に、ボリーニョ・デ・バカラオ(干しダラのコロッケ)は、とてもおいしかったです。このバカラオとゆでたじゃがいもを、にんにくとオリーブオイルで食べることもあります。

肉はたくさん食べます。ステーキにハンバーグ。ハンバーグは煮込みにすることが多いですね。トマトで煮込んだり、ワインを入れたり。ハンバーグにはにんにくを入れて、刻んだパセリをたくさん中に混ぜ込んでいました。これがおいしいんです。

いまはブラジルでも野菜をたくさん食べています。これは日本人の移民のおかげ。日本人が行ってから野菜が食べられるようになったし、柿やりんごなどの果物も食べられるようになった。それでブラジルの食生活は豊かになったと思います。

これまでで一番「おいしい」という記憶が残っているのは、イスラエルのフムス。ベツレヘムから死海までの道を旅した時に食べたものです。ひよこ豆のディップのような感じ。自分でもつくれそうだったけれど、あの味はなかなか出せないわね。

その次は、ブラジルで食べたクレソンだけのサラダ。日本のクレソンよりやわらかくて葉が大きいの。葉をつまんでこしょうをしてフレンチドレッシングであえるだけ。忘れられない味です。

よく切れる包丁で切ったものは、格別においしいの!

私は、何でもシンプルなものが好き。そして気持ちのいいもの。だから料理も凝ったものはしません。「○○だけ」という料理が多いです。キャベツだけとか、にんじんだけ、じゃがいもだけ、というように。その方がその野菜の味が際立つ感じがするの。

ただ、包丁だけは、よく切れるものでないとダメ。理由? スパッと切れた方が気持ちがいいでしょう? キャベツは、手でちぎってもおいしいけれど、よく切れる包丁で切ったものは格別においしいです。

調味料も、うちには黒こしょうとマスタード、和がらしとわさびがある程度。だから、ディップやドレッシングもその都度、あるものでつくっています。

たいてい、残ったものってあるでしょう? 使い切っちゃいたいものとか。そんな残り物を入れてディップにしちゃいます。その時の気分次第。昨夜はポトフをつくって、マスタードでおいしくいただきました。たまねぎとカニかまが余っていたから、それをサラダにして。

「ないないのときのジュース」というレパートリーもありますよ。何にもない時に余ったバルサミコ酢でつくってみたの。だから、そのままの名前を付けました。

意外と余りがちなしょうがを使った「ジンジャーチャーハン」もオススメ。新しょうがの季節なら新しょうがで。ひねしょうがでも、量を少なくすればおいしくできますよ。

<プロフィール>
かどの・えいこ 東京都出身。早稲田大学教育学部卒業後、出版社に勤務。25歳の時にブラジルに2年間滞在。その時の体験をもとに描いたノンフィクション『ルイジンニョ少年ブラジルをたずねて』で作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』(1985年)は野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。1989年、宮崎駿監督によってアニメ映画化された。2016年には『トンネルの森 1945』で第63回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞。

『魔女の宅急便』が生まれた魔法のくらし 角野栄子の毎日いろいろ

角野栄子 著定価:本体1480円+税発行:株式会社KADOKAWA

ジンジャーチャーハン

<材料・2~3人分>
・新しょうが……………350g(ご飯の約3分の1くらい)
・炊きたてご飯…………茶碗3杯分
・白いりごま……………適量
・油、しょうゆ…………適量
※しょうがとしょうゆの量はお好みで

<作り方>

  1. 新しょうがはたわしでよく洗い、皮の汚いところをむく。適当な大きさに切り、フードプロセッサーで米粒くらいの小さなみじん切りにする。なければ包丁でできるだけ細かくきざむ。
  2. (1)をざるにとり、ざっと水を通す。
  3. フライパンに油適量を熱し、(2)を加えて炒める。油がまわったらご飯を加え、さらに炒め合わせる。ご飯が香ばしく炒まってきたら鍋肌からしょうゆをひとまわしし、ごまを加えてざっと炒め合わせる。

ないないのときのジュース

<材料・1人分>
バルサミコ酢、水(または炭酸水)、氷、はちみつ……各適量

<作り方>

  1. グラスに水を入れ、バルサミコ酢を適量入れ、水または炭酸水をそそぐ。
  2. よくかき混ぜて飲む。すっぱすぎるようだったら、はちみつを加えても。

レシピは『角野栄子の毎日いろいろ』から。
撮影=馬場わかな

◇百菜元気新聞の2017年12月1日号の記事を転載しました。