京野菜農家に取材に行く度、栽培の大変さや野菜への愛情がよくわかり、「もっと大切に、もっとおいしく食べなければ」と改めて思う調味料研究家・松本葉子です。
毎月17日は国産なす消費拡大の日ですが、なすのシーズンといえばやはり夏から秋。京野菜の代表格ともいえる賀茂なすを筆頭に、おいしいなすがたくさんある京都の食べ方をご紹介しましょう。

まずは京野菜のスター賀茂なす。ホンモノは高価だけど、味わいもゴージャス!

賀茂なすは丸なすの一種で、古くから京都市の上賀茂地域の特産野菜です。実はこの賀茂なす、現在は上賀茂以外の地域でも作られていますが、栽培が難しく手間がかかる野菜なので、手がける農家はそれほど多くありません。

そのこともあって、果肉がしっかりしていて形や色も見事な賀茂なすとなると相当高価。京都の人でも普段のおかずには滅多に使えない高級野菜です。

賀茂なすはほぼ球形で、がくの下は白~薄緑色。1個250g~400g程度のものが多いですが、500gを超えるものもあります。他のなすと比べると果肉が緻密なので、大きさに比して重量があるのです。手に持つと、見た目以上にずっしりと感じるでしょう。

切ってみるとこんな感じ。果肉がきめ細かで締まっているのがわかるでしょうか?賀茂なすはこの肉質を生かした料理で味わうのがおいしい食べ方です。

賀茂なすと油は不思議なカンケイ。それを生かした食べ方がポイント

賀茂なすは田楽や揚げ出しにして味わうことが多いです。大きいため、家庭では切り分けて使うことも普通ですが、料理店では丸い形を生かした一品に仕立てられたりします。

ところで、他のなす同様、賀茂なすも油との相性が抜群。しかも、肉質がスポンジ状で油をどんどん吸収してしまう他のなすとは異なり、賀茂なすは油焼きしたり揚げたりしても油を吸いすぎないという特徴があるのです。これは果肉の緻密さによるものです。

昔から京都の人は、賀茂なすは油を使って料理するとおいしさが増すけれど、しつこくはならないということを知っていたから、それに応じた食べ方をしてきたといえるでしょう。

そんな賀茂なすは、昨今ではフレンチやイタリアンでもよく使われています。肉にもよく合うし、洋風のソースも賀茂なすのうまみをひきたてるんですね。

賀茂なすが手に入ったら、時にはオリーブオイルでじっくりグリルして賀茂なすのステーキを作ってみませんか?とろけるような味わいで、野菜とは思えないボリューミーなメインになりますよ。

京都に来なければ味わえない!? 地産地消の逸品・山科なす

京山科なすは賀茂なすと同じ「京の伝統野菜」「京のブランド産品」に認定されていますが京都以外ではあまり知られていません。

京都市の東部に位置する山科エリアで古くから栽培され、味が良いことでも知られていた山科なすですが、栽培が難しいこともあって、作る人は減っていきました。
この山科なすを品種改良したのが現在の京山科なすで、今ではその大部分が山科以外で栽培されています。

京山科なすは下ぶくれでころんとした形。皮がとても薄く、肉質も柔らかいのが特徴です。手にとってみると、普通のなすよりも皮がしなやかなのが実感できます。しかしその分、傷みやすいため流通には不向き。だからこそ多くが京都府内で消費されているのです。

皮と果肉の柔らかさを満喫する食べ方が山科なすの身上

元々柔らかな京山科なすですが、熱が加わるといっそう柔らかくなり、味もよく浸みます。だから煮物に最適。よく知られた京のおばんざいである身欠きニシンとなすの炊き合わせ「にしんなす」も山科なすで作るのがおいしいといわれてきました。

薄味をつけただしで煮るだけでも他のなすとの違いはわかりますよ。下の写真では飾り包丁を入れていますが、皮が柔らかいので包丁目を入れなくても食べやすく、だしをたっぷり含んだ果肉はとろんととろけるような味わいとなります。

また、ぬか漬けにしてもとてもおいしいなすです。

注目のニューフェイス。思わず手にとってしまう形の伏見ひもなす

最近、京都の直売所などで見かけるようになったのがこの伏見ひもなす。伝統野菜ではありませんが、「伏見」と冠されているので、京都市の南部、伏見区あたりで栽培されているようです。

直径2㎝、長さが30㎝あまりという、まさに紐のようなフォルムの茄子で、皮は鮮やかな紫色、切ると真っ白な果肉が現れます。

筒切りにできるからおいしさ引き立つ「ひも」の実力

見かけのインパクトが大きい伏見ひもなすですが、味もなかなか。使う時はぶつぶつと筒切りにするのがおすすめです。筒切りだと乱切りにした時よりも果肉の露出面積が少ないのでアクもでにくく、また皮の中で蒸し焼き状態で熱が入ることによって、とろりとした果肉の食感も楽しめます。

伏見ひもなすも油との相性が良いので、天ぷらや麻婆茄子にぴったり。色の美しさを生かして夏野菜カレーに使うのも良いですね。

なすの個性を生かす京都の食べ方をヒントにして、国産なすをおいしく食べよう

京料理や精進料理の文化が息づく京都では、野菜を大切にします。その中でもなすは重要な地採れ素材。だからこそ、なすの種類に応じた食べ方をする伝統があります。

旬の時期は、さまざまな国産なすを手に入れるチャンス。時には普段使わない種類のなすや食べ方で、食卓を彩ってみてはいかがでしょうか。