がんで入院中に毎日飲んだ妻のにんじんジュース…中村獅童さん
古典を守りつつ革新を追求するお茶目でナイーブな歌舞伎界の異端児、中村獅童さん。10月公開映画『みをつくし料理帖』で、主人公・澪と幼馴染みを料理でつなぐ又次を演じています。鋭い眼差しの奥に深い優しさを湛える又次の人気は高く、内面の強さと弱さを同時に表現できる獅童さんが見せる芝居に期待が寄せられています。又次に負けず劣らず料理好きの獅童さんが、野菜への想いを語ってくれました。
子ども時代のヒーローは豆腐屋 息子の大好きなおもちゃは野菜です!
長男(4歳)は野菜の動画が大好きです。トマト、レタス、キャベツ、なす♪ 野菜の名前をたくさん知っています。好きな食べ物が野菜なら、おもちゃも野菜。包丁&まな板と、マジックテープの付いた切れ目がある野菜と果物。切って遊ぶのが、ものすごく好きなんですよ。
これって僕の影響なのかな? 自粛期間中は家でずっとキッチンに立っていました。息子も手伝いたがって、大好きなトマトサラダをつくりました。実は、僕の子どもの頃の夢は、お豆腐屋さん。真っ白い豆腐を水の中からすくい出すあの手つき、カッコイイですよね。シンクに水を張って、豆腐屋になりきって遊んだものです。
その幼児性がいまだ抜けず、合羽橋で「営業中」「準備中」という札を買い、家でおでん屋を開業します。妻もお客になりきってくれますよ(笑)。もちろん「予約席」も用意してね。
歌舞伎公演は7月まですべて中止になりましたが、もしも家族がいなかったら、どうやって乗り越えていたんでしょう。もしも仕事しかなかったら、ちょっと自信ないな。こうして家族みんなでおいしい野菜を食べて、笑顔でいれば、10年後も20年後も、日本はずっと豊かなはずです。
人と人とをつなぐのが「食」 亡き母の冷凍ビーフシチュー
人と人をつなぐ料理として思い出すのは、母のビーフシチュー。亡くなった後、冷凍庫に母がつくったビーフシチューが見つかりました。よく母と笑い合いながら食べた僕と妻の大好物です。作り手はもういませんが、料理に込められた想いがしっかり残されていました。母の料理は、僕の身体の一部となり、この世を生き抜くために必要なものを育んでくれました。
また、料理はつくる人によって味が違います。その人の人柄や生きざま、人生観がそのまま料理に出る。どんなものを食べて生きてきて、何を美味しいと感じるのか。その人そのものが料理に出るのでしょう。
原作で澪も語っていますが、美味しい、というのはただ味のみで決まるわけではない。その料理に宿る思い出も美味しいを大きく左右するものだ、と。寒い日の汁物など、心が込められた料理からは作り手の想いが伝わってきますよね。
がんになって向き合った本当の自分 俺の人生、ラッキーかも?
僕が料理好きなのは元来、人に喜んでもらうことが好きだから。なかでも最高にうまそうに食べてくれるのが妻です。彼女とは何を食べても美味しい。実は、彼女の最初の妊娠が分かった3日後、僕に初期の肺腺がんが見つかりました。抗がん剤治療も受けながら、新しい命を迎えるために、絶対生き抜いてやろう!って。だからよく食べるのが野菜です。入院中、妻が毎日つくってくれたのが、にんじんジュースでした。
2018年に完全復活宣言した時の雑誌インタビューでも話したのが、「これで今までとは違った芝居ができるかもしれない」「あ、この気持ちは忘れないでおこう」とか、「“せっかく”がんになって、同じ年に子どもが生まれるなんて、俺の人生ラッキーかも」と。
「食は人の天なり」。食は人々の命をつなぐ最も大切なものという意味です。とくに野菜は大事! 健康に生きるためには絶対に必要なものです。
<プロフィール>
なかむら・しどう 1972年、歌舞伎の名門の家に生まれる。父親の初代獅童が役者を廃業し、後ろ盾のないまま母親と二人三脚で精進。81年、歌舞伎座で初舞台を踏み二代目中村獅童に。故中村勘三郎(18代目)が稽古中、群衆の1人を演じていた獅童の光る才能を見いだす。名の由来は「獅子のように激しい魂を持ち、童心を忘れない」。幅広い演技力でドラマ・映画・舞台で活躍中。
映画『みをつくし料理帖』全国公開中!
story:時代は享和二年の大坂。8歳の澪と野江は仲の良い幼なじみ。そんな2人が大坂の大洪水で生き別れる。舞台は江戸の神田に移り、別々の人生を歩む2人が強い絆で引き寄せられるまでを描いた、涙なしでは見られない物語。
出演:松本穂香 奈緒 若村麻由美/石坂浩二(特別出演)/中村獅童
製作・監督:角川春樹
脚本:江良至、松井香奈、角川春樹
原作:高田郁『みをつくし料理帖』(角川春樹事務所)
◇百菜元気新聞の2020年10月1日号の記事を転載しました。
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