デカ盛り、メガ盛りといった大盛りは根強い人気がある。普通盛りの2倍も3倍も量を多くして大きな器にうず高く、あるいはこぼれんばかりに盛り付けたものが多い。そんな中、増量だけではなく、アート作品のような美しい盛り付けで職人技を披露しているのが「深川 つり舟」の「特上海鮮丼」だ。

「深川 つり舟」の湊実店主は銀座の老舗寿司店をはじめ、深川の割烹料理店やフグ専門店で修業を積んだ職人。フグ調理師免許も取得している。

大盛りの海鮮丼
「特上海鮮丼」 2900円(税込み)美しさと量の多さを両立。大盛りにありがちなゴテゴテ感はみじんもない。刺身が丼の縁から出ても垂れ下がらないようにするのが店主のこだわり。ご飯の量は440g、刺身は420g。味噌汁、小鉢、香の物が付く。味噌汁はお代わり無料

その腕を買われて同店の店主に抜擢されたが、運営会社の経営不振で系列店が次々に閉店。同店も存続が危ぶまれたが、湊店主が店を買い取るという勇断を下したことで現在がある。

とはいうものの、同店がある「国立」は大学と住宅街がメインで、回転寿司は、はやっても板前が握る寿司店は厳しい。そこで思い切って寿司を断念し、丼物を中心とした定食の店に業態を変更した。

ご飯
地元の大学の学生に「お腹いっぱいになってほしい」とご飯も増量

「最初は『定食屋か…』とへこみましたね。なんのために寿司職人としての修業を積んできたのか、丼物なんか誰でも作れる。でも店を続けて行くためにはやむを得ない選択でした」と湊店主。が、ありきたりの丼物を作るのは職人かたぎが許さず、盛り付けに腕を振るった。同店の丼物は、「特上海鮮丼」に限らず盛り付けはどれもビシッと決まっている。

刺身の盛り合わせ ご飯
刺身の並び順は隣り合わせの配色を考えて決める

「特上海鮮丼」誕生のきっかけは、毎晩欠かさない“夫婦晩酌”の会話にある。すでに普通の「海鮮丼」はあったので「“特上”というのがあってもいいんじゃないの?」と女将の由紀江さんが提案。「ネタを少し多くする程度かと思ったら、作るたびに盛り付けるネタがどんどん増えて、気付いたらこうなっていたんです」と由紀江さん。

天丼
「場外天丼」2000円(税込み) アナゴ、エビ、キス、イカ、その他野菜いろいろの大盤振る舞い。アナゴの天ぷらは35cmもあるが、両端が垂れずにピシッとしている

大盛りだと、見た目を気にせず、とにかく量を多く盛り付けることを優先しがち。だからこそ、見た目と量を両立させた「特上海鮮丼」が注目されるというわけだ。

ネタの大盤振る舞いに原価率が気になるが「そこはどんぶり勘定なんです」と笑う。店主夫婦の人柄もメニューをパワーアップさせているようだ。

●店舗情報
「深川 つり舟」 所在地=東京都国立市1-15-18 白野ビル2階/開業=1989年5月/坪数・席数=27坪・41席/営業時間=11時~14時30分、17時~21時30分。日曜休/平均客単価=1500円/1日平均集客数=平日40人、土曜120人

◇外食レストラン新聞の2022年1月3日号の記事を転載しました。