カレーは日本人の国民食といっていいだろう。市販のルウを使えば家で簡単に作ることができ、レトルトならもっと手間なしだ。わざわざお店で食べるなら、家では食べられないものが求められる。「幸正」の「ビーフカレー」は、その要望をはるかに超えた感動を与えてくれるメニューだ。

お客さんに愛情を伝える一品

「幸正」のビーフカレーは、見慣れたカレーのイメージとはかなり違う。見た目だけではなく、作り方自体が一般的な欧風カレーや今はやりのスパイスカレーとは異なり、牛テールでだしをとったスープにスパイスを合わせて作る。

「牛テールは、ラーメンで例えるなら豚骨や鶏がらの役割。だしをとったら取り出して、具にはしません。肉を具にして一緒に煮込むと肉の臭みが残る。だから、スパイスでその臭みを隠すんですね。うちのカレーは、あえてスパイスの量を控えめにして、牛テールの風味を引き立たせています。だしをしっかりとったスープだからこそルウにコクが出るし、スパイス本来の香ばしさが引き出せる。和食の“だし文化”をカレーに生かしたのが『幸正』のカレーです」と店主の横山義(つとむ)さん。

ライスはセルクルで型抜きする

8L分のルウを作るのに、だし用として牛テール約2kgと国産の牛すじ約400gを使用。それとは別に、具として赤ワインで煮込んだ牛ばら肉を使う。原価率が5割近くになるが、材料費はケチらない。

赤ワインに一晩漬けた牛ばら肉を赤ワインごと炊き、醤油ベースのタレに絡めてライスの上にのせる

「材料費を抑えて利益を出すのではなく、他の支出を抑えてトータルで経営を成り立たせています」。その一つがゴミの削減。ゴミの量を減らすことで処理コストを抑えている。また、オペレーションをシンプルにして、スタッフの数を減らすことで人件費を削減。材料費を落とさず利益を確保する努力を怠らない。

「自家製・ポテト&ピクルス」(200円)。カレールウには「牛テールのコクとスパイスの風味がぼやける」との理由からジャガイモを加えない。ジャガイモはシャドークイーン、ノーザンルビー、メークイーンを使用

「どんな商売でも『お客さんに喜ばれる』ことを目指していると思いますが、中でも飲食業は、お客さんに愛情を伝えやすい商売だと思うんです。お母さんが家族のためにご飯を作るような気持ちで、お客さんに料理を提供したいと思っています」。「幸正」のカレーは、その愛情が伝わってくる一品だ。

●店舗情報
「幸正」
所在地=東京都港区新橋5-8-13
開業=2016年10月
坪数・席数=5坪・8席
営業時間=午前11時~午後3時、午後5時30分~午後10時、土祝午前11時~午後3時、午後5時30分~午後8時。日曜休
平均客単価=昼1200円、夜1500円
1日平均集客数=40~50人

◇外食レストラン新聞の2021年3月号の記事を転載しました。