「食」をテーマにした映画『種まく旅人』シリーズの4作目となる『種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~』が4月2日から公開されています。今作は石川県金沢市の伝統野菜「加賀れんこん」がテーマ。実家のれんこん畑の後継ぎ問題に悩む銀行マン・山田良一を演じた平岡祐太さんが、撮影現場での話や作品の見どころ、オススメのれんこん料理について語ってくれました。

れんこん畑のシーンは歩くのも一苦労 撮影を通して農業の大変さを実感

この作品の撮影をしていたのは、2019年9月頃。それまで、れんこんについて考えたこともなかったですし、正直、水中で育つことも知らなかったですね(苦笑)。

れんこん畑のシーンは、たっぷり水が張ってある泥の畑の中、胸あたりまで浸って演じなければいけないので、最初は歩くのさえ大変でした。べた足で歩いてしまうと長靴が埋もれて抜けなくなってしまうので、つま先立ちで歩かなければいけないんですよね。でも、子どもの頃、砂場で泥遊びをしていたのを思い出して、泥で汚れていくのも楽しかったです。時々、スタッフさんが転んで泥まみれになると、みんなで笑ったり。撮影後半には慣れてきて、畑の中で座ったり、心地良い姿勢もとれるようになりました。

畑での撮影は4、5日でしたが、実際、農家の方はこうした畑作業が続くので、足腰が強くないといけないし、本当に重労働だと思いました。

今回の撮影を通して感じたのは、自然と一緒に歩んでいく農業という仕事は、本当に大変だということ。休みの時期でも、何か起きるんじゃないかと思うと、きっと心がそわそわしますよね。

お話を伺った農家の方は加賀れんこんの価値をもっと高めるために、新しい価値観で農業に取り組もうとしているアグレッシブな方でした。常に新しいことにチャレンジしようとする姿は、年齢問わず、かっこいいなと思いましたね。

農業に興味を持っている人の背中を押せるような作品に

この作品のテーマの一つは、農業の跡継ぎ問題です。僕が演じた良一は、父親が倒れたことで、実家の畑を引き継ぐか売却するかの選択を迫られるんですよね。きっと、現実が急に押し寄せてきた感じなんだろうなと。いま、自分のやりたいことができているのは、両親が健在でいてくれるからこそ。現実というよりは、夢を見ているような感じなのかもしれないですね。もし、両親が働けなくなってしまったら、環境も自分がやるべきことも変わってくるんだろうとは思っています。

映画の中には農業で活躍する女性、通称「農業女子」も登場します。農作業用の洋服などがかわいいと、農業女子もより輝けますよね。町の開かれた場所で農業ができたり、農業が出会いの場になれば、もっと若い人が集まるのかもしれないですね。そうした問題を題材にしているので、農業に興味を持っている人の背中を押せるような作品になればいいなと思っています。

この映画は、先日亡くなられた綿引勝彦さんの遺作でもあります。現場で感じていたのは、綿引さんのお芝居にかける魂の情熱。ずっと熱く向き合って演じてこられていたからこその雰囲気がビシビシと伝わってきて、本当にすごいなと思いましたね。

今回、演じる上でとくに気を遣ったのは、必然的なことが起こるシーン。より真実味が出るように、時に監督とけんかになるくらい話し合って、意識的に細かく、センシティブに演じました。

心温まるヒューマンストーリーの中には「こんなことがあったら素敵だな」と思えるシーンもあります。はい、れんこん畑での出来事です。自分は映画を観ている時、夢がある場面でわりとキュンとしちゃうタイプです(笑)。この場面、そんな風に楽しんでもらえたらうれしいです。

映画『種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~』

もちっとしていて、粘り気がある農家の方の「れんこんの素揚げ」、最高です

農家の方はみなさん優しくて、「自分の畑でつくったれんこんを食べてみて」と、撮影中はたくさんれんこんをいただきました。毎日のようにれんこん料理を食べていたのですが、中でもおいしかったのは、れんこんの素揚げ。加賀れんこんは、もちっとしていて粘り気もあるので、素揚げにするだけで十分おいしいんですよね。

お弁当の中に入っていて印象的だったのは、れんこんの輪切りの上に、しいたけの傘を丸ごとのせた揚げ物です。ソースにつけて食べるのですが、すごくおいしくて。こんなれんこん料理を食べたことがなかったので、忘れられないですね。

時々、自炊をすることもあります。最近はもっぱら鍋料理が多いのですが、一時期ハマっていたのが、いろいろな野菜のマリネ。アボカド、エビ、パプリカ、赤紫のたまねぎ、オクラなど、5種類ほどの素材を使ったマリネをよくつくっていました。

昨年の自粛期間中には、れんこん料理が食べたくなって、思いついたのが、「れんこんのきんぴら」を混ぜたごはん。スーパーで買ってきた「れんこんのきんぴら」をみじん切りにして、シャキシャキ感を残した状態で、アツアツのごはんに混ぜるだけ。これが、めちゃくちゃおいしいですよ。絶対、僕が最初に考えたレシピではないと思うんですけど(笑)。この映画の撮影を通して、れんこん愛が芽生えてきたのかもしれないですね。

<プロフィール>
ひらおか・ゆうた 1984年9月1日、広島県生まれ。2002年「第15回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、芸能界入り。2003年にドラマ『ライオン先生』で俳優デビューし、2005年には映画『スウィングガールズ』で第28回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、話題のドラマや映画、舞台に出演。
※ヘアメイク:MIZUHO(vitamins) スタイリスト:石橋修一
衣裳協力:Iroquois/イロコイヘッドショップ(渋谷区恵比寿南3-8-3、TEL03-3791-5033)

映画『種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~』

Story:大阪で銀行マンとして働く山田良一のもとに、故郷の金沢でれんこん農家を営む母から「父親が脳梗塞で倒れた」と話が入る。父が倒れたことにより、畑を引き継ぐか売却するを迫られる良一。結婚を考えている恋人・凛のこともあり、ななか決断できない。そんな中、農林水産省かられんこん農の視察として神野恵子が金沢へとやって来る…。優しく温かく、大切な人に逢いたくなるヒューマンストーリー。

[キャスト]栗山千明 平岡祐太 大久保麻梨子 木村祐一(特別出演) 永島敏行 綿引勝彦 ほか
[監督]井上昌典 [脚本]森脇京子
(C)2020 KSCエンターテイメント

◇百菜元気新聞の2021年3月1日号の記事を転載しました。